デムソ一人だとかなりギリギリであったが盾を使って防御に徹すればなんとか持ち堪えられていた。
 回帰前もこんな感じだったはずだがこのままではデムソがやられてしまいそうな感じすらある。

 どうやって乗り越えていたのか思い出せない。

「まあ少し助けてやるか」

 怪我でもされたら面倒だ。
 少し息をつく暇ぐらい与えてやろうとイースラ足元にあった石にオーラを込める。

 カメラアイが揺れないように気をつけながら赤いケイブアントに向かって石を蹴り飛ばす。
 魔力を帯びてほんのりと光る石が真っ直ぐに飛んでいく。

 オーラを込めれば石でも立派な凶器になる。
 石が赤いケイブアントに当たってほんのわずかだがひるむ。

 ダメージはないだろう。
 けれども息つく間もなく攻撃を受けていたデムソにとっては少しでも体勢を立て直す貴重な時間となった。

 黒いケイブアントも減ってきている。
 バルデダルが上手く立ち回ってポムのフォローを入れている。

「二人とも、俺から離れるなよ?」

「離れてないよ」

「もちろん勝手なことなんてしないぜ」

 イースラはサシャとクラインの位置を確認する。
 二人とも特に離れているわけではないが改めて近くにいるように言っておく。

 そうしている間に黒いケイブアントの数が減ってベロンがデムソに加勢する。

「燃えてしまいなさい!」

 黒いケイブアントが全て倒されて赤いケイブアントとの総力戦になる。
 ベロンたちが攻撃を強めて赤いケイブアントを引き付けてスダーヌが全力で魔法を放つ。

 赤いケイブアントに大きな火の玉が直撃した。
 火の玉そのものでは大きなダメージがなかったけれど火の玉が爆発して赤いケイブアントが炎に包まれる。

 表面が硬くとも炎に包まれて中に熱がこもればただでは済まない。
 赤いケイブアントは激しく体を動かして炎を消そうとするが魔法の炎はそう簡単には消えない。

 ベロンたちは暴れる赤いケイブアントから距離をとって様子をうかがう。

「……死んだか?」

 だんだんと赤いケイブアントの動きが鈍くなっていき、最後にか細く鳴いて動かなくなった。
 デムソが盾を構えて赤いケイブアントに近づいて剣でつつく。

 炎も消えたが赤いケイブアントは動かず完全に死んでいた。

「ふう、これぐらいならなんとか行けそうな……」

「な、なんだ!?」

「揺れてる……!」

 赤いケイブアントを倒してホッとしたのも束の間、急に地面が揺れ出した。

「サシャ、クライン、こっち来い!」

「えっ……」

「いいから! くっつくぐらいに近くに!」

 来た! とイースラは思った。
 揺れで倒れないようにやや体勢を低くしながらサシャとクラインのことを呼び寄せる。

 二人はふらつきながらもなんとかイースラのそばに寄る。

「なんだこれは!」

 地面が四角く迫り上がった。
 壁がへこんだり迫り出してきたりダンジョン全体が動き始めた。

「みんな、近くに……」

 何かは分からないが何かの異常が起きている。
 ベロンがみんなを呼び寄せようとするけれど揺れが激しくて動くこともままならなくなる。

「イイイイ、イースラ!?」

「体を低く! 動かず離れるな!」

 イースラたち三人は身を寄せ合って揺れに耐える。

「くっ!?」

 イースラたちがいる床が急に下に動き始めた。

「イースラ!」

 手が届く距離でもないのにベロンは手を伸ばした。
 向かおうにも揺れていて足も踏み出せない。

 イースラたちが下がっていった穴は迫り出してきた壁が塞いでしまい、助けに行くことも不可能になった。

「デムソ、バルデダル! くっ……スダーヌ、手を伸ばせ!」

 天井が細長く降りてきて分断されてしまう。
 なんとか近くにいるスダーヌだけはとベロンは揺れに耐えながら手を伸ばした。

「ベロン!」

 スダーヌも必死に手を伸ばす。

「……届いた!」

 ベロンの手がなんとかスダーヌに届き、抱き寄せるようにしてスダーヌを引っ張る。

「……これはなんなんだ!」