「……まあみんなや当人が反対しないなら」

 デムソはため息をついて席に座る。
 誰も反対しないし当人も嫌がっていないのならデムソ一人が反対しても仕方ない。

「本人も納得しているから今回は連れていく。邪魔になるようなら仕切り直して置いていく」

「ベロンの判断に文句はつけないよ」

 戦闘が起こるたびに荷物を置いたり持ったりするのは面倒だ。
 イースラたちがある程度の荷物を担当してくれて身軽になるのならメリットはある。

 ベロンもイースラたちが荷物を持つことのメリットが大きいと判断したのだろうとデムソは引き下がった。

「この場にいる全員でダンジョンで攻略する。今日明日で準備を整えて二日後にダンジョンに向かうぞ」

 ーーーーー

 十分な食料品や替えの服、包帯などの医療品といったものを主にイースラたち三人が分担して背負う。
 ダンジョンは町から南に二日ほど行った場所にあって移動は魔物に会うこともなかった。

 森の中にふさわしくない不自然な小山がある。
 ぽっかりと大きな穴が空いていて奇妙なことに明かりを近づけても中を見通すことはできない。

「これがダンジョン……」

 入るまで中がどうなっているのか分からない。
 いきなり生まれ、どうやって生まれるのかも誰にも分からないのがダンジョンである。

 ダンジョンは昔から存在しているもので、地形が変わったりして突然出現する。
 ゲートダンジョンと呼ばれるダンジョンもあるのだけどゲートダンジョンは攻略してしまうと確実に消える一方で、ただのダンジョンは攻略しても消えないことがあるという違いがあった。

「二人ともダンジョンに入ったら俺から離れるなよ」

「うん」

「ああ、分かった」

 ダンジョン前で早めに休んで朝から攻略を開始することになっていた。
 イースラたち三人は荷物持ちとしてみんなの後ろからついていくのが仕事になるが、今日はカメラアイも持たされている。

 一人でも戦力がいた方がいいだろうといつもカメラアイ係のポムも戦闘要員として投入されているのだ。
 少しでもお金を稼ぐ機会なのでポムもやる気を出している。

「イースラ」

「なんですか?」

 攻略開始前に装備などの最終点検をしているとベロンがこっそりとイースラに声をかけてきた。

「いざとなればお前の力を借りることもあるかもしれない」

「剣も買ってもらいましたしね」

 ダンジョンではどんな危険があるか分からない。
 だから今回イースラたちにも武器が与えられている。

 荷物持ちと言っているがベロンはイースラがオーラを扱えることを知っている。
 まだバルデダルに教えてもらって日が浅いので経験も技量も追いついていないだろうが、オーラが扱えることで打開できるような場面もあるかもしれない。

 ベロンは正直ポムにあまり期待していない。
 基本的に不真面目でベロンが剣を教えてやってもあまり成長が見込めない。

 オーラがなくともイースラの方がすぐに強くなるだろうとベロンは思っている。
 もしかしたらもう力は逆転しているかもしれない可能性すらあると感じる。

 いざという時ポムの動きよりもイースラの方が期待できた。

「なんであいつのことそのままにしてるんですか?」

「……どうしたらいいか分からないんだ」

 ベロンは困ったように笑った。

「あいつを最初に助けようとしたのは俺だ。死にそうな顔してそこらに座り込んでいるのがほっとけなくてな」

 ベロンがポムを見つけたのは偶然だった。
 仲間を集めてギルドを立てて活動している中でたまたまポムが目についた。

 使いっ走りのようなことをして小銭を稼いでその日をなんとか乗り切るような生活をしていたポムのことを無視することができなくてベロンは手を差し伸べた。
 雑用などの人手も欲しかったところなのでちょうど良かったのである。

 ポムには何もなかった。
 能力もやる気もなく、ただベロンのことをアニキと呼んで擦り寄ってくるだけだった。

 だがここまできてポムを見捨てることもできない。
 もっと厳しい態度で接すればいいのかもしれないが、いつかはポムもまともになると期待してなあなあにしてしまっている自分がいることはベロンも自覚している。

「でも最近少し真面目になっただろ?」

「それもどうなんでしょうね」

 ポムが掃除したり賭け事をやめたりしていることはベロンも分かっていた。
 しかしベロンはそれがイースラに命令されてのことであることを知らない。

 ポムが心を入れ替えて真面目になったのではなく言われて仕方なくやっているだけに過ぎないのだ。

「まあ今は目の前のダンジョンに集中しよう」

「……わかりました」

「みんな、用意はいいな! ダンジョンに入るぞ! 撮影開始だ」

 今ポムのことをとやかく言っても仕方ない。
 朝日が顔を覗かせ始める中でイースラたちはダンジョン前でカメラアイを作動させて配信を始めた。

「はーい、どうも。スダッティランギルドのスダーヌです!」

 まずはスダーヌにカメラアイを向ける。
 さっきまでつまらそうな顔をしていたのに配信が始まるとパッと笑顔を浮かべるのは流石である。

「今日は朝早くからですけどダンジョン攻略を配信していきたいと思いまーす! よければご視聴いただいて応援にパトロンくだされば嬉しいです」

 配信画面を覗いてみると物好きな貴族が何かから頑張れと少しのパトロンがいくらか届いている。
 普段の魔物討伐よりもダンジョンなどの方が配信として人気なので期待している人もいるのだろう。