ある日ポムが顔を腫らして帰ってきた。
 左目のあたりが確証もないほどに赤紫色になっていたのだ。

 イースラも含めギルドのみんなはポムに何かがあったのに興味を示さない。
 唯一ベロンだけが何があったのだと聞いたけれどポムは何でもないと答えただけだった。

 みんなはポムに何が起きているのか興味もないし知らないようであるがイースラは何が起きているのか知っていた。
 数年後にスダッティランギルドは消滅する。

 その時にようやくイースラは独り立ちすることになるのだが、スダッティランギルドが消滅する時にはすでにポムはいなかった。
 ギルドにいないどころか死んでいるのだ。

 ポムはスダッティランギルドが無くなるよりもだいぶ前に路上で刺されて人知れず死ぬことになる。
 原因は金銭トラブル。

 ポムは賭け事の常習者であった。
 配信というやつは新たな闇も生んでいる。

 国が管理できないような場所で違法に人を戦わせる闘技場なんてものも配信されている。
 どちらの人が勝つのかということを賭けにして配信しているのである。

 ポムは賭けに参加していて横領した食材費もここで使われていた。
 だがそれだけでは足りない時にポムはお金を借りてまで賭けを行っていた。

 回帰前においては食材費に手をつけることで何とかしていたようだが、今回は料理係はイースラたちに取られてしまった。
 お金が無くなったポムがどうなるかなど想像するのは容易い。

 回帰前よりも早めに破滅の時が迫っているのだ。

「いつも偉いね。ほら、これおまけだよ」

「ありがとうございます!」

 ポムが破滅しようとイースラたちには関係ない。
 回帰前ではポムが破滅した結果イースラに料理係が回ってきたなんてことはあったが今回はもう料理係なので受ける影響もない。

 イースラたちはいつものように食料の買い出しを行なっていた。
 頻繁に買い物に行くものだからお店の人とも顔見知りになった。

 子供ながらによくやっていると評判も良くてみんな優しくしてくれる。

「……なんだか今日は色々ともらえるな」

 タイミングが良いのか行く店行く店でおまけなんかをもらえる。
 元々サシャも人当たりもいいので好かれる要素はある。

「あっ、あいつらです! あいつらが俺の仕事奪ったから……」

「ふん、あいつらなんだな? おい、逃すなよ!」

 結構荷物も多くなったのでそろそろ帰ろうと思っていたら昼前の心地よい賑やかさにそぐわない大きな声が聞こえてきた。
 なんだと思っていると数人の男がイースラたちの前に立ち塞がった。

「……なんだ?」

「よう、ちょっと話があるんだ」

 後ろから声をかけられて振り向くとポムがいた。
 萎縮したようなポム大柄の男に肩を組まれていて目のところがまたひどく腫れ上がっている。

 声をかけてきたのは大柄の男の方だった。

「なんですか?」

「ちょっとここじゃなんだから場所を移そうぜ?」

 ーーーーー

 男たちに囲まれるようにして移動して人気のない路地裏に連れてこられた。

「それでなんの用ですか?」

「ふん、お前のいう通り生意気そうだな」

 人気のないところに連れてくるぐらいなのだから良い用事でないことは間違いない。
 荷物がたくさんあって腕が疲れるから早く帰りたいのにとイースラは軽くため息をついた。

 大柄の男はイースラの態度が気に入らないように舌打ちする。

「まあいい。俺はジワラだ」

「そうですか」

 別にジワラに自己紹介してやる必要はないとイースラは淡々と返事を返す。

「俺はこいつに金を貸しているんだが……少し前から返済が滞っていてな」

「そ、それが私たちとなんの関係があるんですか?」

 ポムが借金していることはいい。
 そんなもの個人の自由であるので口を出すことではない。

 そして返済が滞っていることもイースラたちとは関係のないことである。
 なのになぜイースラたちを呼び止め、人気のない路地裏に連れてきて、ポムの借金のことなど話すのか。

 サシャもクラインも訳がわからない状況に怯えたような目をしている。

「あるさ。お前たちがこいつの仕事奪ったんだろ?」

「なに?」

「今までやっていた仕事ができなくなってそのせいで借金が払えなくなったんだよ」

 これまでポムは食材費に手をつけることでなんとか借金を返済してきた。
 しかし急に現れたイースラたちに料理番の役割を取られてしまったために借金返還のための当てがなくなった。

 首が回らなくなって返済が滞り、早く借金を返せと時々殴られていたから顔を腫らすことがあったのだ。
 自分の手持ちのお金を超えて借金をする許されない行いであるが金貸しにとっては金を借りて利子分まで返してくれるならどんな金でも構わない。

「全部お前らのせいだろ?」

 そしてポムは自らの責任をイースラたちに押し付けたのである。
 自らの至らなさで仕事を下されたというのにあたかもイースラたちが卑怯な手でも使ってポムから仕事を奪ったかのようにジワラに吹き込んでいた。

「こいつの借金……お前らに払ってもらおうか?」

 ポムは完全に怯えた顔をしてイースラたちのことを見もしない。