「んじゃちょっとだけ味見しようか」

「えっ、いいの!?」

 サシャが目をキラキラとさせてエイルを見る。
 エイルのフォローはあったもののほとんどをサシャが作った。

 言うなれば初めて自分が作った料理ということなのである。
 美味しそうだし自分で作ったものだしで早く食べたいなとサシャは思っていた。

「ああ、誰かに出すのにも味見は必要だろ?」

「やったぁ!」

 サシャは笑顔を浮かべて喜ぶ。
 クラインには笑顔はちゃんと撮っておけと言ってある。

 カメラアイをぐっとサシャに近づけてクラインが笑顔をしっかりと収める。

「いただきます!」

 手を合わせて簡易的に食べ物や神様に感謝してサシャが料理を食べ始める。
 スープの熱でチーズがとろけているところにパンをつけて食べる。

「俺も……食べたい」

「もうちょっと待ってくれ」

 チーズが伸びて美味しそう。
 クラインは思わず涎を垂らしそうになっている。

「うふふ、美味しかった!」

 ひとまずパンを一つ食べてサシャは満面の笑みを浮かべる。

「ほら、口についてるぞ」

「あ、うん、ありがとう……」

 イースラがサシャの口の端についたスープのを拭ってやるとサシャはまた顔を赤くする。

「えーと、最後まで見てくださってありがとうございます。よければ……パトロン? よろしくお願いします」

「最後に手を振って」

「これでいい?」

 最後に締めのセリフを言ってもらってイースラは画面を操作する。

「よし! これで終わりだ!」

 イースラが画面を操作するとクラインの画面に映っていたカメラアイの目を通した映像が止まる。

「はぁ……腕疲れたぜ」

 クラインがテーブルにカメラアイを置く。
 ずっとカメラアイを持っていたので腕が少し辛かった。

「お疲れ様」

「これで配信? ってやつができたの」

「うーん、ちょっと違うけど大体出来たようなもんだ」

「どゆこと?」

「ま、色々あるんだよ。とりあえず飯食おうぜ」

 今のも先ほど見たように誰かが見ていたのだろうかとサシャは思ったけれどイースラはまた少し含みのある言い方をする。

「やった! 飯だ!」

 何にしてもイースラに任せておけばいいかとサシャも気にしないことにした。
 今は自分が作った料理をもうちょっと楽しみたい気分の方が疑問よりも勝ったのである。

 スープを食べてイースラも上手くできたもんだと思ったし、後々ギルドのみんなにも料理を出して好評だった。
 ポムだけかなり不満そうな顔をしていたがちゃんとした飯に文句も言えずただ無言で食べていた。

 ーーーーー

「よし、やるか」

 ギルドハウスの掃除を終えて部屋に戻ってきたイースラはグッと体を伸ばした。
 買い物の時に買ってきたロウソクに火をつけてベッドに座るとメニュー画面を開く。

「何かするの?」

「ああ、ちょっとな」

「見ててもいい?」

「いいぞ」

 結局サシャも同じ部屋で寝ることになった。
 普通なら男と女は分けるべきだろうが子供だし孤児院で一緒だったからいいだろうなんて思われている。

 サシャも最初こそ不満だったけれど、夜になると未だにギルドハウスは見知らぬ場所で不安があるのでイースラたちが一緒でよかったと思った。
 イースラの横に座ったサシャはイースラが開いている画面をじっと見つめる。

 迷いなくパッパッとイースラは画面を操作して映し出されたのは先ほど撮った料理作りの動画だった。

「配信ってのも生配信てやつと一度配信の光景を保存しといた動画を出す動画配信ってのがあるんだ」

「へぇ……わざわざ撮っておく必要なんてあるの?」

 その場で配信しちゃう方がいいじゃないかとサシャは首を傾げる。

「その場の空気感をそのまま味わえるから生配信ってのも悪くないんだけど動画配信にも利点があるんだ」

「どんな利点?」

「“編集”ができるんだ」

「へんしゅー?」

「そうだ」

『ええと……サシャのお料理練習チャンネル? です。私がサシャです。頑張るので……よろしくね。これでいいの?』

 イースラが画面の三角形のところを押すと画面の中のサシャが動き出して声が聞こえてきた。

「わっ、すごい……」

 光景を保存と言われても実感がなかったけれどこうして実物を見てみるとようやく動画というものが何なのかサシャにも分かった。
 すごいと思うと同時に画面に自分が映っていることがひどく恥ずかしく思えて顔を赤くする。

 なんだか画面から聞こえてくる声も自分のものではないみたいに聞こえる。

「分かりやすいとこまで飛ばすか」

「わわっ!? なになに?」

 イースラが三角が重なったようなところを押すと画面のサシャが高速で動き出した。
 音も高くわしゃわしゃとしていてなんと言っているか分からない。

 画面のイースラも全ての動作が高速で進んでいく。

「ここら辺かな」

 再び普通の速度に戻った。
 そこはサシャが鍋をぐるぐるとかき混ぜているところである。

「ここからしばらく鍋を混ぜてただろ?」

「うん」

「サシャが鍋かき混ぜてるの見てても特に楽しくないだろ?」

「うーん、まあ確かに」

 思い出してみれば本当に鍋をかき混ぜているだけでなんの変わり映えもしない時間だった。
 それを見ていてもつまらないだろうなとサシャは思った。