法令基準に基づく日数しか消化していなかった有休はしばしの(いとま)にうってつけだった。
働いてなくてもお金がもらえる。いや違う。働いたから休んでもお金がもらえるんだ。

そもそも、休みたいときに休めばいいし、休んでいる間にお金が出ずともそれで自分の価値は下がらないだろう。収入だけだ、下がるのは。

生きているだけでお金がかかるのは本当で、どうしようもない現実だ。これを考えて幸福になった者は誰一人としていないだろうから、私もやめよう。

とにかく、ひとまず。
このお休みを利用して、しっかりと休まなければ。

妙に肩に力の入った目標を心で唱えたあとに、頭で異議を唱えた。
休むのを頑張っている時点で休めていないだろう。

ならもう、どうすればいいんだ。
どうしたら傷ついた心は休まるんだ。
そもそもなんでこんなことになったんだ。

私が何かした?
普通に働いて普通に恋愛をして普通に生きてきたつもりだけれど、それにしたってあんまりじゃないか───

──とまあこんな思考を繰り返しているうちに初日のお休みは半分過ぎて、お昼の鐘が市内に鳴り響いたところで、私は平然と昼ご飯を作り始めた。

藍原香里(あいはらかおり)、28歳。
打ちのめされてもご飯は作って食べる、そんなタフな女性にすくすくと成長中。

落ち込んでいるのか元気なのか、自分でもよく分からないくらいには人生を迷走している。