「僕だけ見てもらうから」と言った



 放課後、灯也を交えて、怜生と対面する。灯也は付き合いたてだというのに、野郎二人の話し合いのために放課後デートを断ったそうだ。
 それなら、もう腹くくって話すしかないだろ。衛はとことんやりあう気持ちで、怜生と向き合った。怜生はいつもどおり、何考えてるのかわからない顔で、座ってる。
「灯也に聞いたけど、俺と仲良くする気あるって本当?」
 黙り込んでいる怜生を、灯也が促す。怜生は目をそらして、「べつに」と言った。
「衛くんが嫌がることを、する気はないし」
「怜生!衛のせいにすんな」
 言いたいことを灯也にとられ、咄嗟に開いた口を閉じる。まあいいや、言ってたらケンカになっちゃうから。怜生は、口ごもって、黙った。
「ごめん」
「何が?」
「今の言葉は不適切だった。それまでの言葉も」
 はあ。
 高い背を、居心地悪そうに丸めた姿は、いつもよりなんだか子供っぽく見えた。すると、仕方ないな、という気持ちがわいてくる。衛も一度、大きく深呼吸した。これは、話し合いだ。
「いや、俺こそ悪い。ちょっとケンカ腰だったな。落ち着いて話そうぜ」
「……べつに、空気と思ってたんじゃなくて」
 怜生がぽつぽつ話し出す。
「いつも、すごい気まずそうにしてるから。耐えられなくて」
「はあ」
「話しかけくれても、お情けって空気がひしひししてたから」
「お情けではねえよ。関係作る努力」
 まあ、楽しい気持ちで話してたわけではないから全否定できないけど。すると、うつむいて怜生は黙り込んだ。憂い顔が似合う顔ってうらやましいけど、そんなこと言ってる場合でもないな、この空気。衛は頭をかく。
「そんなに僕といて気づまりなのかって、相性悪いと思ってるのかなって」
「まあそれはあるけど……」
「あるんだ」
「いやさ。そっちこそ、なんも話してくんなかったじゃん」
 衛はさすがに、怜生の言葉を切った。まあ、なんか思った以上に怜生がセンシティブな人間で、自分の行動すべて、ネガティブにとらえてくれていたのはわかった。実際、結構当たっているし。
「確かに、怜生くんって俺からするととっつきづらかったよ。同じグループなのに灯也のほうばっか見てるし、話しかけても嫌なこと言うし」
 怜生、いっそううつむいて黙り込む。衛は続ける。
「でもそれは、お互いまだ知らないからだったってことだよな?怜生くんは俺と仲良くする気があるってことでいいんだな?」
「……衛くん」
「それなら、俺ももう少し努力するよ。知っておかないと、もったいないって思うし」
「怜生」
 灯也に促されて、怜生はうなずいた。秀麗、優美って言葉が似合う高い背を小さくして「うん」とうなずいた。そして、まっすぐ衛を見てきた。
 はじめてこんな風に目を合わせた気がする。衛は笑って、手を差し出した。
「じゃ、改めて、これからよろしく」
「え」
「握手だよ」
「いや……」
 口ごもり、自分の手を守るように握って、目をそらす。めっちゃ嫌そうじゃん。
「まあ、こういうのもすり合わせだよな」と、衛は手をひっこめようとした。そしたらいきなり、怜生にがっしりとその手をつかまれた。
「うお」
 怜生は、すごい強い目で、こちらをじーっと見ていた。うお、目力つええ。
「よろしく、衛くん」
「お、おう」
「あ~よかった!これからもよろしく」
 これでいいのかな。と思わなくもなかったが、灯也が喜んでるので、ま、いいかと思った。