『ごめんね。先生に呼ばれたから先にお昼ごはん食べてて。』
昼休み、ピロンと鳴った携帯には涼太からのメッセージが入っていた。
最初は『まあ、仕方ないか』と自分を納得させようとしたけれど、胸の奥にぽつんと寂しさが落ちた気がした。
……いや、寂しい気持ちってなんだよ。
いつも一緒に食べてたから、今日はおひとりさまランチを楽しもう。そう思い直し、一人で席に座ろうとしたとき…
「佐々木くん、一緒に食べない?」
背後から声をかけられた。
振り向くと、佐藤さんだった。弁当を一緒に食べることはほとんどない彼女からの突然の誘いに、驚きつつも「うん」と返事をする。断る理由はないし、それに今の気分なら誰かと一緒にいた方が余計なことを考えずに済むかもしれない。
「ありがとう、佐々木くん。」
佐藤さんは微笑んだけれど、俺に気を遣ってくれている…ような感じがした。
「実はね、佐々木くん今日ずっとぼーっとしてたし、少し調子が悪そうだったから心配だったんだよね。」
そんなつもりはなかったのに。まさか佐藤さんにまで気を遣わせていたなんて。しまった、と思いながら苦笑する。
「ごめん、ちょっと気が抜けてたかも。」
その言葉に、佐藤さんがふと黙り、そして静かに口を開いた。
「……実は、私、佐々木くんのことが好きなんだよね。」
一瞬、思考が止まった。
佐藤さんが、俺を? そんな素振り、今まで一度も見せたことなかったのに。しかもあまりにも唐突すぎる。混乱する俺を見て、佐藤さんは苦笑しながら続ける。
「急に言われてもって感じだよね。断られるのは分かってるから、返事はしないで。」
カラッと笑う佐藤さんに、胸の奥が少しだけ締め付けられるような感覚があった。
「……ごめん、佐藤さん。」
その後、佐藤さんは「ちょっといいかな?」と俺に耳打ちをした。
「佐々木くん、佐伯くんのことが好きでしょ。」
「……は?」
突然の言葉に思わず間抜けな声が出た。
俺が、涼太を?
「あはは! 分かりやすいね。佐々木くん、いつも佐伯くんのこと気にしてるじゃん?」
そんなこと……あるわけがない。
涼太がよく俺を見つめてくることも、授業中さりげなく俺の盾になってくれることも、涼太の本音を知ったことも…気にしてなんかいない。
絶対に、意識なんてしていない。
けど、涼太の気持ちには応えたいと思っている。……って、好きじゃなかったら応えられないんじゃ…?
ぐちゃぐちゃに絡まる思考を整理できないまま、佐藤さんは「じゃあね!」と軽く手を振り、友達のもとへと走っていった。
俺はただぼんやりと考えていた。
俺は一体、涼太とどういう関係でいたいんだろう、と。
「れーん。俺がいないところで女の子と何を話してたのかな?」
ぐるぐると考え込み、一人の世界に入り込んでいた俺の意識を、涼太の声が容赦なく引っ張り戻した。
「りょ、涼太……?」
「あ、俺の名前呼んだね。」
ふっと柔らかく笑う涼太。けれど、その目は……笑っていなかった。
「普段全然呼んでくれないから、呼ばれると心臓が飛びでそうになるんだよ? あ、もちろん普段も……」
何を言っているのか、まるで頭に入ってこない。ただ、この言葉と合っていない涼太の視線が少し怖い。
「蓮、ところでさっきは何を話してたの?」
今度は、表情まで笑っていなかった。
どう説明すればいい? 俺の考えが整理できていないのに、正しく伝えられるはずがない。
「涼太くん、さっき話してたことって、もしかして私たちのこと?」
突然、佐藤さんが割って入る。佐藤さんに心の中で感謝をしようと思ったのも束の間…
「蓮くんの好きな人の話だよ。佐伯くんは蓮くんが誰を好きなのか、知りたい?」
——最悪だ。
「“蓮くん”ねえ? まあ、教えてくれるなら聞きたいけど、 どうせ……」
涼太の口調が、少しだけ低くなる。
「もちろん。教えるわけないじゃん。」
佐藤さんはクスッと笑って言い放つ。
「きっと佐伯くんは独占欲が強いタイプでしょ?好きな人が可哀想って思っちゃうかも。」
「佐藤さんも本当に好きな人ができたら分かると思うよ。俺だけを見ていてほしい、ってね?」
突然俺の方を向いた涼太にギクッとした俺は、恥ずかしさで目を逸らしてしまった。何もここで言わなくても…
「俺の好きな人は鈍感だから、こうやってアプローチしていかないと気づいてくれないの。困っちゃうよね。」
「涼太…!?お前何やって…」
俺の腰に腕を回して頭をコテンとさせる涼太は、いつも以上に甘い雰囲気を纏っていて、なんだか調子が狂う。
「なんか本当に、見てるこっちが恥ずかしくなる…」
「褒め言葉ってことでいい?」
「もうなんでもいいよ」
そう言って佐藤さんが友達の元へ行ってしまっても、腕の力は弱まる気配もない。むしろ、強くなっているような気さえする。
「どうしたの?恥ずかしそうな蓮もかわいいね」
こいつわざとやってんだろ。
俺は深く息を吐いて、そっと涼太の脇腹を突いた。
「調子に乗るな。」
「俺の好きな人が可愛すぎるのが悪いと思う」
「んなこと聞いてねーよ」
心底面倒だと思いながらも、涼太の腕を解こうと言う気にはなれなかった。
昼休み、ピロンと鳴った携帯には涼太からのメッセージが入っていた。
最初は『まあ、仕方ないか』と自分を納得させようとしたけれど、胸の奥にぽつんと寂しさが落ちた気がした。
……いや、寂しい気持ちってなんだよ。
いつも一緒に食べてたから、今日はおひとりさまランチを楽しもう。そう思い直し、一人で席に座ろうとしたとき…
「佐々木くん、一緒に食べない?」
背後から声をかけられた。
振り向くと、佐藤さんだった。弁当を一緒に食べることはほとんどない彼女からの突然の誘いに、驚きつつも「うん」と返事をする。断る理由はないし、それに今の気分なら誰かと一緒にいた方が余計なことを考えずに済むかもしれない。
「ありがとう、佐々木くん。」
佐藤さんは微笑んだけれど、俺に気を遣ってくれている…ような感じがした。
「実はね、佐々木くん今日ずっとぼーっとしてたし、少し調子が悪そうだったから心配だったんだよね。」
そんなつもりはなかったのに。まさか佐藤さんにまで気を遣わせていたなんて。しまった、と思いながら苦笑する。
「ごめん、ちょっと気が抜けてたかも。」
その言葉に、佐藤さんがふと黙り、そして静かに口を開いた。
「……実は、私、佐々木くんのことが好きなんだよね。」
一瞬、思考が止まった。
佐藤さんが、俺を? そんな素振り、今まで一度も見せたことなかったのに。しかもあまりにも唐突すぎる。混乱する俺を見て、佐藤さんは苦笑しながら続ける。
「急に言われてもって感じだよね。断られるのは分かってるから、返事はしないで。」
カラッと笑う佐藤さんに、胸の奥が少しだけ締め付けられるような感覚があった。
「……ごめん、佐藤さん。」
その後、佐藤さんは「ちょっといいかな?」と俺に耳打ちをした。
「佐々木くん、佐伯くんのことが好きでしょ。」
「……は?」
突然の言葉に思わず間抜けな声が出た。
俺が、涼太を?
「あはは! 分かりやすいね。佐々木くん、いつも佐伯くんのこと気にしてるじゃん?」
そんなこと……あるわけがない。
涼太がよく俺を見つめてくることも、授業中さりげなく俺の盾になってくれることも、涼太の本音を知ったことも…気にしてなんかいない。
絶対に、意識なんてしていない。
けど、涼太の気持ちには応えたいと思っている。……って、好きじゃなかったら応えられないんじゃ…?
ぐちゃぐちゃに絡まる思考を整理できないまま、佐藤さんは「じゃあね!」と軽く手を振り、友達のもとへと走っていった。
俺はただぼんやりと考えていた。
俺は一体、涼太とどういう関係でいたいんだろう、と。
「れーん。俺がいないところで女の子と何を話してたのかな?」
ぐるぐると考え込み、一人の世界に入り込んでいた俺の意識を、涼太の声が容赦なく引っ張り戻した。
「りょ、涼太……?」
「あ、俺の名前呼んだね。」
ふっと柔らかく笑う涼太。けれど、その目は……笑っていなかった。
「普段全然呼んでくれないから、呼ばれると心臓が飛びでそうになるんだよ? あ、もちろん普段も……」
何を言っているのか、まるで頭に入ってこない。ただ、この言葉と合っていない涼太の視線が少し怖い。
「蓮、ところでさっきは何を話してたの?」
今度は、表情まで笑っていなかった。
どう説明すればいい? 俺の考えが整理できていないのに、正しく伝えられるはずがない。
「涼太くん、さっき話してたことって、もしかして私たちのこと?」
突然、佐藤さんが割って入る。佐藤さんに心の中で感謝をしようと思ったのも束の間…
「蓮くんの好きな人の話だよ。佐伯くんは蓮くんが誰を好きなのか、知りたい?」
——最悪だ。
「“蓮くん”ねえ? まあ、教えてくれるなら聞きたいけど、 どうせ……」
涼太の口調が、少しだけ低くなる。
「もちろん。教えるわけないじゃん。」
佐藤さんはクスッと笑って言い放つ。
「きっと佐伯くんは独占欲が強いタイプでしょ?好きな人が可哀想って思っちゃうかも。」
「佐藤さんも本当に好きな人ができたら分かると思うよ。俺だけを見ていてほしい、ってね?」
突然俺の方を向いた涼太にギクッとした俺は、恥ずかしさで目を逸らしてしまった。何もここで言わなくても…
「俺の好きな人は鈍感だから、こうやってアプローチしていかないと気づいてくれないの。困っちゃうよね。」
「涼太…!?お前何やって…」
俺の腰に腕を回して頭をコテンとさせる涼太は、いつも以上に甘い雰囲気を纏っていて、なんだか調子が狂う。
「なんか本当に、見てるこっちが恥ずかしくなる…」
「褒め言葉ってことでいい?」
「もうなんでもいいよ」
そう言って佐藤さんが友達の元へ行ってしまっても、腕の力は弱まる気配もない。むしろ、強くなっているような気さえする。
「どうしたの?恥ずかしそうな蓮もかわいいね」
こいつわざとやってんだろ。
俺は深く息を吐いて、そっと涼太の脇腹を突いた。
「調子に乗るな。」
「俺の好きな人が可愛すぎるのが悪いと思う」
「んなこと聞いてねーよ」
心底面倒だと思いながらも、涼太の腕を解こうと言う気にはなれなかった。
