カラオケ店を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。扉が閉まると同時に、橘の声が響く。
「あースッキリした!」
「お前、歌いすぎだろ。声ガラガラじゃん。」
その言葉に、貝塚がからかうように言う。
橘は楽しげに「だってえー!」と叫んだ。
そのやり取りを笑いながら聞き流していたが、さっきの出来事のせいで頭の中は混乱していた。
涼太のことが、どうしても気になって仕方がない。あの微笑みも、不機嫌そうな顔も、楽しそうな笑顔も、きっと全部本物だ。いつも隣で見てきたから分かる。だからこそ、本音を知りたかった。
なんで二人きりのとき冷たいんだ、なんで俺の隣を離れないんだって、問い詰めたかった。
「それじゃあ、俺と蓮はこっちだから。」
涼太が先に歩き出す。
「じゃあ、帰るか。橘ー行くぞ。」と、貝塚が言い、俺たちとは反対方向を向く。橘と貝塚に別れを告げたあと、俺は涼太に小走りで追いかけていった。
それから、無言で歩いていた。いつも通り二人になると黙ったままだ。でも今日は気まずくはならなかった。気まずさなんて忘れてしまうほどに、頭の中で涼太についてずっと考えていたからだ。
頭をフル回転させていると、足音が近づいてきた。振り返ると、涼太があまりにも近くにいて驚きで足がもつれた。
「うっ…」
思わず体が前に倒れそうになった瞬間、涼太が素早く手を伸ばして俺の肩を支えた。
「蓮、大丈夫?」
そのまま涼太の腕の中に引き寄せられる感覚がした。力がこもった腕の中で、涼太と俺の鼓動が混ざり合っていた。
しかしその腕はすぐに解け、涼太はすぐに距離を取った。
――どうして、こんなことをするんだ。
昔のままだと期待させるようなことをして、でも二人きりの時は冷たくなる。俺を突き放したいのか、それとも…
思わず言葉が溢れた。
「涼太、どうして二人だとそんなに冷たいんだよ。学校では幼馴染でいられるから、もしかしたらまた昔みたいにって…無駄だって分かってるのに期待して…そんなの、もう嫌なんだよ…」
涼太は驚き、開こうとした口をまた閉じて、ただ黙っている。
言いたいことがあるなら言ってほしい。その一心だった。
「涼太がどんな気持ちでも、絶対に受け入れる。幼馴染なんだから、ずっと一緒にいたんだから、信じてほしい…涼太…」
しばらく沈黙が続き、涼太は深く息をついてから、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……俺、蓮が好きなんだ。蓮に恋してる。でも、この気持ちを告げたら、俺たちはただの幼馴染には戻れないと思った。だから気持ちを隠してでも今まで通りでいたかった。でも、だんだん独占欲が湧いてきて、二人きりのときなんて少しでも気を抜くと歯止めが効かない気がして…本当は蓮の笑顔も怒った顔も泣いた顔も全部俺だけのものにしたい…そんなの引くよね。最低だよね。」
涼太がこんな気持ちを抱えていたなんて、知らなかった。いや、知ろうともしていなかった。
涼太は俺を好きで、俺を傷つけたくなくて二人のときは冷たくなってたって、その言葉を聞いてーー少し安心してしまった。こんな自分勝手な俺こそ最低で、引かれるべきだ。
「お前に何かしたんじゃないかってずっと悩んでた。二人きりのときもまた昔みたいに笑ってくれないかって何回も考えて……だから、お前が俺のことを好きだって聞いて、どこかほっとしてる。俺こそ最低だ…」
涼太は力なく笑って、俺を見つめていた。
「……蓮は、俺をどう思うの?」
低く落ち着いた声だった。でも、少しだけ震えているようにも聞こえた。
俺は涼太の顔を見つめたまま、何も言えなかった。
頭の中でぐるぐると考えが巡るのに、口を開けない。
――どう思う?
そんなの、俺だってわからない。
「じゃあ、これから好きになって。」
俺の考えを見透かしたかのように、涼太の声が響いた。
夜風が頬をかすめる。夜の静けさに紛れて、鼓動だけがやけに大きく響いていた。
「あースッキリした!」
「お前、歌いすぎだろ。声ガラガラじゃん。」
その言葉に、貝塚がからかうように言う。
橘は楽しげに「だってえー!」と叫んだ。
そのやり取りを笑いながら聞き流していたが、さっきの出来事のせいで頭の中は混乱していた。
涼太のことが、どうしても気になって仕方がない。あの微笑みも、不機嫌そうな顔も、楽しそうな笑顔も、きっと全部本物だ。いつも隣で見てきたから分かる。だからこそ、本音を知りたかった。
なんで二人きりのとき冷たいんだ、なんで俺の隣を離れないんだって、問い詰めたかった。
「それじゃあ、俺と蓮はこっちだから。」
涼太が先に歩き出す。
「じゃあ、帰るか。橘ー行くぞ。」と、貝塚が言い、俺たちとは反対方向を向く。橘と貝塚に別れを告げたあと、俺は涼太に小走りで追いかけていった。
それから、無言で歩いていた。いつも通り二人になると黙ったままだ。でも今日は気まずくはならなかった。気まずさなんて忘れてしまうほどに、頭の中で涼太についてずっと考えていたからだ。
頭をフル回転させていると、足音が近づいてきた。振り返ると、涼太があまりにも近くにいて驚きで足がもつれた。
「うっ…」
思わず体が前に倒れそうになった瞬間、涼太が素早く手を伸ばして俺の肩を支えた。
「蓮、大丈夫?」
そのまま涼太の腕の中に引き寄せられる感覚がした。力がこもった腕の中で、涼太と俺の鼓動が混ざり合っていた。
しかしその腕はすぐに解け、涼太はすぐに距離を取った。
――どうして、こんなことをするんだ。
昔のままだと期待させるようなことをして、でも二人きりの時は冷たくなる。俺を突き放したいのか、それとも…
思わず言葉が溢れた。
「涼太、どうして二人だとそんなに冷たいんだよ。学校では幼馴染でいられるから、もしかしたらまた昔みたいにって…無駄だって分かってるのに期待して…そんなの、もう嫌なんだよ…」
涼太は驚き、開こうとした口をまた閉じて、ただ黙っている。
言いたいことがあるなら言ってほしい。その一心だった。
「涼太がどんな気持ちでも、絶対に受け入れる。幼馴染なんだから、ずっと一緒にいたんだから、信じてほしい…涼太…」
しばらく沈黙が続き、涼太は深く息をついてから、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……俺、蓮が好きなんだ。蓮に恋してる。でも、この気持ちを告げたら、俺たちはただの幼馴染には戻れないと思った。だから気持ちを隠してでも今まで通りでいたかった。でも、だんだん独占欲が湧いてきて、二人きりのときなんて少しでも気を抜くと歯止めが効かない気がして…本当は蓮の笑顔も怒った顔も泣いた顔も全部俺だけのものにしたい…そんなの引くよね。最低だよね。」
涼太がこんな気持ちを抱えていたなんて、知らなかった。いや、知ろうともしていなかった。
涼太は俺を好きで、俺を傷つけたくなくて二人のときは冷たくなってたって、その言葉を聞いてーー少し安心してしまった。こんな自分勝手な俺こそ最低で、引かれるべきだ。
「お前に何かしたんじゃないかってずっと悩んでた。二人きりのときもまた昔みたいに笑ってくれないかって何回も考えて……だから、お前が俺のことを好きだって聞いて、どこかほっとしてる。俺こそ最低だ…」
涼太は力なく笑って、俺を見つめていた。
「……蓮は、俺をどう思うの?」
低く落ち着いた声だった。でも、少しだけ震えているようにも聞こえた。
俺は涼太の顔を見つめたまま、何も言えなかった。
頭の中でぐるぐると考えが巡るのに、口を開けない。
――どう思う?
そんなの、俺だってわからない。
「じゃあ、これから好きになって。」
俺の考えを見透かしたかのように、涼太の声が響いた。
夜風が頬をかすめる。夜の静けさに紛れて、鼓動だけがやけに大きく響いていた。
