俺は長く息を吐き出す。そして握られた両腕に力を込めて思い切り振り払った。

「俺のことが好きだ? 冗談じゃない! 俺はお前のことを見損なった。金と弱みで思い通りにさせようなんてよく汚いことを思いついたよな。庶民に言うことをきかせて楽しいか?」
「ち、違う! そうじゃなくてオレは……」
「違わないだろ! いいか、俺はお前のそういう自分勝手なところが大嫌いだ。さっき助けてくれたことには礼を言ってやるよ。だけど、思いあがるのもいい加減にしろ!」

 俺が言い放つと、上森(あげもり)は固まった。
 人は少なくなってきたとはいえ、外で怒鳴り合ってたら目立つ。
 上森を無視して帰ろうとすると、また手をつかまれる。

 イライラしながら振り返ると、上森はぼろぼろと大粒の涙を流していた。

「は……?」
「……めん。オレ、どうしていいか分かんなくて……こんなに、誰かのことが気になるの初めてで……だから、せめて側にいたくて、でも素直に言えなくて……」
「おい、こんなところで……あぁ! もう、仕方ない」

 俺は複雑な気持ちで上森の手を引っ張って、遊園地を出る。
 遊園地の側にある人気の少なくなった公園へ入り、ベンチへ座らせた。

「泣くくらいなら最初から強引なことするな! お前、バカだろ?」
「んなこと言ったって、いい方法思いつかなかったんだって! ダチでもなんでもいいからって思ってたけど……朝氷が誰かにとられるくらいならオレがって……」
「いや、その発想はおかしい。そもそも俺のことが好きとかなんとか言ってるけど、それって……本当にその、恋愛的な意味でってことか?」
「ん……たぶん。だって、朝氷のこと抱きたい」

 コイツ、ストレートにぶっちゃけすぎだろ! しかも抱きたいってなんだよ!
 俺、抱かれる側? さっき女の子がどうとか言ってなかったか?

「はあ……呆れる。お前には真剣さが足りない。俺も好きだけど、女の子も好きって。そんなのダメだろ。俺はどうでもいいけど、お前に関わる女の子がかわいそうだ」
「確かに女の子は可愛いけど、オレが手に入れたいって思ったのは朝氷だ。だから、朝氷が特別」
「そういうもんか?」
「うん。なあ、朝氷はオレのことどう思う?」

 やっと泣き止んだ上森は、赤くなった瞳を潤ませながら俺を見つめてくる。
 そんな顔されても、俺はキュンとしたりしないってのに……放ってはおけないとは思う。

「俺は、恋とか愛とか言われても知らないし。今は自分の好きなことを好きなようにやりたいだけだ。ただ。側にお前が図々しく乗り込んでくるから……一緒にいるだけ」
「……そっか。オレは朝氷の優しさにつけ込んでただけか。ごめん」
「それこそ今更だ。最初から本当に嫌だと思ったら拒絶してる。俺もさっき助けてもらったし。これで貸し借りはなしだ」

 俺が言いきると、上森は嬉しそうにまたニッと笑ってみせた。
 チャラ男な見た目なくせに、強引で無遠慮に入り込んでくるヤツ。
 そして、使える武器をつぎ込んで俺の側にいたがるなんて。そんな物好きなヤツ、他にはいないだろうな。

「……もう、先生を脅したりしてないんだよな?」
「してない。ってか、先生が学校で生徒と……」
「あー……ストップ。なんかドラマにありそうな場面に出くわしたってことか。分かった」

 俺は上森の前に手のひらを突き出すと、上森は急に手のひらをペロっと舐めてきた。
 俺が両肩を揺らしてビビると、上森はケラケラと笑い出す。
 ……泣いたり笑ったり忙しいヤツ。

 イラっとしたので、べちんと鼻を叩いてやった。

「……ったぁ!」
「お前は少し反省しろ! じゃないと……今度こそ本気でお前のこと見捨てるからな」
「え……? 今度ってことは……」
「言っただろ? 貸し借りなしって。俺のこと好きだって言うなら、俺のことを夢中にさせてみろよ。ま、チャラ男にできるかどうか知らないけどな」

 これはゲームだと思えばいい。
 上森は俺のことを落とせるかどうかの恋愛ゲーム。果たして、俺はこれから上森のことを好きになるだろうか?
 笑いながら言い切ると、絶対落としてみせる! と上森は自信満々に言い切った。

 俺は笑っている上森の側にいるのが、実はそんなに嫌じゃない。
 好きかどうかで言えば……たぶん、好きだ。