俺は妙に疲れてるってのに、上森(あげもり)はニヤニヤ顔でどこか嬉しそうだ。
 その顔を見ているだけで腹立たしくなってくる。

「でもさ、朝氷(あさひ)がオレを頼ってくれたのはちょっと嬉しかった。オレ、ちゃんと役に立つでしょ?」
「何だよ、それ。頼ってねぇし。お前が勝手にしただけだろ」
「大丈夫だって。オレと朝氷だけの秘密?」
「そういうのは、お前が好きな子に言ってやれば? 俺がビビッてたって言いふらそうがどうでもいいし。分かったから、手、離せ」

 ブンと手を振ると、パッと上森の手が離れた。
 その手と俺の顔を順に見て、上森がいかにも残念そうな表情をする。

「オレ、朝氷のこと好きなのになー」
「それは、どうも。そういうのみんなに言ってんだろ? いいよ、別に。俺にまで気を遣わなくても。好かれようと思ってないし」
「……まぁ良いや。今じゃないか。じゃあ、景気づけにもう一回、ジェットコースター行く?」
「はぁ? 何回乗る気だよ……あぁぁ、分かった。分かったよ! あと、一回な」

 願いを聞き入れると、上森はニィっと笑って嬉しそうな表情にパッと切り替わる。
 俺も正直、一度気分転換したい気持ちだ。
 この後も上森と一緒に回ることになってしまったけど、あの気持ち悪い体験よりはずっとマシだった。

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「あー……最高! やっぱ遊園地いいわー」
「お前の体力はどこから湧いてくるんだよ……俺は疲れた。もう帰る」

 上森はジェットコースターのおかわりどころか、他の乗り物も乗ろうと俺を無理やり引っ張りまわして結局閉園時間ギリギリまで付き合わされた。
 おかげで俺もお化け屋敷での出来事は忘れられて良かったけど、遊園地を出ようとしたところで上森がくるっと振り返ってきた。

「なあ、朝氷。また来ような?」
「はあ? 何でだよ」
「オレが朝氷と一緒に来たいからじゃダメ?」

 夕日に照らされた上森の顔はいつものヘラヘラ顔とは違って、少し自信のなさそうな顔だった。
 今日だって強引に連れてきたくせに、今更何を言っているんだか。

「またゲームで勝負する?」
「アレ、相当頑張ったんだって! 朝氷は強いから勝てる気しない」

 しょんぼりしている上森を見ていると、何だか笑ってしまった。
 俺が急に笑い始めたのに気づくと、上森が急に駆け寄ってくる。

「な、なんだよ」
「……良かった。朝氷が笑ってくれてさ。オレ、今日も朝氷に付きまとってよかった」
「は? なんだよ、付きまとうって……」

 確かにいつも付きまとわれている気がするけど、何か違う意味を含んでいるのは気のせいか?
 俺が訝し気な顔をしたせいか、上森はニッと笑う。

「オレは朝氷の側にいたいからさ。ずっと無理言って同じクラスにしてもらってた。一応、オレの親は寄付金納めてるから」
「そういや、お前の家って金持ちだったっけ? って、なんでわざわざ俺と同じクラスに……」
「え? 聞きたい?」

 悪戯っぽく笑う上森の顔は、冗談と本気が入り混じる不思議な顔つきだった。
 いつもはチャラいくせに、声色が少し真剣で……妙に意識してしまう。

「さっきも言ったのに軽く流されたし。だーかーらー。オレ、朝氷のことが好きなの。一年の時に見かけたとき、一目ぼれってやつ? しちゃってさ。オレ、可愛い女の子も好きなんだけど。朝氷は特別っていうか……」
「それ、冗談じゃ……」

 俺が長そうとすると、上森に片腕をつかまれる。
 離せと言う前に両腕をつかまれた。
 上森の顔がグッと俺に近づいてくる。

「これでも、冗談に聞こえる? オレさ、出席番号のありがたさを知ったよね。席順も先生の弱み握って、絶対朝氷の側にしてもらうようにしたし」
「……何それ? そんなのおかしいだろ」

 色々パニクってるが、とりあえずコイツの考え方は気に食わない。
 やってることが汚いっていうか、そんなのただの脅しだ。
 金に物を言わせる? 冗談じゃない。