夏休みに入って一日目――
 このクソ暑い中、俺は上森(あげもり)と遊園地に来ている。
 開園時間から張り切る上森に対して、俺は引きずられて適当にやり過ごす。
 絶叫系も一通り付き合わされて、正直クタクタだ。テンションの高い上森についていけない。
 俺の白い半袖シャツだって汗だくでジーンズも湿ってきたし、正直もう帰りたい。

「あーさーひー? 生きてる?」
「生きてるように見えるか? お前が異常なんだよ。真夏の遊園地なんて、暑くてやってられるか」
「だからソフトクリーム買ってやっただろ? 楽しいじゃん、遊園地」
「楽しいのはお前だけだろ。俺は涼しい室内でゲームしてる方がいいんだよ」

 俺がしなびているからと上森が買ってきたソフトクリームを素直に食べる。
 暑い時には最高に美味しい食べ物だ。舌先がヒンヤリとしてうまい。

「そんなんだから、色白もやしとか言われるんじゃね?」
「チャラ男に言われたくねぇよ。一緒にいるこっちの身にもなってくれ」
「じゃあ、食べ終わったらさ。お化け屋敷行こうぜ」
「は? なんでだよ。一番面白くないヤツだろ。別にここのお化け屋敷って有名でもないし」

 上森が指差した先には、こぢんまりとしたお化け屋敷の建物が見えた。
 外装から見ても年季が入ってるみたいだし、要は作り物のおばけたちが出てくるだけのつまらないヤツだろう。

「なぁ、いいだろ?」
「お前、言い出すと永遠に言い続けるんだよな。じゃあ、そこ行ったら帰ろうぜ」
「まだ閉園まで結構時間残ってるのに? つれないなー」
「キモいこと言うなよ。俺ほど付き合い良いヤツいないだろ? 食い終わったらさっさと終わらせるぞ」

 りょーかーい! と、軽く返してくる上森にまたうんざりする。
 なんでこんなに楽しそうなのか、全くもって意味が分からない。
 俺はため息とともに、ソフトクリームを一気食いして最後のやる気を仕方なく振り絞った。

 +++

 お化け屋敷は予想通りで、レトロな世界観だった。
 年季の入った白装束に髪の長い女のお化けがヒョイっと飛び出してきたり、村人らしき男がぼそぼそと語っている。
 涼しい以外は特に見どころもないし、正直つまらない。
 薄暗いからはぐれないようにって上森が隣にいるのが一番気になった。
 離れろと言っても危ないからと言って俺から離れようとしないから、無駄な争いをするのは諦めた。

「こんな子供だまし……何が楽しいんだよ」
「まぁまぁ。カップルで来たら盛り上がるんじゃない?」
「お前さぁ……それ、どこの王道? しかも結構昔のヤツ」
「えー? オレはそういうの好きなんだけど。よくない? きゃぁ! って言われて、可愛い子に抱きつかれたりするの」

 上森がしゃべりながら演技してくるジェスチャーに、バーカと一言で切り捨てる。
 そんなに王道なことをさせたいなら、俺じゃなく可愛い女子とくればいいのにと心底思う。
 コイツの顔はそこまで悪くない訳だし、そもそもモテている気がする。
 それなのに、なんで毎回俺なのか。
 俺だと気を遣わないというのは分かる気もするが、正直俺にとってはうっとうしいだけだ。

 だらだらと歩いているうちに、出口に近づいてきたみたいだ。
 最後の最後にキャー! というくぐもったテープの音声が流れる。

「そろそろ出口……」

 俺が言いかけたところで、薄暗い照明が急にチカチカと明滅し始めた。
 そして、ブツンという音と共に辺りは真っ暗になってしまった。

「なになに、コレって演出? これはちょっとビビる!」
「……っ」
朝氷(あさひ)? どうしたんだよ」
「あ、明かり……」

 俺は携帯を取り出そうと必死になってボディバッグを探っているはずなのに、真っ暗で何も見えない。
 暗闇は昔から苦手だ。不安になると、足元がスースーしてきた気がする。