小鳥遊、と戸村が箒片手に近寄ってくる。週に一度のペースで回ってくる理科室の掃除は、これといった汚れもない上に、机を動かす必要もない。掃除場所としてはアタリと言えた。
「今日ヒマ? カラオケ行こうって話が出てるんだけど……」
僕へと向かっていた戸村の視線が、斜め後ろへと泳ぐ。クラスの打ち上げに誘われることはあっても、個人的に誘われたのは初めてだった。ほわりと胸が温かくなる。けれど、今週の僕は誘いに乗ることができない。右後ろに小さく引っ張られている感覚があるから。
「あー、今週はちょっと予定があって」
「そっか。じゃあ、また今度」
「うん、また誘って」
戸村が離れたところで、振り返れば、すぐそばに神崎が立っていた。左手は僕のブレザーの裾を摘んでいる。行かないよな、と言葉にしない気持ちが見えて、思わず笑ってしまった。番犬というより忠犬? もしも僕が戸村とのカラオケを選んだら、怒っただろうか。それとも傷ついた顔をしたのだろうか。
「早く掃除終わらせよ。時間なくなっちゃうから」
ん、と喉奥で返事をすると、神崎が机拭きに戻っていく。相変わらずピアスはいっぱいだし、ずっと睨んでいるような顔だけど。授業も掃除もサボらないんだよな。僕がいるから? そんなことないか、と振り払いながらも、腰の右側がまだ少し温かい気がしてくすぐったかった。
「今日ヒマ? カラオケ行こうって話が出てるんだけど……」
僕へと向かっていた戸村の視線が、斜め後ろへと泳ぐ。クラスの打ち上げに誘われることはあっても、個人的に誘われたのは初めてだった。ほわりと胸が温かくなる。けれど、今週の僕は誘いに乗ることができない。右後ろに小さく引っ張られている感覚があるから。
「あー、今週はちょっと予定があって」
「そっか。じゃあ、また今度」
「うん、また誘って」
戸村が離れたところで、振り返れば、すぐそばに神崎が立っていた。左手は僕のブレザーの裾を摘んでいる。行かないよな、と言葉にしない気持ちが見えて、思わず笑ってしまった。番犬というより忠犬? もしも僕が戸村とのカラオケを選んだら、怒っただろうか。それとも傷ついた顔をしたのだろうか。
「早く掃除終わらせよ。時間なくなっちゃうから」
ん、と喉奥で返事をすると、神崎が机拭きに戻っていく。相変わらずピアスはいっぱいだし、ずっと睨んでいるような顔だけど。授業も掃除もサボらないんだよな。僕がいるから? そんなことないか、と振り払いながらも、腰の右側がまだ少し温かい気がしてくすぐったかった。



