――わたしに、人生初めての友達ができた。


『俺があんたの友達1号になってやろうかって言ってんだよ』

『高校生になって友達とやりたいこと、あの青春ノートにいっぱい書いてあるんだろ?』

『じゃあその青春、俺が叶えてやるよ』


きっかけは、ジミー先輩のあの言葉たち。


ジミー先輩は、青春ノートに書かれているわたしの憧れの青春を叶えるため、わたしの友達になってくれた。



【・学校までの道で友達を見つけて、いっしょに行く】


今までなら友達がいないわたしが、だれかといっしょに学校に行くことすら想像がしたことがなかった。

だけど、今は違う。


駅から出て少し歩いていると、前方にボサボサの黒髪を見つけた。


「ジ…、ジミー先輩!」


わたしは勇気を出して後ろから声をかけた。

すると、すぐにジミー先輩が振り返った。


「だれかと思ったら、高嶺か。おはよー」

「…おはようございます!あ、あの…」

「ん?」

「いっしょに学校行ってもいいですか…?」


わたしがジミー先輩の顔色をうかがいながら聞くと、ジミー先輩の表情が緩んだ。


「うん、いっしょに行こ」


それを聞いて、わたしから思わず笑みがこぼれた。


「よかったー…。緊張しました」

「なんでこんなことで。それも、青春ノートの?」

「はい。『学校までの道で友達を見つけて、いっしょに行く』です」

「なんだそりゃ」


ジミー先輩はクスクスと笑った。


そんな並んで歩くわたしとジミー先輩を見た清凛生たちは、口をあんぐりと開けてわたしたちのことを見ていた。


「あの人ってたしか…。3年のジミー先輩だよね…!?」

「なんで、ジミー先輩とマドンナがいっしょに登校!?」


驚きを隠せない1年生の女の子たち。


「そういえば、この前もマドンナがジミーを呼び出してたよな…!?」

「えぇえ!?もしかして、マドンナとジミーって――」

「お前ら落ち着け!それはないだろ…!だって、相手はあのジミーだぞ!?」


後ろのほうから3年生のそんな話し声が聞こえ、ジミー先輩は「はぁ」と気だるげなため息をついた。


「勝手に話盛るなよなー。高嶺とはただの友達だよ」


そう言って、ジミー先輩はその3年生たちのほうを振り返る。


「とっ…、“友達”…!」

「よかった〜…と思いつつも、なんでジミーがマドンナの友達!?」

「マドンナと友達だなんて、庶民がなっていい階級じゃねぇよ…!」


3年生たちは震え上がり、なぜか後退りしていった。


「な…なんなんでしょうか、あの人たちは」

「知らね。いつもあんなんだから気にすんな」


ジミー先輩の言葉にわたしは苦笑いした。

すると、隣で「あっ」とジミー先輩の声が漏れた。


「そういえば俺、さっきから“高嶺”って呼んでたな」


ジミー先輩が気にしてくれていたのは、青春ノートに書いていたある項目についてだった。


【・友達から名前で呼ばれたい】


友達になった夜、ジミー先輩はそれを見て『花』と呼ぶと言ってくれていた。


「構いませんよ。ジミー先輩が呼びやすいほうで」

「そこはちゃんとしないとダメだろ。俺が友達になって、青春叶えてやるって約束したんだから。なっ、花」


――“花”。


初めて名前で呼ばれた。

家族以外の人に。


なんだか、胸の奥がぽっと温かくなったような気がした。


ジミー先輩はわたしの友達として、学校でしてみたい青春をたくさん叶えてくれた。


【・お弁当のおかずを交換し合う】

約束をして、お互いお弁当を作ってきて、お昼休みにだれもいない屋上でおかずを交換し合いながらいっしょに食べた。


【・忘れた教科書の貸し借りをする】

たまたまわたしが2年3年共通で使う教科書を忘れたとき、ジミー先輩が貸してくれた。


【・自転車を2人乗り】

気まぐれで自転車通学するというジミー先輩の自転車に、通学途中に偶然会ったときに後ろに乗せてもらった。

それを校門前で先生に見られ、2人いっしょに怒られた。


でもなんでだろう。

先生に怒られているのに、なぜかうれしかったのは。



「それにしても、ちゃんと見たらすごい量だな」


とある日の放課後。

ジミー先輩とカフェにきて、わたしの青春ノートをペラペラとめくるジミー先輩。


これにて、【・友達とカフェ】が達成された。

ちなみに、【・友達とカラオケ】は先週に達成されている。


「してみたい青春欲がすごいな」

「夢は大きくです!」


わたしのやってみたい青春の数々に、ジミー先輩は苦笑いを浮かべる。


「じゃあ、次はこの辺りをしてみるか」


そう言って、ジミー先輩は青春ノートのあるページを指さした。

それは、『夜遊びシリーズ』だ。


【・夜にゲームセンターに行きたい】

【・夜景を見にいきたい】

【・花火をしたい】

【・夜の海に行ってみたい】


そもそも夜に出かけることに慣れていないわたしは、これらの項目を“禁忌”と呼んでいる。


「ついに禁忌を…!」

「なにが禁忌だよ。案外フツーなことしか書いてねぇぞ?」


ジミー先輩にそう言われ、わたしはなんだか恥ずかしくなって顔が赤くなった。


「でもこの『夜景を見にいきたい』って、この前夜の屋上で叶ったよな?」

「たしかにあれも夜景ですけど、みんなでノリで『このあと夜景見にいこうぜ!』って話になって見にいってみたいなー…と思いまして」

「設定が細かいな」

「す、すみません…!無理なら全然いいんですけど…」


わたしがジミー先輩の顔を覗き込むと、ジミー先輩は顎に手をあててなにか考え込んでいた。


「花、今日の夜は?出られる?」

「は、はいっ。お母さん今日も夜勤なので、11時までに家に帰れば」

「わかった。じゃあ、10時までには家に帰すから6時に駅まできてくれる?」

「わかりました。なにをするんですか?」

「それは、そのときのヒミツ」


ジミー先輩は、口元に人差し指をあててニッと微笑んだ。


そのあと家へと帰り、制服から私服に着替えた。

今日の授業の復習をして、時間がくると家を出た。


そして、待ち合わせの駅へ。

でもそこにジミー先輩の姿はなかった。


「ジミー先輩、まだかな」


辺りをキョロキョロしていると、ふと音楽が聞こえてきた。

ヒップホップなどのダンスに使われそうなテンポの速い曲だ。


静かな駅前には少し合わない曲がどこから流れてきているのかと探していたら、向こうのほうからやたらとピカピカ光るワンボックスカーが現れた。

大音量で曲を流しているのはあの車だ。


車内も盛り上がっているのか、肩を揺らしている人たちが乗っているのが外からでもなんとなくわかる。


そんなことよりも、ジミー先輩は――。

と思っていたら、なぜだかその派手な車がわたしの前で止まった。


そしてスライドドアが開き、中からサングラスをかけたイケイケのお兄さんが降りてきた。


「え〜っと、花チャン?」

「…え、……え?そうですけど…」

「やっぱり〜!聞いてたとおりの美人じゃん!」

「あ、あの…、どうしてわたしの名前を――」

「とりあえず乗って乗って〜!」


と言われたけども、見ず知らずの人の車に乗り込むことなんてできるわけがない。

気を悪くさせないために笑顔で断ろうと思ったけど、イケイケのお姉さん2人も降りてきてわたしの手を握った。


「だ〜いじょうぶ、花チャン!迎えにきただけだから」

「むっ…迎えに!?」

「べつに取って食おうとかじゃないから、安心して〜」


そんなこんなで、わたしは押し込まれるようにしてワンボックスカーに乗せられて――。

…その場から連れ去られたのだった。


車内は知らないイケイケのお兄さんとお姉さんさんばかりで、わたしは緊張でガチガチ。

どこに連れて行かれるんだろうとビビっていた。


「着いたよ〜!」


運転手の入れ墨ゴリゴリお兄さんが笑顔で後部座席を振り返り、そうしてスライドドアがゆっくりと開いた。

連れてこられた場所は、なんとボウリング場。


「…へ?ボウリング?」

「花チャン、こっちこっち〜!」


キョトンとするわたしだったけど、イケイケお姉さんたちに誘われてボウリング場へ。


ボウリング場にくるのは小学生のときに家族できた以来で、すごく久しぶりだった。


重みのあるボールが転がる音。

白いピンが弾ける音。


ボウリング場独特の音に、思わずわたしは興奮してしまった。


「ちゃんと連れてきてくれたじゃん」


そんな声が聞こえて振り返ると、そこには学校とはまったく違うおしゃれな私服姿のジミー先輩がいた。


「花、びっくりしたろ?突然、変なやつらに連れ去られて」


わたしは目をパチクリとさせながら、周りのイケイケお兄さんたちに目を移す。


「おい、一颯!変なやつらとは失礼だなー」

「そうよ〜。花チャンは丁寧におもてなししてここまで連れてきたんだから〜」


“変なやつら”と言われたことが不服のようで、お兄さんたちはジミー先輩に文句を言っている。

でも怒っているというわけではなく、みんな笑ってるから冗談を言い合っているようだ。


「花の話したらさ、みんな見てみたいって言うから、こいつらに迎えを頼んだんだよ」

「…えっと、ジミー先輩。わたし、いまいち状況が理解できていないのですが…」

「ああ、そういえばまだなにも言ってなかったな」


そう言って、ジミー先輩はわたしに説明してくれた。


「こいつらは、俺の友達」

「イェ〜イ、よろしく〜!」


ノリノリのお姉さんたちにわたしはペコペコと頭を下げた。


「それで、今からみんなでボウリングするってわけ」

「それはなんとなくわかりましたけど…、なんでボウリングなんですか?」

「え?だって、『みんなでボウリングで盛り上がりたい』って書いてあっただろ?」


ジミー先輩に言われて、はっとした。

そういえば、そんなことも青春ノートに書いていたと。


「でも、ボウリングならジミー先輩とだってできますし」

「俺だけじゃ、“みんな”とは言わねぇだろ」

「…それは、たしかに」


そこで、ジミー先輩はこうしてパリピ仲間のみなさんを集めてくれたようだ。


学校との姿が違いすぎるから、まだまだわたしはジミー先輩のパリピ姿を見慣れていないけど、ここにいる人たちの中に入れば、むしろジミー先輩は馴染んでいた。

というか、他の人のほうがジミー先輩よりも派手だ。


「花チャンはこっちのレーンだよ〜!」


イケイケお姉さんに呼ばれる。


「…えっ。でもわたし、人見知りなので――」


『人見知りなのでジミー先輩と同じレーンがいいです』

と言おうとしたけど、イケイケお姉さんが腕を組んできた。


「はい!花チャン、行くよ〜!」


そうして、強制的にジミー先輩とは離れたレーンに連れて行かれたのだった。


ここに集まったのは、ジミー先輩のお友達10人。

みんな似たようなイケイケで、これまでわたしが関わったことのないような人たち。


ただでさえ人見知りのコミュ障なのに、初対面でいきなりイケイケのみなさんとボウリングだなんて、わたしにはハードルが高すぎる。

そう思っていたけれど、みなさんはそんなわたしの壁を容易く打ち砕いてくる。


「次、花チャンだよ!」

「花チャン、ナイスぅ〜!めっちゃうまいじゃん!」


気づいたら、わたしは笑顔でハイタッチを交わしていた。


そのあとは、イケイケお兄さんの車に乗ってみんなで夜景を見にいった。


『みんなでノリで『このあと夜景見にいこうぜ!』って話になって見にいってみたいなー…と思いまして』


学校帰りのカフェでジミー先輩に話した理想の夜景を見にいく流れ。

今がまさにそれだった。


山道を上ったところにある、この辺りでは定番の夜景スポット。

でも、駅からは遠いし、バスもこの時間はほとんど通っていないから、くるとなると車が必要になる。


わたしじゃ絶対に行くことができないような場所。

でも、ジミー先輩のパリピ仲間は年齢も職業も様々で、その中の人が今回車を出してくれたのだ。


「うわー!きれいー…!」


屋上で見た夜景とは比べ物にならないほどの光の海が広がっていた。


「花チャンの反応、初々しすぎ!夜景、見たことないの?」

「ないことはないんですけど、こういう定番スポットにはきたことがないです」

「へ〜、そうなんだ!」

「はい。だから、目に焼き付けておきます」


わたしがそう言うと、なぜかみんなが笑った。


「そんな、目に焼き付けなくてもいいよ!」

「でも、きれいなので――」

「見たくなったら、オレがこうして車出すからさっ」

「そうだよ。またみんなでこようよ!」


――“またみんなで”。

その言葉がうれしくて、わたしは目の奥がじんわり熱くなった。


「どう?『夜景を見にいきたい』っていう青春、叶った?」


ジミー先輩がわたしの顔を覗き込む。

そんなジミー先輩に、わたしは満々の笑みで答えた。


「はい!」


そのあと車で送ってもらい、10時までには家に帰ることができた。


こうして、毎日じゃなくとも、ジミー先輩がわたしを夜遊びに誘ってくれた。

夜にゲームセンターにも行ったし、花火もした。


ジミー先輩のパリピ仲間もいっしょに。

でも、パリピ仲間もいろいろな人がいて、ジミー先輩は何人友達がいるんだろうと思うくらい、見かける人はいつも違った。


だけど、みんなとても話しやすくて楽しい人ばかりで。

わたしもいろんな人に会えるのが楽しみになっていた。


【・夜の海に行ってみたい】

というわたしの青春は、ある意味でわたしの想像とは違った。


わたしは、夜の海で静かな波音を聞く風景を想像していたんだけど――。

なんと、ジミー先輩がクルーザーを手配していた…!


こんなものどうやって…と思ったけど、そういえばジミー先輩はちょっとした社長だったということを思い出した。


海に浮かぶクルーザーの上で、パーティーが始まる。

みんな好きなドリンクを飲みながら、BGMに合わせて踊っていた。


終わったら、ジミー先輩が家まで送ってくれる。

わたしにとっては刺激的な夜遊びの数々だけど、いつも真面目に10時までには家に送ってくれる。


ジミー先輩はわたしを送ったあと、また遊びに合流しに行くらしい。

そうして夜更かしするものだから、また次の日は髪がボサボサのジミー先輩として学校にくる。


夜はパリピだということは、わたしだけが知っているジミー先輩の裏の顔だ。


ジミー先輩やパリピ仲間の人たちのおかげで、わたしの人見知りのコミュ障もずいぶんと改善されてきたような気がする。

ジミー先輩のおかげだ。


わたしの青春を叶えるために、“友達”になってくれたジミー先輩。


だから、友達のジミー先輩とまさかあんな展開になるなんて思いもしなかった――。



それから、数日後。

今日は日直で、わたしはだれもいない教室に残って1人で日誌を書いていた。


「おっ、いた」


そんな声が聞こえて顔を上げると、ドアのところでジミー先輩が顔を覗かせていた。


「どうしたんですか?2年の階にくるなんてめずらしいですね」

「花いるかなーって思って見たら、本当にいた」

「なんですか、それ」


わたしは思わずクスッと笑った。


「そうだ、花。今日の夜空いてる?またあいつら、海行きたいとか言っててさ」


――“海”。


「だからまた――」

「…あの、ジミー先輩」


わたしは意を決してジミー先輩の話を遮った。

そして、きゅっと唇を噛む。


「クルーザーでの夜の海、すごく楽しかったです」

「そっか、よかった。花が楽しんでくれたのなら、今回も――」

「でも違うんです」

「…違う?」


ジミー先輩はキョトンとして首をかしげた。


ジミー先輩はわたしの憧れの青春を叶えてくれている。

わたし1人じゃ絶対に叶えることができないくらいのお金と時間をかけて。


でも、――そうじゃない。


「ジミー先輩がわたしのためにしてくれること、すごくうれしいです。…だけど、わたしの思い描く青春とは少し違うこともあって」

「例えば?」

「『夜の海に行ってみたい』というのも、静かな浜辺を散歩してみたかったんです。もちろんみんなでワイワイするのも楽しいんですけど、どちらかというと2人でまったりとした青春が理想だなって…」


自然とわたしの声が震えた。


きっとジミー先輩に嫌な思いをさせた。

わたしのためにしてくれているのに、それに文句を言うようなこと。


もしかしたら、友達の縁を切られるかもしれない。

こんな面倒くさい友達、もういらないって――。


「そっか。たしかにそういう青春もいいな」


ふと聞こえたジミー先輩の言葉に、わたしは慌てて顔を上げた。


「気づいてやれなくてごめん。俺、派手な遊びしかしてこなかったから、そういう考えなかったわ」

「…え、怒って…ないんですか?」

「なんで怒るの?むしろ、俺もまったり青春やってみたい」


そう言って、ジミー先輩は微笑んでくれた。


…驚いた。

てっきり嫌われるかと思っていたのに、いっしょにまったり青春をしてみたいだなんて――。


「で、花のまったり青春ってどんなの?もっと聞かせて」


ジミー先輩がわたしの前の席に座って、こちらを向いて頬杖をつく。

わたしの話を聞いてくれようとするその姿勢がうれしくて、わたしは興奮気味に青春ノートを開けた。


「ま…まずですね、夜の静かな浜辺を歩きたくて」

「それは今聞いたよ。あとは?」

「あとは、朝家を出たら待ってくれてていっしょに登校したり、今は寒くないので無理ですけど、『寒いね〜』なんて言って手繋いで相手のコートのポケットに入れたり――」


わたしのしてみたいまったり青春がフィーバーして、思わず早口になってしまう。


「あと、これ!有線イヤホンを片耳ずつつけて、いっしょに音楽を聞きたいんです!これ、すごく憧れで!“有線イヤホン”ってところがポイントです!」


と言ってふとジミー先輩の顔を見ると、ジミー先輩の目が点になっていた。


…まずい。

わたしがいろいろ話しすぎて、絶対に引かれた。


「あ…、でもこれはただの理想で…。やっぱりなんでもないです…、はい」


冷静になったら当然恥ずかしくなって、わたしはゆっくりとうつむいた。

すると、正面からプッと笑い声が漏れた。


「いいじゃん、やろうよ全部」

「えっ、いっしょにしてくれるんですか…?」

「うん。初々しいくらいに内容全部ピュア恋ばっかでびっくりした」

「ピュ…、ピュア恋!?」

「だって、これ全部恋人とする青春でしょ?」


ジミー先輩に言われて初めて気づいた。

たしかに今挙げた青春すべて、彼氏としてみたい青春だった。


「…あ、なんかごめんなさい。盛り上がりすぎて、…つい。こんなの無理に決まってるのに――」

「無理じゃないよ。だったら付き合おうよ、俺たち」


そのとき、どこからともなく空耳が聞こえた。

ぽかんとしていると、目の前にはニッと白い歯を見せて笑うジミー先輩の顔。


「俺と付き合ってよ、花」

「…なっ、なに言ってるんですか!」

「あれ?これも青春ノートになかったっけ?『放課後の教室で告白されたい』って」


わたしの握りしめている青春ノートを指さすジミー先輩。

慌てて見返すと、たしかにあった。


【・放課後の教室で告白されたい】――と。


「俺が花の彼氏1号な」


『俺があんたの友達1号になってやろうかって言ってんだよ』

あの言葉がきっかけて、ジミー先輩はわたしの友達役になってくれた。


だから、今回もわたしの青春を叶えてくれるためだけの恋人役への立候補。

ジミー先輩にとって、とくに深い意味はないはず。


だから――。


「こ、こんなわたしでよければ、…よろしくお願いします」


わたしはペコッと頭を下げた。

それを見たジミー先輩は満足げに微笑むと、わたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。


「りょーかい。じゃあ、俺とピュア恋はじめよっか」



こうして、わたしとジミー先輩の奇妙な恋人関係が始まろうとしているのです。



Fin.