「凛音さん、じゃあ、次どうぞ。もちろん無理はしないで」
「うん」
私も、拓真くんと同じようにミルクティーを2口ほど飲んだ後に、語り始めた。本来の姿は❝陰キャ❞であるのにもかかわらず、学校では❝陽キャ❞を演じなければいけない理由を話し始めた。
――私も拓真くんと同じように、1つの出来事がきっかけとなって❝陽キャ❞を演じなければいけなくなった。
私は、中学を卒業する前までは知っての通り❝陰キャ❞だった。でも、高校では❝陽キャ❞を演じなくてはいけないと思ったのは、皮肉にも陽世くんが関係していた。
中学3年生の夏休み。特に高い志望校に行くという目標もなかった私は、時々勉強しながら、読書やオタ活に時間を費やす、典型的な❝陰キャ❞ライフを送っていた。
ところが、夏休みも半ばに差し掛かった暑い日、突然、クラスの❝陽キャ❞グループの一人から、夏祭りの手伝いに加わってくれないかというLINEが届いたのだ。
送ってきた人に、断ればしつこくしてくることはないと思うけれど、❝陰キャ❞の私にとって誰かの――特に❝陽キャ❞からの誘いを断るなんてことは現実ではなく、そのお手伝いを結局引き受けてしてしまった。
夏祭りの手伝いは、普段動かない❝陰キャ❞の私にとってみれば重労働であったけれど、幸いにも誰かと一緒に行動する必要はなく、そこだけは救われた。
休憩時間、差し入れのお茶を片手に、ベンチでひとり休んでいると、その当時はまだ名前は知らなかったけれど、陽世くんが私の目の前を通り過ぎる際、ふとことんな言葉を吐き捨てた。
「地味野郎」
その声は大きくなかった。でも、確かに私の目の前で、私の目を見て「地味野郎」という侮辱的な言葉を言った。その当時の私も今日みたいに❝陰キャ❞丸出しの服を着ていて、見た目も地味であったのは事実だ。だからといって、「地味野郎」という言葉は心に深い傷を負わせた。
中学校には、もちろん❝陰キャ❞も❝陽キャ❞もいた。それでも、誰一人その人の性格を馬鹿にする人はいなかった。もちろん、世の中には性格を馬鹿にする人がいることは知っていた。
地味野郎――陽世くんはその後も、私の❝陰キャ❞に関する悪口をいくつか言っていた。相手は聞こえないと思っていたのかもしれないけれど、私の耳にもしっかり届いていた。
それが悔しくて、悔しくて――そして、私は心に誓った。もう二度と、こんな風にバカにされたくないと。
だから私は決めた。❝陽キャ❞を演じよう、と。全てを変えることはできないけれど、せめて学校にいる間だけでも、そうすることに決めた。
でも、急にキャラを変えたりすれば、周りに怪しまれるのは目に見えている。だから、高校に入学するタイミングで、❝陽キャ❞を演じる決意を固めた。
そのためには、誰も志望しないような高校に行く必要があった。そこで私が選んだのがこの高校。近くには、新しくできたばかりの高校もあったから、この高校を志望する人は少ないだろうと予想した。それに、偏差値が高い学校であったので、なおさら都合が良かった。
必死に勉強して、なんとか合格。案の定、この高校に進学した中学の同級生は、一人もいなかった。
私は、全てこれまでの経緯を話し終えた。
自分のこととなると、不思議と涙は出そうになかった。
全てを吐き出すことができて、心がすっと軽くなった。まるで、心が浄化されていくように。
「でも、進学したこの高校に陽世くんがいたんだ……」
「うん、それは想定外だったけどね。でも、私は❝陽キャ❞を演じているせいか、前みたいに◯◯くんからバカにされることはほとんどなかったよ。多分、あの時の私とは気づいてないんだろうね」
「お互い、陽世くんがきっかけになってたんだね」
「そうみたい。でも、拓真くんの方が――だって、私は自分自身を守るために演じなければいけなくなったけど、拓真くんの場合は違うじゃん? 自分以外の人を守るために演じているようなものだよ。本当にすごい。私なんか、自分のことを考えるだけで精一杯なのに」
「いや、そんなことないよ。自分のことを大切にできる人はすごいよ。それに、今、凛音さんは学級委員として皆のこと考えてくれるじゃん。凛音さんの方がすごいよ」



