目的は達成できたのだから、ここからは別行動してもよかったのだけど、せっかくだし、一緒にショッピングモールを回ることにした。

 ただ、ここでも❝陽キャ❞と❝陰キャ❞の差ははっきりと現れた。

 ❝陽キャ❞の拓真くんは、ファッションや雑貨店、ゲームセンターなどに興味があるのに対して、❝陰キャ❞の私は文房具店や書店に興味があった。

  でも、2人で回っているから、お互い行きたいところに入ってみた。そのおかげで、普段は足を踏み入れない店にも行けた。とても新鮮で、まるで海のブルーのように透き通った気分だった。心から楽しいと思えた。

 ❝陰キャ❞と❝陽キャ❞の違いをもう少し紹介すると、こんな違いがあった。

 例えば、拓真くんは欲しいものが見つからない時、積極的に店員さんに声をかけていた。一方、私はというと見つからなかったら「そこまでほしかったものじゃないし、別にいいや」と思い、諦めてしまう。

 それに、拓真くんは友達が探していたものまで一緒に選んで買っていたけれど、私はそんなことせず自分の欲しいものだけを見て回っていた。 

 同じ空間にいても、こんなにも行動が違うんだと実感してしまう。

 2人が唯一、興味が被っていた場所があった――それが化粧品店だ。

 私は、休日は必要ないけれど、学校のある日には❝陽キャ❞を演じるために必要であったし、拓真くんは学校のある日は必要ないみたいだけど、休日にはいろいろな人と遊ぶこともあり本来の❝陽キャ❞でいるために、必要だったからだ。

「んー、これ、そういえばもうなかったから、買っていこう」

 私は、もうすぐ切れそうな愛用している化粧品をカゴに入れる。値段は少し高めではあるけれど、平日しか使わないことを考えると、まあ妥当だと思う。

「ねえ、おすすめのシャンプーとかある?」

「これとか、おすすめかも。これに変えてから、友達からの評判もいいんだよね。匂いがいいねって言われるんだ。ちなみに、休日は髪に優しいこのシャンプーを使ってる」

 拓真くんにオススメのシャンプーを聞かれたので、今使っているシャンプーを教えた。 

「確かに、これ柑橘系の匂いって書いてあるね。あっ、学校で凛音さんが僕の近くを通った時、そんな匂いがしたかも。いい匂いだったな。僕もこれ買おう! ついでに髪に優しい方も」

 私には2つの姿があるので、おしゃれ用のシャンプーと髪に優しいシャンプーの両方を知っていることが、役に立つこともあるようだ。

「ねえ、休日はしないってことは、本当は化粧とかあまり興味ないの?」

「んー、実は特に興味はないかな。演じるために必要なだけで。私、元々肌が弱いから、化粧品をあまり使いたくないんだよね。別に❝陰キャ❞だし、今回みたいにデートする必要もないからね」

「そうなんだ……演じるために必要か。大変だね……。ってか、僕とのデートはいいの?」

「いや、これはあくまで偽デートだから! もし、拓真くんと本物のデートに行くんだったら、もう少しオシャレするかもしれないけど! まあ、学校の時に化粧するのはでも、もう慣れたし、それより次、行こう」

 私は少し不穏な空気を感じ、その空気を変えるために、お互いが求めていた化粧品も全て見つけたし、次のお店に行こうと提案する。

 次は、拓真くんの興味のあるファッションのコーナーに行くはずなのに、拓真くんは何か考えごとをしている様子で、何か人とぶつかりそうになっていた。

 私はファッションにはあまり興味がなかったけれど、さっき本屋に1時間も付き合ってもらったし、私は「もし私がこんな服を着たらどんな風になるんだろう」とい普段は考えもしない妄想をしながら、拓真くんが服を選び終わるのを待っていた。

 すると、拓真くんはお気に入りの一着を見つけたみたいで、私に嬉しそうな顔で購入報告をしてくれた。

「凛音さんにこれ、似合いそうじゃない?」

 店を出ようとしたところで、拓真くんの声が私を引き止めた。

 目の前には、花柄の落ち着いたワンピース。私がこのようなものを履かないとは、今日の出来事で十分わかったはずだ。

 ――じゃあ、私に対する嫌がらせだろうか?

 でも、拓真くんがそんなことするはずない――そう思いながら、彼を見つめると、なぜか真剣な顔をしていた。

「僕もさ、そうだけど、演じるのってすごく辛いんだよ。凛音さんも同じでしょ。だからさ、演じるのをやめない? もちろん、理由はあると思う。だからさ、その理由、僕も言うから教えてくれないかな? もしかしたら、お互い演じるのをやめられるかもしれないから」

 その言葉に一瞬、私はどこか別の世界の空気を吸った気がした。そして、自然と口が開いた。
 
「確かに、演じるのは辛いよね……。私自身も本当の自分じゃないのに嫌気が差してた。2人で考えれば演じる必要、なくなるかもね。場所、変えようか」