夜、満月が窓から優しい光を放ちながらきれいに見える時間になった頃、今日交換したばかりのLINEで、強制デートの計画を立てることにした。いや、ここからは強制デートなんて言わず偽デートという言葉を使おう。
私は、LINEの友達リストから拓真くんを探し出す。
彼の名前を見つけた瞬間、ふと目に留まったのはLINEのアイコン。カフェの写真だろうか。チョコバナナの上にたくさんのホイップクリームが乗ったパンケーキの写真だった。
拓真くん、こういうカフェ巡りのような趣味があるのだろうか。意外な一面に、可愛く見えてきたかもしれない。外見だけで判断するのはよくないと分かっているけれど、実は結構なアウトドア派なのかもと思った。
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凛音 凛音です。どこに行くかを決めましょうか?
20:11 既読
拓真 うん、ちょっと堅くない? 同級生なんだし、もっと気軽にいこうよ!(笑っているうさぎのスタン プ)
20:17
凛音 そうだね、ありがとう!(ねこが「ありがとう」と言ってるスタンプ)
20:18 既読
拓真 んー、じゃあ、お互いに一つずつ行きたいところを提案するのはどう?
20:19
凛音 確かに、それいいね。今から少し考えてみるね!
20:20 既読
拓真 決まった?? 僕は決めたよ!
20:50
凛音 うん、決まったよ。電車に乗ることになるけど、▲▲ショッピングモールとかどうかな?
20:53 既読
拓真 えっ、偶然! 僕もそこを考えてた。もしかしたら、僕たち、意外と気が合うのかもね
20:55
凛音 そうかもね。じゃあ、そこにしようか。待ち合わせ場所は駅から一番近い入口でいい?
20:56 既読
拓真 うん、そこで! 開店の10時くらいに集合でいいかな?
20:58
凛音 そうだね! そうしよう。たぶん、私、学校での姿とは違うかもしれないけど、びっくりしないでね
21:00 既読
拓真 実は、僕も学校での雰囲気とは違うかも……。とりあえず、それはおいておいて、おやすみなさい
21:02
凛音 おやすみなさい(ひつじが眠っているスタンプ)
21:04 既読
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これが私たち2人が交わしたLINEでの内容。このLINEの最初にも触れているように、拓真くんとのLINEはこれが初めてだったけれど、拓真くんが「気軽な感じていこう」と言ってくれたおかげで、私たちはすんなりと偽デートの場所を決めることができた。
目的地は▲▲ショッピングモール。このショッピングモールは、ファッションやグルメが豊富に揃っているのはもちろんのこと、映画館やゲームセンターなども併設されており、1日中遊べるような場所だ。私も、前から欲しかった文房具があったし、ちょうどいい機会だったかもしれない。
偽デート前日となる土曜日は、いつものように母のお手伝いをしたり、趣味に没頭したり、勉強をするなど普通の土曜日を過ごしていた。
親友2人から近況を気にするLINEが来たので適当に返しておいた。
夜になると、明日が偽デートだという実感がじわじわと湧いてきた。
クローゼットの前で服を選び始めた時、その実感は最高潮に達した。人生で初めて感じる高揚感だった。
恥ずかしながら、これまでの17年、一度もデートをしたことがない。もちろん、今回は偽デートだから、正式なデートではない。けれど、男子と2人でどこかへ出かけることさえ、私の記憶を辿った限りは一度もない。だから、おそらくこれが初めて。
こんなにも学校では❝陽キャ❞のカースト上位に位置するような社交的な私が、デートすらしたことないなんて、その理由は、服探しをしている私を見ればすぐに分かると思う。
私のクローゼットにある服は、黒やグレー、ネイビーなどの地味で控えめな色合いばかり。明るいパステルカラーや花柄など華やかな柄が印刷されている服やスカートなんて1着もない。ましてや、ミニスカートやワンピースなんて、まったくもってない。
――そう、私は学校では❝陽キャ❞を演じているだけで、実は❝陰キャ❞なのだ。
学校では事情があって❝陽キャ❞を演じているけれど、本当の私は、ただ静かな場所で落ち着いて過ごすのが好きな❝陰キャ❞ということで間違いない。
だから、私はインドア派で、基本的に友達と休日に出かけることは理由をつけて断っているし、もし出かけるとしても1人だ。
それも、コンタクトじゃなくてメガネをかけるし、髪型も学校と休日ではまったく違う。学校では時々ポニーテールをするけれど、休日にそんなことをすることはない。化粧も休日はノーメイク。ついでに言うと、よく❝陰キャ❞の象徴として描かれるオタク的な趣味も、私にはある。
それが本当の私なのだ。
「あー、拓真くん、引かないかな……」
私は、クローゼットの中にある服を見て、思わずため息をついた。やっぱり❝陽キャ❞らしい服なんて1枚もない。これは、本当の姿――❝陰キャ❞を見せるしかない。内向的な性格の拓真くんなら、きっと分かってくれる。
いや、流石に最初は引かれそうだ。もしかしたら、がっかりさせるかも。学校で見せていたあの姿が、ただの演技だったのかって。
結局、私の選んだ服装は、まさに❝陰キャ❞そのものだった。全身黒っぽくて、まるでそのまま影の中に溶け込んでしまいそうな、そんな服装だ。



