「――陽世くんもなにか、昔、辛いことがあったんじゃないかな? だから、そうなってしまったんじゃないかな?」

 ❝陰キャ❞の私は、皆を見ていないようで実はしっかり見ているし、本質を掴むのも得意だ。その❝陰キャ❞の性格もある私だからこそ、きっと陽世くんにもそうなってしまった原因があるのだろうと前から少なからず見抜いていたのだ。❝陽キャ❞では気づかなかったこの視点こそが、私にしかできないことだろう。

 案の定、陽世くんは、このようにしてしまった原因があったようで

「聞いてくれる?」と私に問いかけてきた。

 私は、うんと頷くと同時に、

「大丈夫だから、話してみて」

 と言う。拓真くんは大きく深呼吸してから、肩の荷を下ろすように話し始めた。

「あのさ、俺、家に今はもう一人暮らしをしている兄貴がいた頃、兄貴の方が強かったから、いつも俺がやられてばっかりだったんだよ。俺のゲームを奪ってデータを消して笑ったり、友達の前で何度『やめてよ』って言っても俺をバカにしたり……。それが、悔しくて、情けなくて……。だから、俺は強くいたい、誰にも負けたくないと思って自分よりも弱い人をいじめたりする行動に走っちゃったんだと思う」
 
 やっぱり、ちゃんと理由があった。もちろん、今のような理由があったとしても、今までの行動を正当化できるわけでは全くない。でも、陽世くんの人間性をより理解できるようになった気がする。ただ、まだどこか葛藤しているようにも思う。

「誰かに相談しなかったの?」

「親は全く聞いてくれなかったよ。先生に相談しても『兄弟喧嘩はよくあることだ』とか言われて、まともに話を聞いてくれなかったんだ。助けがいなかった」

 誰も助けてくれない状況に、私は思わず同情してしまう。もちろん、嫌がらせをしたことに対しての同情ではない。

「でも、強いとか、負けず嫌いとかそれを誰に対して嫌がらせとして使うのは違うよね?」

「そうだよね。そのとおりだと思う。2人の話聞いて、そんな辛い思いしてたことに気づいたよ。でも、本当に変われるのかな……」

 「本当に変われるのかな」という言葉に、「大丈夫だよ。見守ってるから」「きっと変われるよ!」など、クラスメートたちも応援の言葉を掛け始める。3日前は、反抗的な言葉だけだったけど、今は違う。私は、そんなクラスメートたちをみて、学級委員としてでなく、1人のクラスメートとして誇らしい気持ちになった。

 これで、陽世くんに対する質問は最後にしよう。
 
「今後さ、じゃあ、どうしたいと思う?」

「ごめんなさい、これからはちゃんと変われるように、頑張っていきたいと思う。自分の弱さを隠すために、他人を傷つけてた。そんな自分が一番弱かったのかもしれない。君たち2人のこともこんなに傷つけたなんて……ごめんね、そしてありがとう」

 陽世くんが謝った瞬間、クラスメートからは拍手が起きた。これが、クラスメートたちも全てでないかもしれないけれど、陽世くんの反省を少しだけでも受け入れた証拠だと私は思った。ただ、まだ戸惑いがあるのも事実だろう。

 今の彼なら、私たちが最終手段として考えていた、例えば先生に告げ口するようなことは必要ないんじゃないだろうか。自分でちゃんと考えて、自らの罪を償えるはずだ。もちろん、償うまでの期間は計り知れないほどかもしれないけれど。

「でもさ、凛音さん、別に僕は❝陰キャ❞の僕も決して嫌いではないし、演じるんじゃなくてありのままの姿の一部として、これからも本来は❝陽キャ❞だけど、❝陰キャ❞でもいようかな。凛音さんも、演じることで辛いことがあるかもしれないけど、❝陽キャ❞の凛音さんでも楽しそうな時、僕は見ていてたくさんあったと思うよ。どうかな?」

「そうだね。私も、メンイは❝陰キャ❞だけど、❝陽キャ❞要素も入れておこうかな」

 確かに、演じてたとはいえ❝陽キャ❞のよさもあったことは確かだし、もうクラスメートたちは私たちの本当のことを知っているんだし、自分の生きたいように生きればいいのかもしれない。

「ねえ、凛音、1回だけさ、拓真くんが2人で王様ゲームしたいって。どっちが王様になったかで2人の運命ももしかしたら変わるかもね」

「王様ゲーム……?」

 話が終結したと思った時、親友の1人がくじを持ってきた。拓真くんとの王様ゲームが始まるようだ。ただ、私は事前にそんなことを聞いていない。でも、これももしかしたら陽世くんに何かを伝える作戦なのかもしれないと思って、私はそのゲームに乗ることにした。

「王様だーれだ!」

 くじの結果、「ねえ、1回だけさ、拓真くんが2人で王様ゲームしたいって。どっちが王様になったかで2人の運命ももしかしたら変わるかもね」

「王様ゲーム……?」

 話が終結したと思った時、親友の1人がくじを持ってきた。拓真くんとの王様ゲームが始まるようだ。ただ、私は事前にそんなことを聞いていない。でも、これももしかしたら陽世くんに何かを伝える作戦なのかもしれないと思って、私はそのゲームに乗った。

「王様だーれだ!」

 王様になったのは、くじの結果、拓真くんになった。

 1回だけの王様ゲーム、拓真くんは私に何を命令して来るのだろう。

 胸がドキドキと高鳴る。

 今から拓真くんが命令する内容は、私がまだ気づいていない大切なことではないかと、私は感じた。 

「王様の命令は絶対だから、凛音さんは『はい』か『いいえ』で答えてください。今度、偽ではなく本当のデートをしませんか? 少しずつ、関係を築いていきたいです。凛音さんと出会えて、性格は反対かもしれないけど、だからこそ大切なことを教えてくれたよね。僕にとって大切な人になりました。王様ゲーム、命令は絶対」

 なんだ、そういうことか。拓真くんが王様ゲームをしたかった理由って。

 告白ではないけど、半分告白をしているようなものじゃないか。確かに、私も偽デートをしたとき、もし彼と本当のデートをしたらと考えた時もあったし、手を繋いだ時、胸がキュンキュンしていた。

 そして私も、性格は反対だけど、だからこそ大切なものに気ずかせてくれる人だと思った。だから、もっと知っていきたい。

 そして、いつかは――

 王様の命令に、私は従う。私が出せる答えは「はい」か「いいえ」の2つのだ。

 もちろん私は――

「はい」 

 本日2回目の、クラスメートたちからの拍手が送られた。陽世くんも私たちに対し、拍手を送ってくれた。

 私が仮に王様だったとしても、きっと同じことをしていたと思う。だから、さっき親友が言ってたことはある意味では間違っていて、どっちが王様でも決まった運命になったと思う。

 ❝陰キャ❞の私にとって、クラスメート全員からの拍手は恥ずかしかったけれど、今はそれよりも嬉しさが立っていた。
 
 拓真くんが、私の隣りにいる未来がクラスの子たちには見えるのかもしれない。もちろん、私の瞳にもはっきりと映っている。

 拓真くんを私は、10秒間じっと見つめた。拓真くんは、少し照れくさそうに笑っている。彼の瞳が、今まで見たものの中で一番輝いているように思えた。

「これから、よろしくお願いします、凛音」

「よろしくお願いします、拓真」