「菜穂って彼氏とかいないの?」
彼氏だと思っていた人から、彼氏いないのかと聞かれることがあるだろうか。
───「ねぇ誠真、私たち……ただのセフレだった?」
そんな言葉言えるはずもなく、好きだった気持ちを抑えて、「あ〜うん、そのうちね」と口にした。
飯田菜穂、彼氏なし、21歳、女性、独身。
彼氏どころかセフレ扱いされてたとか、男運なさすぎ。
誰か拾ってくれ〜。
友達に彼氏にセフレ扱いされてたこと言ったら、やめときなよそんな人って言われた。
友達はマッチングアプリ始めたらしくて、菜穂もやらない?って言われた。
だから今、アプリ入れてる。
「なになに?顔が分かる写真を設定してください?」
そして今は、マッチングアプリのチュートリアルを進めているところ。
知ってるよ。
こういうの盛れてる写真つけがちだけどね?
盛れてない時の写真を設定した方が、実際会った時に受けがいいって聞いたことある。
「今度は何?自己紹介文を考えろって?」
なんかあるかなぁ。
みんなどんなの付けるんだろ。
検索かけてみるか…。
〉初めまして、プロフィールをご覧いただきありがとうございます。
一緒に楽しい思い出を作れる恋人が欲しくて、このアプリを始めました。
友人からは明るい性格だよね!ってよく言われます。
出かけるの大好きです!
アウトドアなので、一緒に出かけられる方がいいかなって思ってます!
少しでも気になったらいいね待ってます!
へぇ。こんな文章書くのか…。
って、こんなに書けるか!
<はじめまして、見てくれてありがとうございます>
<優しい方と出会いたいです。>
<カフェ巡りとか好きです。良かったらいいねしてほしい。>
3行しか書いてないけど、まぁこれでいいかな…。
大事なのはトークだと思うし!
変なの来ても嫌だし…。
「登録完了っと…」
ピロン、ピロンピロン。
登録した途端、マッチングアプリからメッセージがたくさん来た。
『今から会えますか?』
『0.5で会えますか?』
そんなメッセージばかり。
何この数字…、てか今から会えますかってお互い、どんな人かも知らないのに。
ブロックブロック。
しばらくすると通知が鳴り止んだ。
オススメにでも出てきてたんだろうか。
落ち着いた頃にまた1件、ピロンと鳴った。
どうせ変な人でしょ。
そう思ってもうアプリを消そうと最後の通知を見た。
『こんばんは。初めまして。自分もカフェ巡り好きです』
なんか、初めてまともな人から連絡来た気がする。
ちゃんと会話してくれそうな人。
なんとなく、この人なら自分を見てくれそう。
『初めまして、なほです。カフェ巡りお好きなんですね』
これで、返事来たら話し続けてみようかな…?
『はい!コーヒーとか紅茶お好きですか?それともスイーツですか?』
ちゃんと聞いてくれるんだ。
印象は良いかも。
私自身をちゃんと見てくれそう。
『紅茶が好きで…あの、お名前なんとお呼びすれば…?』
表示されているプロフィール欄みてみようかな。
[とも]
[28歳]
[本気で付き合える方探してます]
それしか書いてないの?
私より短文の人いるじゃん。
『あ、すみません!自分ともきって言います。ともきとか、ともくんとかお好きなようにどうぞ!』
『じゃあともくん、…で。よろしくお願いします』
誠真からの扱われ方と、ともくん…?の扱い方、全然違う。
『こちらこそよろしくね、なほちゃんは、もう他の人と会ったりした?』
『まだ、いまさっき始めたばかりで…!あんまりいい人見つからなくて困ってたところにともくんが声掛けてくださって…』
他の人とのことまで気にかけてくれるんだ。
優しい。
『変な人多いから気をつけてね。もちろん俺も信用しちゃだめだよ笑』
冗談を交えて会話してくれるの、結構楽しい。
『そんな!!ほんと、良い人にしか見えないです』
『じゃあ、今度カフェでも一緒に行こっか』
誘い方が上手すぎて、行きたくなっちゃった。
『…………行きたいです』
当日。
「早く着きすぎちゃったかな…」
着きました。っと、送信。
ピロン。
『どんな服装着てる?』
あ……そっかっ。
顔もアイコンでしか知らないんだし、初対面じゃわかんないよね。
私は服装の写真を撮って送ろ。
ここで撮るの不思議がられないかな。
いつもスマホ持つ位置でこっそり撮ろ。
下に向けて服装がわかるようにっ…と。
送信、…よしっ。
黄色の花柄のカーディガンに、白いプリーツスカート。
今日の服装は、私がお気に入りのコーデ。
メイクは、動画見ながらデートメイク研究して秋のオレンジメイク。
変じゃないかな…。
カーディガンのボタンもとめてるし、スカートも変な折れ目ついてないし、大丈夫だよねっ。
「もしかして、なほちゃん?」
「えっっあ、そ、そうです!なほです!」
突然名前を呼ばれたから驚いた……。
「そうだよね!俺ともきです。なほちゃん、今日1日よろしくね?」
微笑みかけてくる笑顔に危うく惚れそうになる。
目がぱっちりしていて、まつ毛が長くて、鼻筋が綺麗で、目にかからないくらいの前髪の長さ、清潔感があって笑顔も好印象。
こんなイケメン中々に出会える機会、私には滅多にない。
アイコンじゃ正直分からないなって思ってけど、返事の仕方も気遣ってくれて、なにより優しいし…。
当たり引いたのかも。
「オススメはケーキセットだって!好きなドリンク選ぶだけでいいみたい。他のもあるけど、どれがいい?」
「ケーキセットいいですね…!それがいいです」
「じゃあこれにしよっか、何飲む?やっぱり紅茶かな?」
「んー…私、レモンティーのホットにしようかな、でもブレンドコーヒーも気になる…」
どっちにしよう…。
レモンティーも飲みたいし、ブレンドコーヒーの味も知りたい。
味が良ければ今後も来たいし。
あー、決められない。
「もし良かったらなんだけど、そんなに悩むなら俺どっちか頼もうか?シェアとか平気ならだけど……」
「え、いいんですか!?」
誠真はこんな提案なんてしてくれたこと無かった。
『早く決めろよ、俺決まったから』そう言って呼び鈴を既に押してる事の方が多かった。
焦って頼まなくていい、『メロンソーダで』なんて炭酸飲めないのに目に付いたもの読んじゃったり。
「ケーキセットふたつと、飲み物は、ブレンドコーヒーとレモンティー、両方ホットで、お願いします」
店員さんに頼む時も丁寧だし、ほんと比べるなんて間違いだって思うほど。
「お待たせしました〜、レモンティーの方は〜…」
「あ、はい!あ、ともくんの方だっけ、あれ?」
「いいよ、好きな方選び」
「じゃあ、……レモンティーで!」
こんなに優しい人、今まで出会った中にいただろうか。
「なほちゃんって、俺が想像してたよりも天然でなんか可愛いね」
突然過ぎてびっくりした。
こんな自然に褒める人いるんだ。
「え、天然??優柔不断なだけですよ」
「んー、かわいいよ。こんなに可愛くってなほちゃんって彼氏とか居ないの?」
「実はこの前失恋したばかりで。付き合ってたと思ってたんですけど、違ったみたいで…」
思い出しただけで、心臓痛い。
ほんとは、誠真と結婚したかったのになぁ…。
「じゃあ、俺の彼女になる?」
いまなんて言った?
「えっ……??」
「冗談ッ、そんな急に言われても困るのわかってて言った」
試されてた??
こんなイケメンが急に好いてくるなんて上手い話……
「ですよね、わたしなんて…」
ない。
「ううん、いいんだよ別に付き合っても、その代わり俺独占欲強いよ?」
こうやって探り入れる感覚、なんか誠真みたい。
なんで、誠真浮かべてんだろ。
「いやでも、まだ知り合ったばっかりですし…」
「まぁそうだよね。でもさ、俺その元彼さんよりなほちゃんのこと大切に出来ると思うな」
なんかちょっと早い気がする。
「……せっかく、言ってもらってありがたいんですけど、お気持ちだけ…!受け取っておきます」
「……そっか。ごめんね?なんか変な空気にしちゃって」
「こちらこそごめんなさい、私が空気悪くしちゃったかも」
せっかくのデートなのに!
自分から悪くしてどうするの!
集中しなきゃ。
「このいちごのミニロールケーキ美味しいな」
「ちょっと甘酸っぱくて、…癖になる味だね」
実は、いちごが苦手。
いちごの水っぽいのがダメ。
ロールケーキ、いちご風味なだけでよかった。
出てきてヒヤヒヤした。
でも風味もあんまり好きじゃない。
「もしかして、いちご苦手だった?」
「えっ…どうしてそれを…」
「なんとなく、顔しかめてたし」
そんな表情まで見てくれてたんだ。
気をつけなきゃな…。
顔に出るのほんと弱点すぎる。
「実は…ちょっと苦手」
「ごめんよ。気付かなくて、次は気にしとく」
「…あ、ありがとう」
ともくん、ほんと優しいな。
気遣い出来てるだけで、誠真と全然違う。
誠真も初めの頃は優しかったんだけどなぁ。
そもそも付き合ってないって…なによ。
セフレ?
腹立ってきた。
「ど、どうした?なんか気に触ることした?」
「あ、全然、気にしないでください。ちょっと嫌なこと思い出しちゃって…」
「なんかあったなら聞くよ?」
こんなに優しいんだし、別に可哀想とか思ってもらいたいわけじゃないけど。
自分を知ってもらうなら…。
「付き合ってる彼が居たんです。つい、この前まで」
「なんで別れちゃったの?」
「付き合ってなかったんだって、彼氏作らないの?って聞かれたんです」
「それは傷付くね…いいよ、沢山思うこと言いな」
隣の席に座り直してくれて
背中をさすってくれて
ほんと優しい。
どうしよう、誠真のこと話すのやめれない。
「わたしっ…ほんきで付き合ってると思って…勘違いしてたなんて…っ…ほんっと、さいってい…誠真なんて…誠真なんて…」
大嫌い。
それが言えたら苦労しない。
ほんとは大好き。
いまでも、好き…。
結婚するんだと思ってた。
土俵にすら立ててなかった。
かなしい、かなしい、かなしい、かなしい…。
「ねぇ、俺ならそんなふうに泣かせたりしないよ。俺も本気で恋愛する人探してる。真剣に交際できる人、一生懸命になれる相手の人。やっぱり俺と付き合ってよ、今度は本気。悲しませたりしない、泣かせない」
「でも、…まだ忘れられないから」
「知ってる?自然と男で上書きするんだよこういうのは」
「でも…ともくんに悪いし…」
「本気だから、俺」
なんでそんな真剣な顔で見つめるの?
なんでそんなに必死なの?
私、そんな魅力ないよ。
クズ男に引っかかってるようなバカだよ。
「なほちゃん、俺と付き合って」
嬉しかった。
はっきりそう言われたのが。
誠真と比べ物にならないくらい、優しくて、真剣で。
「………こちらこそ、お願いします」
「ほんと!?やった、すっげぇ嬉しい」
それからの日々は、毎日幸せだった。
予定の会う日は必ず会って、毎日寝る前に電話してる。
幸せだった。
それでも、誠真のこと、忘れられなかった。
『菜穂、今から会えない?』
誠真からの連絡。
どうしても、無視できなかった。
『ごめんね、わたし、恋人出来たの』
『え、俺は??どうなるの』
今更なんで、そんなこと言うの。
もうともくんと付き合ってるんだよ。
『菜穂??今から会いたい。今菜穂の最寄り駅まで来た』
追いLime。
『わかった』
そのまま、Limeのトーク欄からともくんに切り替えて
『いまから最寄り駅まで来てる元彼に別れ告げてくる』ってメッセージ打っとこ。
「ごめんね、今日が最後になると思う」
「なんでだよ、俺が彼氏作らないの?とか言ったから?冗談だったのに。受け入れるからほんとに付き合ってないのかなってちょっと思っちゃってなんも言い返せなかった」
「ごめん、そんなふうに思ってくれてたなんて」
「菜穂、やり直そう」
「でも、ごめん…」
ここで付き合ったら、また振り回される。
ともくんのほうがしあわせ。
きっと、幸せにしてくれる。
「なほちゃん!!」
「えっ?」
なんで、ともくんがここに?
「もう、なほちゃんのこと手放してください、俺が幸せにするんで、話は色々聞いてます。もう振り回さないで、なほちゃんのこと泣かせないで」
「ともくん……ありがと…」
そのまま、私の家に呼んだ。
「なほちゃん、もう絶対にこんなことしないで、1人で行動しないで、全部教えて、何かあった時危ないから」
「そ、そうだよね、ごめんね…次から気をつける」
「もう元彼と連絡しないで、今すぐLimeも電話番号も全部、連絡先全て消して」
「え…。わ、わかった。ごめん不安になるよね」
「ただ、心配なだけ」
「わかった。消すね」
ぜんぶ、のこらずにけした。
これでおわりなんだ。
肩が軽く感じる。
それからの日々細かくLimeが来るようになった。
「今電話かけたけど、なんで出なかった?なにしてた?」
「ごめん、洗い物してた…心配した?」
「なほちゃん、俺だけ見てて。お願いだから、なほちゃんには俺しかいないんだよ」
そんな言動が、依存に繋がった。
ほんとに、私にはともくんしかいないって、思ってる。
「わたし、ともくんしか見てないよ」
共依存。
誰に聞いても、依存しすぎって言われた。
相談するだけ悪いこと言われて、ともくん傷付けられてるみたいで嫌だった。
半年経った頃、勇気を出してともくんに言った言葉。
「ねえともくん、結婚、考えたい…」
「………たしかに、そろそろ考えてもいい頃かもね」
「妊活もそろそろ始めたいし。出来るかわかんないし、私も22だし結婚してもいい頃かなって、友達も結婚してる子増えてきたし」
「もう少しお金貯めてからにしようか」
「そ、そうだよね、子育てってお金いるもんね」
軽い発言だと思われたかな…。
「ていうか、俺まだ妻と別れてないんだよね」
「えっ、妻…??」
まって、まってまって、奥さんいるの?
結婚してるの?
私、知らない間に不倫相手だった?
「そう、でももう冷めきっててさ、レスだし、大丈夫、バレてないから」
「初めからずっと騙してたの?」
「なほちゃんのことは本気だよ、結婚したいって思ってる」
「そんなのずるいよ、ずるいずるい、無理だよ。なんで、なんでっ…私の事、騙してたのっ?……ごめん、帰るね」
また、男運なかった。
今度は幸せになれると思ったのに、走って出発間際の電車になんとか乗って家に帰った。
家に帰って沢山泣いた。
もう、別れよう。
もう二度と会わない。
そう決めた時に呼び鈴が鳴った。
ピンポーン。
だれよ、こんな時に
「旭川法律事務所の佐藤と申します。飯田菜穂さんでいらっしゃいますか。お話がございます。」
なぜ弁護士が?
もしかして、奥さんが私を訴えるつもりとか…?
外で話されるわけにもいかない。
家に通して話を聞くことにしよう。
「まずご確認いただきたいのは、こちらにある資料です。」
弁護士は手に持った書類を差し出してきた。
「これらはすべて山田智貴様との交際を示す証拠です。間違いないでしょうか?」
私の目の前には、ホテルの領収書、一緒に撮った写真、LINEのスクリーンショット…。こんなものが、私の知らぬところで撮られていたなんて。
「私、騙されていたんです!今日知ったんです…。もう二度と会うつもりはありません!」
私は必死で訴えたけど、弁護士は冷静だった。
「依頼人である山田和美様が受けた精神的な苦痛は無視できません。この事実に基づき、慰謝料を請求させていただくのは当然の措置です。金額は※※※※※※となります」
その金額を聞いた瞬間、私の頭は真っ白になった。こんなに高額な慰謝料を支払い…?
どうすればいいのか全く分からない。
私どうなっちゃうのかな。
「私は本当に騙されていたんです。最初から、ともくんに奥さんがいること知っていたら交際なんてしなかった。
私の気持ちを利用されて、こんなことになって」
「もし、それでも慰謝料を請求されるのであれば、どうか私の立場も理解していただきたい。私自身も裏切られたことが辛かったです」
「だからこそ、せめて慰謝料の金額を減額していただけるようお願いできませんか?こんな形で傷つけ合いたくはないんです。できるだけ和解して終わらせたい…」
私どうなっちゃうんだろ。
「分かりました。和美様に1度内容を確認していただき、話し合った上でもう一度伺わせていただきます」
やっと帰った…。
私不倫相手だったんだ。
本気じゃなかったんだ、それが悲しい。
なにより、気づけなかった自分に悔しい気持ちでいっぱい。
またダメになる。
また1人になる。
私は持っていた風邪薬の瓶を空け、全て机に出した。
そのまま作り置きのお茶で、数回に分けて流し込んだ。
あー、このまま死ぬのかな。
死ねたらいいな。
最後に、誠真に会いたい。
声が聞きたい。
『誠真、ごめん、私、薬いっぱい飲んじゃった、だめな私でいままでごめんね、大好き』
そのまま意識が途切れた。
.
.
.
「菜穂、分かるか?病院ここ」
目が覚めたら目の前に誠真の顔。
「…ハッ--…っハ-…」
声が、出ない。
なんで、生き残っちゃうんだろ。
私が悪い?わたしがいけない?
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
もっと、ともくんを知ってからでも良かった。
焦った私が悪い。
何も知らなかったじゃ済まされない。
「声が出ないのか?今医者呼んでくる」
不倫した、罪。
生きててごめんなさい。
彼氏だと思っていた人から、彼氏いないのかと聞かれることがあるだろうか。
───「ねぇ誠真、私たち……ただのセフレだった?」
そんな言葉言えるはずもなく、好きだった気持ちを抑えて、「あ〜うん、そのうちね」と口にした。
飯田菜穂、彼氏なし、21歳、女性、独身。
彼氏どころかセフレ扱いされてたとか、男運なさすぎ。
誰か拾ってくれ〜。
友達に彼氏にセフレ扱いされてたこと言ったら、やめときなよそんな人って言われた。
友達はマッチングアプリ始めたらしくて、菜穂もやらない?って言われた。
だから今、アプリ入れてる。
「なになに?顔が分かる写真を設定してください?」
そして今は、マッチングアプリのチュートリアルを進めているところ。
知ってるよ。
こういうの盛れてる写真つけがちだけどね?
盛れてない時の写真を設定した方が、実際会った時に受けがいいって聞いたことある。
「今度は何?自己紹介文を考えろって?」
なんかあるかなぁ。
みんなどんなの付けるんだろ。
検索かけてみるか…。
〉初めまして、プロフィールをご覧いただきありがとうございます。
一緒に楽しい思い出を作れる恋人が欲しくて、このアプリを始めました。
友人からは明るい性格だよね!ってよく言われます。
出かけるの大好きです!
アウトドアなので、一緒に出かけられる方がいいかなって思ってます!
少しでも気になったらいいね待ってます!
へぇ。こんな文章書くのか…。
って、こんなに書けるか!
<はじめまして、見てくれてありがとうございます>
<優しい方と出会いたいです。>
<カフェ巡りとか好きです。良かったらいいねしてほしい。>
3行しか書いてないけど、まぁこれでいいかな…。
大事なのはトークだと思うし!
変なの来ても嫌だし…。
「登録完了っと…」
ピロン、ピロンピロン。
登録した途端、マッチングアプリからメッセージがたくさん来た。
『今から会えますか?』
『0.5で会えますか?』
そんなメッセージばかり。
何この数字…、てか今から会えますかってお互い、どんな人かも知らないのに。
ブロックブロック。
しばらくすると通知が鳴り止んだ。
オススメにでも出てきてたんだろうか。
落ち着いた頃にまた1件、ピロンと鳴った。
どうせ変な人でしょ。
そう思ってもうアプリを消そうと最後の通知を見た。
『こんばんは。初めまして。自分もカフェ巡り好きです』
なんか、初めてまともな人から連絡来た気がする。
ちゃんと会話してくれそうな人。
なんとなく、この人なら自分を見てくれそう。
『初めまして、なほです。カフェ巡りお好きなんですね』
これで、返事来たら話し続けてみようかな…?
『はい!コーヒーとか紅茶お好きですか?それともスイーツですか?』
ちゃんと聞いてくれるんだ。
印象は良いかも。
私自身をちゃんと見てくれそう。
『紅茶が好きで…あの、お名前なんとお呼びすれば…?』
表示されているプロフィール欄みてみようかな。
[とも]
[28歳]
[本気で付き合える方探してます]
それしか書いてないの?
私より短文の人いるじゃん。
『あ、すみません!自分ともきって言います。ともきとか、ともくんとかお好きなようにどうぞ!』
『じゃあともくん、…で。よろしくお願いします』
誠真からの扱われ方と、ともくん…?の扱い方、全然違う。
『こちらこそよろしくね、なほちゃんは、もう他の人と会ったりした?』
『まだ、いまさっき始めたばかりで…!あんまりいい人見つからなくて困ってたところにともくんが声掛けてくださって…』
他の人とのことまで気にかけてくれるんだ。
優しい。
『変な人多いから気をつけてね。もちろん俺も信用しちゃだめだよ笑』
冗談を交えて会話してくれるの、結構楽しい。
『そんな!!ほんと、良い人にしか見えないです』
『じゃあ、今度カフェでも一緒に行こっか』
誘い方が上手すぎて、行きたくなっちゃった。
『…………行きたいです』
当日。
「早く着きすぎちゃったかな…」
着きました。っと、送信。
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あ……そっかっ。
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ここで撮るの不思議がられないかな。
いつもスマホ持つ位置でこっそり撮ろ。
下に向けて服装がわかるようにっ…と。
送信、…よしっ。
黄色の花柄のカーディガンに、白いプリーツスカート。
今日の服装は、私がお気に入りのコーデ。
メイクは、動画見ながらデートメイク研究して秋のオレンジメイク。
変じゃないかな…。
カーディガンのボタンもとめてるし、スカートも変な折れ目ついてないし、大丈夫だよねっ。
「もしかして、なほちゃん?」
「えっっあ、そ、そうです!なほです!」
突然名前を呼ばれたから驚いた……。
「そうだよね!俺ともきです。なほちゃん、今日1日よろしくね?」
微笑みかけてくる笑顔に危うく惚れそうになる。
目がぱっちりしていて、まつ毛が長くて、鼻筋が綺麗で、目にかからないくらいの前髪の長さ、清潔感があって笑顔も好印象。
こんなイケメン中々に出会える機会、私には滅多にない。
アイコンじゃ正直分からないなって思ってけど、返事の仕方も気遣ってくれて、なにより優しいし…。
当たり引いたのかも。
「オススメはケーキセットだって!好きなドリンク選ぶだけでいいみたい。他のもあるけど、どれがいい?」
「ケーキセットいいですね…!それがいいです」
「じゃあこれにしよっか、何飲む?やっぱり紅茶かな?」
「んー…私、レモンティーのホットにしようかな、でもブレンドコーヒーも気になる…」
どっちにしよう…。
レモンティーも飲みたいし、ブレンドコーヒーの味も知りたい。
味が良ければ今後も来たいし。
あー、決められない。
「もし良かったらなんだけど、そんなに悩むなら俺どっちか頼もうか?シェアとか平気ならだけど……」
「え、いいんですか!?」
誠真はこんな提案なんてしてくれたこと無かった。
『早く決めろよ、俺決まったから』そう言って呼び鈴を既に押してる事の方が多かった。
焦って頼まなくていい、『メロンソーダで』なんて炭酸飲めないのに目に付いたもの読んじゃったり。
「ケーキセットふたつと、飲み物は、ブレンドコーヒーとレモンティー、両方ホットで、お願いします」
店員さんに頼む時も丁寧だし、ほんと比べるなんて間違いだって思うほど。
「お待たせしました〜、レモンティーの方は〜…」
「あ、はい!あ、ともくんの方だっけ、あれ?」
「いいよ、好きな方選び」
「じゃあ、……レモンティーで!」
こんなに優しい人、今まで出会った中にいただろうか。
「なほちゃんって、俺が想像してたよりも天然でなんか可愛いね」
突然過ぎてびっくりした。
こんな自然に褒める人いるんだ。
「え、天然??優柔不断なだけですよ」
「んー、かわいいよ。こんなに可愛くってなほちゃんって彼氏とか居ないの?」
「実はこの前失恋したばかりで。付き合ってたと思ってたんですけど、違ったみたいで…」
思い出しただけで、心臓痛い。
ほんとは、誠真と結婚したかったのになぁ…。
「じゃあ、俺の彼女になる?」
いまなんて言った?
「えっ……??」
「冗談ッ、そんな急に言われても困るのわかってて言った」
試されてた??
こんなイケメンが急に好いてくるなんて上手い話……
「ですよね、わたしなんて…」
ない。
「ううん、いいんだよ別に付き合っても、その代わり俺独占欲強いよ?」
こうやって探り入れる感覚、なんか誠真みたい。
なんで、誠真浮かべてんだろ。
「いやでも、まだ知り合ったばっかりですし…」
「まぁそうだよね。でもさ、俺その元彼さんよりなほちゃんのこと大切に出来ると思うな」
なんかちょっと早い気がする。
「……せっかく、言ってもらってありがたいんですけど、お気持ちだけ…!受け取っておきます」
「……そっか。ごめんね?なんか変な空気にしちゃって」
「こちらこそごめんなさい、私が空気悪くしちゃったかも」
せっかくのデートなのに!
自分から悪くしてどうするの!
集中しなきゃ。
「このいちごのミニロールケーキ美味しいな」
「ちょっと甘酸っぱくて、…癖になる味だね」
実は、いちごが苦手。
いちごの水っぽいのがダメ。
ロールケーキ、いちご風味なだけでよかった。
出てきてヒヤヒヤした。
でも風味もあんまり好きじゃない。
「もしかして、いちご苦手だった?」
「えっ…どうしてそれを…」
「なんとなく、顔しかめてたし」
そんな表情まで見てくれてたんだ。
気をつけなきゃな…。
顔に出るのほんと弱点すぎる。
「実は…ちょっと苦手」
「ごめんよ。気付かなくて、次は気にしとく」
「…あ、ありがとう」
ともくん、ほんと優しいな。
気遣い出来てるだけで、誠真と全然違う。
誠真も初めの頃は優しかったんだけどなぁ。
そもそも付き合ってないって…なによ。
セフレ?
腹立ってきた。
「ど、どうした?なんか気に触ることした?」
「あ、全然、気にしないでください。ちょっと嫌なこと思い出しちゃって…」
「なんかあったなら聞くよ?」
こんなに優しいんだし、別に可哀想とか思ってもらいたいわけじゃないけど。
自分を知ってもらうなら…。
「付き合ってる彼が居たんです。つい、この前まで」
「なんで別れちゃったの?」
「付き合ってなかったんだって、彼氏作らないの?って聞かれたんです」
「それは傷付くね…いいよ、沢山思うこと言いな」
隣の席に座り直してくれて
背中をさすってくれて
ほんと優しい。
どうしよう、誠真のこと話すのやめれない。
「わたしっ…ほんきで付き合ってると思って…勘違いしてたなんて…っ…ほんっと、さいってい…誠真なんて…誠真なんて…」
大嫌い。
それが言えたら苦労しない。
ほんとは大好き。
いまでも、好き…。
結婚するんだと思ってた。
土俵にすら立ててなかった。
かなしい、かなしい、かなしい、かなしい…。
「ねぇ、俺ならそんなふうに泣かせたりしないよ。俺も本気で恋愛する人探してる。真剣に交際できる人、一生懸命になれる相手の人。やっぱり俺と付き合ってよ、今度は本気。悲しませたりしない、泣かせない」
「でも、…まだ忘れられないから」
「知ってる?自然と男で上書きするんだよこういうのは」
「でも…ともくんに悪いし…」
「本気だから、俺」
なんでそんな真剣な顔で見つめるの?
なんでそんなに必死なの?
私、そんな魅力ないよ。
クズ男に引っかかってるようなバカだよ。
「なほちゃん、俺と付き合って」
嬉しかった。
はっきりそう言われたのが。
誠真と比べ物にならないくらい、優しくて、真剣で。
「………こちらこそ、お願いします」
「ほんと!?やった、すっげぇ嬉しい」
それからの日々は、毎日幸せだった。
予定の会う日は必ず会って、毎日寝る前に電話してる。
幸せだった。
それでも、誠真のこと、忘れられなかった。
『菜穂、今から会えない?』
誠真からの連絡。
どうしても、無視できなかった。
『ごめんね、わたし、恋人出来たの』
『え、俺は??どうなるの』
今更なんで、そんなこと言うの。
もうともくんと付き合ってるんだよ。
『菜穂??今から会いたい。今菜穂の最寄り駅まで来た』
追いLime。
『わかった』
そのまま、Limeのトーク欄からともくんに切り替えて
『いまから最寄り駅まで来てる元彼に別れ告げてくる』ってメッセージ打っとこ。
「ごめんね、今日が最後になると思う」
「なんでだよ、俺が彼氏作らないの?とか言ったから?冗談だったのに。受け入れるからほんとに付き合ってないのかなってちょっと思っちゃってなんも言い返せなかった」
「ごめん、そんなふうに思ってくれてたなんて」
「菜穂、やり直そう」
「でも、ごめん…」
ここで付き合ったら、また振り回される。
ともくんのほうがしあわせ。
きっと、幸せにしてくれる。
「なほちゃん!!」
「えっ?」
なんで、ともくんがここに?
「もう、なほちゃんのこと手放してください、俺が幸せにするんで、話は色々聞いてます。もう振り回さないで、なほちゃんのこと泣かせないで」
「ともくん……ありがと…」
そのまま、私の家に呼んだ。
「なほちゃん、もう絶対にこんなことしないで、1人で行動しないで、全部教えて、何かあった時危ないから」
「そ、そうだよね、ごめんね…次から気をつける」
「もう元彼と連絡しないで、今すぐLimeも電話番号も全部、連絡先全て消して」
「え…。わ、わかった。ごめん不安になるよね」
「ただ、心配なだけ」
「わかった。消すね」
ぜんぶ、のこらずにけした。
これでおわりなんだ。
肩が軽く感じる。
それからの日々細かくLimeが来るようになった。
「今電話かけたけど、なんで出なかった?なにしてた?」
「ごめん、洗い物してた…心配した?」
「なほちゃん、俺だけ見てて。お願いだから、なほちゃんには俺しかいないんだよ」
そんな言動が、依存に繋がった。
ほんとに、私にはともくんしかいないって、思ってる。
「わたし、ともくんしか見てないよ」
共依存。
誰に聞いても、依存しすぎって言われた。
相談するだけ悪いこと言われて、ともくん傷付けられてるみたいで嫌だった。
半年経った頃、勇気を出してともくんに言った言葉。
「ねえともくん、結婚、考えたい…」
「………たしかに、そろそろ考えてもいい頃かもね」
「妊活もそろそろ始めたいし。出来るかわかんないし、私も22だし結婚してもいい頃かなって、友達も結婚してる子増えてきたし」
「もう少しお金貯めてからにしようか」
「そ、そうだよね、子育てってお金いるもんね」
軽い発言だと思われたかな…。
「ていうか、俺まだ妻と別れてないんだよね」
「えっ、妻…??」
まって、まってまって、奥さんいるの?
結婚してるの?
私、知らない間に不倫相手だった?
「そう、でももう冷めきっててさ、レスだし、大丈夫、バレてないから」
「初めからずっと騙してたの?」
「なほちゃんのことは本気だよ、結婚したいって思ってる」
「そんなのずるいよ、ずるいずるい、無理だよ。なんで、なんでっ…私の事、騙してたのっ?……ごめん、帰るね」
また、男運なかった。
今度は幸せになれると思ったのに、走って出発間際の電車になんとか乗って家に帰った。
家に帰って沢山泣いた。
もう、別れよう。
もう二度と会わない。
そう決めた時に呼び鈴が鳴った。
ピンポーン。
だれよ、こんな時に
「旭川法律事務所の佐藤と申します。飯田菜穂さんでいらっしゃいますか。お話がございます。」
なぜ弁護士が?
もしかして、奥さんが私を訴えるつもりとか…?
外で話されるわけにもいかない。
家に通して話を聞くことにしよう。
「まずご確認いただきたいのは、こちらにある資料です。」
弁護士は手に持った書類を差し出してきた。
「これらはすべて山田智貴様との交際を示す証拠です。間違いないでしょうか?」
私の目の前には、ホテルの領収書、一緒に撮った写真、LINEのスクリーンショット…。こんなものが、私の知らぬところで撮られていたなんて。
「私、騙されていたんです!今日知ったんです…。もう二度と会うつもりはありません!」
私は必死で訴えたけど、弁護士は冷静だった。
「依頼人である山田和美様が受けた精神的な苦痛は無視できません。この事実に基づき、慰謝料を請求させていただくのは当然の措置です。金額は※※※※※※となります」
その金額を聞いた瞬間、私の頭は真っ白になった。こんなに高額な慰謝料を支払い…?
どうすればいいのか全く分からない。
私どうなっちゃうのかな。
「私は本当に騙されていたんです。最初から、ともくんに奥さんがいること知っていたら交際なんてしなかった。
私の気持ちを利用されて、こんなことになって」
「もし、それでも慰謝料を請求されるのであれば、どうか私の立場も理解していただきたい。私自身も裏切られたことが辛かったです」
「だからこそ、せめて慰謝料の金額を減額していただけるようお願いできませんか?こんな形で傷つけ合いたくはないんです。できるだけ和解して終わらせたい…」
私どうなっちゃうんだろ。
「分かりました。和美様に1度内容を確認していただき、話し合った上でもう一度伺わせていただきます」
やっと帰った…。
私不倫相手だったんだ。
本気じゃなかったんだ、それが悲しい。
なにより、気づけなかった自分に悔しい気持ちでいっぱい。
またダメになる。
また1人になる。
私は持っていた風邪薬の瓶を空け、全て机に出した。
そのまま作り置きのお茶で、数回に分けて流し込んだ。
あー、このまま死ぬのかな。
死ねたらいいな。
最後に、誠真に会いたい。
声が聞きたい。
『誠真、ごめん、私、薬いっぱい飲んじゃった、だめな私でいままでごめんね、大好き』
そのまま意識が途切れた。
.
.
.
「菜穂、分かるか?病院ここ」
目が覚めたら目の前に誠真の顔。
「…ハッ--…っハ-…」
声が、出ない。
なんで、生き残っちゃうんだろ。
私が悪い?わたしがいけない?
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
もっと、ともくんを知ってからでも良かった。
焦った私が悪い。
何も知らなかったじゃ済まされない。
「声が出ないのか?今医者呼んでくる」
不倫した、罪。
生きててごめんなさい。



