ある土曜日の昼下がり。
駅前にあるオープンカフェの四人掛けテーブル席についた女性が三名。そこへ遅れてやって来た彼女、亜沙美は、緩く巻いたセミロングの髪を乱しながら小走りに駆け寄り、テーブルに倒れこむように席についた。
「ハァ……ハァ……ちょっと、みんな聞いてよぉ~!」
「どうしたの? そんな息切らして」
亜沙美の向かいの左側に座る、お団子ヘアの女性、結美が言った。
「ほんっと最悪!! さっきマチアプで会ったやつなんだけどさ」
「ああ、例のイケメン?」
「そう、顔面詐称だったの!」
バン、と亜沙美が両手のひらでテーブルを叩く。
「ああ、よくあるやつね」
亜沙美の右側にいるのは、黒髪ロングヘアの奈々華。
「それだけじゃなくて」
「何? まだあるの?」
どこか楽しげな表情を浮かべる結美。
「年齢も嘘っぱち! 25歳って書いてあるのに、実際は45歳くらいのハゲかけた中年の小汚いオッサンだったの!」
亜沙美の声が徐々に荒々しくなる。
「し・か・も!」
「しかも?」
亜沙美以外の三人の声が重なる。
「“君、写真より全然可愛くないね。でも、スタイルはいいから合格。君がどうしてもっていうなら付き合ってあげてもいいよ”って謎のセクハラ発言と上から目線!」
「うわ、きっしょ」
「災難だったねぇ」
結美と奈々華が口々に返す。
「もうマジでムカついたからさ。アイスコーヒー氷ごとぶっかけて逃げてきた」
「あんたもヤバイね、別の意味で」
奈々華が飲みかけのホットコーヒーに手を伸ばす。
「ああ、もう! 何でアタシ、こんなに男運ないのかなあ」
テーブルに突っ伏すように顔を埋める亜沙美。
「いらっしゃいませ」とカフェの女性店員が、グラスに入ったミネラルウォーターを亜沙美の前に置いた。
「メニューはお決まりでしょうか?」
亜沙美は咄嗟に顔をあげ、「あ、じゃあ……オレンジジュースください」とオーダーする。
「かしこまりました」
亜沙美は絶賛婚活中のOL。
たった今、マッチングアプリで出会ったとんでもない男性のもとから、逃げるように立ち去ってきたばかりだった。そんなところへ偶然、結美から連絡が入り、こうして三人と合流したのだった。
「そういえば亜沙美、前の彼氏もヤバかったよね?」
奈々華が口を開く。
「ああ、あのくっそカマチョなメンヘラ系の」
「來玖ね」
結美と奈々華は既婚で、亜沙美は当時から二人に恋愛相談に乗ってもらっていた。
「やめて! あいつのことはもうこれ以上思い出させないで! マジでトラウマなの……。しかもそれ偽名で本名“好男”で、めっちゃ名前詐欺だし」
亜沙美が彼と交際していた一年前。昼夜問わず着信の嵐、止まないLINEの通知音で、とうとう仕事にも支障が出た。耐えられずに電話口で別れ話を切り出したら「俺はこんなに亜沙美が好きなのに」「別れるなら今ここで死ぬ」「本当に俺を捨てるのか」「今ビルの屋上に来た。遺書も書いた。お前がいかに俺にひどい仕打ちをしたか綴ってある。捕まりたくなければ撤回しろ」などと脅された過去がある。
「とんでもないやつに捕まったよね。そいつもマチアプで出会ったんだっけ?」
「そう。顔が超好みだったからつい、ね。ここまでアタシ好みの顔の人は二度と現れないだろうと思って。だから、アタシも早く二人みたいに結婚して安心したかったのにさ。いいなと思った人はすぐに退会しちゃうか、無視されるかだもん。アタシ、もうすぐ28だよ。結美は子育てしながら読モ時代の伝手でギャル雑誌の編集の仕事やってるし、奈々華は市役所職員で今は育休中……いいよね」
亜沙美はつい卑屈になってしまう。
「そういえば、姫果はどうなの? 去年マチアプで出会った彼とは」
これまでずっと口をつぐんでいた、おっとりとした雰囲気の控えめな彼女は、介護福祉士として市内の介護施設で働いている。
「実は、えっと……先日、プロポーズされて……」
駅前にあるオープンカフェの四人掛けテーブル席についた女性が三名。そこへ遅れてやって来た彼女、亜沙美は、緩く巻いたセミロングの髪を乱しながら小走りに駆け寄り、テーブルに倒れこむように席についた。
「ハァ……ハァ……ちょっと、みんな聞いてよぉ~!」
「どうしたの? そんな息切らして」
亜沙美の向かいの左側に座る、お団子ヘアの女性、結美が言った。
「ほんっと最悪!! さっきマチアプで会ったやつなんだけどさ」
「ああ、例のイケメン?」
「そう、顔面詐称だったの!」
バン、と亜沙美が両手のひらでテーブルを叩く。
「ああ、よくあるやつね」
亜沙美の右側にいるのは、黒髪ロングヘアの奈々華。
「それだけじゃなくて」
「何? まだあるの?」
どこか楽しげな表情を浮かべる結美。
「年齢も嘘っぱち! 25歳って書いてあるのに、実際は45歳くらいのハゲかけた中年の小汚いオッサンだったの!」
亜沙美の声が徐々に荒々しくなる。
「し・か・も!」
「しかも?」
亜沙美以外の三人の声が重なる。
「“君、写真より全然可愛くないね。でも、スタイルはいいから合格。君がどうしてもっていうなら付き合ってあげてもいいよ”って謎のセクハラ発言と上から目線!」
「うわ、きっしょ」
「災難だったねぇ」
結美と奈々華が口々に返す。
「もうマジでムカついたからさ。アイスコーヒー氷ごとぶっかけて逃げてきた」
「あんたもヤバイね、別の意味で」
奈々華が飲みかけのホットコーヒーに手を伸ばす。
「ああ、もう! 何でアタシ、こんなに男運ないのかなあ」
テーブルに突っ伏すように顔を埋める亜沙美。
「いらっしゃいませ」とカフェの女性店員が、グラスに入ったミネラルウォーターを亜沙美の前に置いた。
「メニューはお決まりでしょうか?」
亜沙美は咄嗟に顔をあげ、「あ、じゃあ……オレンジジュースください」とオーダーする。
「かしこまりました」
亜沙美は絶賛婚活中のOL。
たった今、マッチングアプリで出会ったとんでもない男性のもとから、逃げるように立ち去ってきたばかりだった。そんなところへ偶然、結美から連絡が入り、こうして三人と合流したのだった。
「そういえば亜沙美、前の彼氏もヤバかったよね?」
奈々華が口を開く。
「ああ、あのくっそカマチョなメンヘラ系の」
「來玖ね」
結美と奈々華は既婚で、亜沙美は当時から二人に恋愛相談に乗ってもらっていた。
「やめて! あいつのことはもうこれ以上思い出させないで! マジでトラウマなの……。しかもそれ偽名で本名“好男”で、めっちゃ名前詐欺だし」
亜沙美が彼と交際していた一年前。昼夜問わず着信の嵐、止まないLINEの通知音で、とうとう仕事にも支障が出た。耐えられずに電話口で別れ話を切り出したら「俺はこんなに亜沙美が好きなのに」「別れるなら今ここで死ぬ」「本当に俺を捨てるのか」「今ビルの屋上に来た。遺書も書いた。お前がいかに俺にひどい仕打ちをしたか綴ってある。捕まりたくなければ撤回しろ」などと脅された過去がある。
「とんでもないやつに捕まったよね。そいつもマチアプで出会ったんだっけ?」
「そう。顔が超好みだったからつい、ね。ここまでアタシ好みの顔の人は二度と現れないだろうと思って。だから、アタシも早く二人みたいに結婚して安心したかったのにさ。いいなと思った人はすぐに退会しちゃうか、無視されるかだもん。アタシ、もうすぐ28だよ。結美は子育てしながら読モ時代の伝手でギャル雑誌の編集の仕事やってるし、奈々華は市役所職員で今は育休中……いいよね」
亜沙美はつい卑屈になってしまう。
「そういえば、姫果はどうなの? 去年マチアプで出会った彼とは」
これまでずっと口をつぐんでいた、おっとりとした雰囲気の控えめな彼女は、介護福祉士として市内の介護施設で働いている。
「実は、えっと……先日、プロポーズされて……」



