高校三年の夏休みに雪兎は交通事故に会い足の骨折をした。原因は雪兎の不注意だ。
 一学期が終わり夏休みに入ると塾の受験熱が加速した。一分一秒が惜しいのだと知り、英単語帳を見ながら道を歩いた。
 大丈夫だと思い込んでいた。これまで普通の人のように生活できていたから、自分を過信していた。
 結果、車と接触してしまった。ちょうど夏休み期間で学校生活に影響がないことが幸いだった。

 親から泣かれたし、叱られた。車の運転手にも申し訳なかった。
 骨折はヒビ程度だった。三週間のギプス固定に一週間のリハビリが必要だった。夏休みの間に完治できたから良かった。だけど、この事故で雪兎の気持ちは落ち込んだ。

 夏休みは自宅内で過ごした。テレビの地方番組では高校サッカーの地区予選を放映していた。嬉しそうに母が声をかけてくる。
「ほら、雪兎。あんたの高校、順調に勝ち上がっているじゃない。県大会準決勝からは試合がテレビで流れるんでしょ? 今年は応援に行けない分、テレビで見ればいいじゃない」
 雪兎はチラリとテレビを見てすぐに見るのをやめた。ちょっと不注意で事故にあう自分と、生き生きサッカーをしている同級生を比べてしまいモヤモヤした気持ちが生まれた。
「今年は、いいや。見ない」
 雪兎は毎年サッカー予選を応援していた。部活をしていない雪兎にとって、応援の一体感はこれぞ青春と思えるものだった。サッカーが好きなわけではない。あのリアルの臨場感が良いのだ。
 そう考えていると教室でのワンシーンが雪兎の頭を過った。

『絶対に県ベストフォーに勝ち上がってテレビ出るからな! 応援頼むぞ!』
 そう大きな声で宣言していたサッカー部のクラスメイトがいた。雪兎はその言葉にワクワクしていた。準決勝の応援はすごいだろうなぁ、と想像して頬が緩んだ。
 去年のベストエイトだってすごいと思ったのに、その上を目ざすクラスメイトの敦彦が輝いて見えた。教室の隅から雪兎は敦彦に小さくエールを送った。
(絶対に連れて行って)
 そっと心で願った。

 そんなことを思い出し、テレビで試合を見たら行きたかった悔しさが溢れてしまいそうだ、と思った。
「雪兎、仕方ないわよ。注意していても、していなくても事故はあるから。それに骨折くらいで良かったのよ。もっと大怪我になっていた可能性だってあるじゃない」
 母なりに気を使って励ましてくれているのが分かり、胸が痛かった。
「うん。心配かけてごめんなさい。部屋で勉強するよ」
 雪兎は自室にこもった。

 サッカー部が県ベストフォーで敗退したのを母から聞いた。
「雪兎を、全色盲で産んでしまって、ごめんね」
 ついでに下を向いた母からそう言われた。母の背中が震えていた。
(母さんのせいじゃないよ)
そう言いたいのに、優しい言葉をかけることが出来なかった。そんな自分が情けなくて雪兎は泣いた。
 高校最後の雪兎の夏は、引きこもりの夏だった。