家の前まで無事に辿り着くと、ちょうど最後のレッスンの子どもが帰るところだったらしい。
母さんが見送りで外に出ているところだった。
「先生、さようなら」
「はい、さようなら」
やり取りが終わる頃を見計らって、玄関へ近づく。
俺に気付いた母さんがおかえりと言いかけたあとに、隣のイケメンを見て驚く。
「音流……そちらのカッコイイ男の子は、お友達?」
「母さんまでイケメン好きかよ……コイツは、友達じゃ……」
「はい! 藤川 透莉です。よろしくお願いします」
イケメンは最高の笑顔と爽やかな声でハキハキとあいさつをして、母さんに頭を下げた。
さすが、体育会系。あいさつはしっかりしてる……って。冷静に観察してる場合か。
「藤川君? ご丁寧にありがとう。音流の母の音葉です。音流がお友達を家に連れてくるのは珍しいから、大したおもてなしはできないけれど……」
「コイツ、ピアノ習いたいらしい」
俺が仕方なく言うと、母さんはまあ! とか言いながら両手を合わせる。
ったく、イケメンに目を輝かせやがって。
「生徒さん希望だったの? もちろん、大歓迎よ。まずは中へ入って」
「ありがとうございます。お邪魔します」
二人の後に適当についていく。
家に上がる時までわざわざ靴をそろえてるし、イケメンは育ちもいいのかもしれない。
母さんがピアノ教室のレッスン室へ案内すると、イケメンも素直についていく。
「家の中にグランドピアノ!」
「一応ね。家の可愛い子なの」
「ピアノ自体を可愛がってるのは母さんぐらいだろ。じゃあ、頑張れイケメン」
俺はあくびをしながら立ち去ろうとしたのに、母さんとイケメンに引き留められる。
そんな両腕掴まれても困るし。
「何言ってるの。お友達なんだから、音流も見守らないとダメでしょう?」
「風見くんもぜひ!」
「二人ともなんだよ面倒くさいな……分かったから離せって。ほら、さっさと始めろよ」
俺は諦めて付き添いの人が座る椅子を引っ張ってきてピアノの側へ置く。
スクバを床へ転がして顎で二人を促した。
「全く、可愛げがないんだから。では、藤川君。ピアノに触るのは初めて?」
「そうですね。あ、そうだ!」
イケメンは急に自分のスクバをごそごそと探り出す。
そして、譜面台の側にちょこんと見たことのあるフィギュアを乗せた。
「あら、これナマケモノちゃん。あなたがどうして?」
「この前、風見くんが忘れていったので。ちゃんと持っていてくださいね」
ニコニコ笑顔で見てくるんじゃねえっての。
本当にイケメンはやりづらい。
イケメンも暫くは母さんのレッスンを真面目に受けていたが、そのうち何故か俺の方をちらちら見始めた。
俺はスマホで暇つぶしにアプリゲームをやってるのに、気が散るっての。
「藤川君、もしかして音流に褒めてほしいの?」
「え? あ、あはは……」
「でも、藤川君は初めてなのにとても覚えがいいもの。頭がいいのね? 家の子とは大違い」
「うるせぇよ。ほっとけ」
舌打ちしながらまたスマホに視線を落とすと、妙な沈黙が流れる。
イラつきながら視線をあげると、母さんがニッコリと微笑んでいた。
この顔は……放っておくと後が面倒な時の顔だ。
「何?」
「音流、見本として一曲弾いて」
「なんで俺が」
「お願いします! できれば子犬のワルツで」
イケメンはまた同じ曲をリクエストしてくる。そんなに気に入ってるのか、あの曲。
母さんが不思議そうな顔をすると、イケメンは昔のことを母さんにも話した。
母さんが見送りで外に出ているところだった。
「先生、さようなら」
「はい、さようなら」
やり取りが終わる頃を見計らって、玄関へ近づく。
俺に気付いた母さんがおかえりと言いかけたあとに、隣のイケメンを見て驚く。
「音流……そちらのカッコイイ男の子は、お友達?」
「母さんまでイケメン好きかよ……コイツは、友達じゃ……」
「はい! 藤川 透莉です。よろしくお願いします」
イケメンは最高の笑顔と爽やかな声でハキハキとあいさつをして、母さんに頭を下げた。
さすが、体育会系。あいさつはしっかりしてる……って。冷静に観察してる場合か。
「藤川君? ご丁寧にありがとう。音流の母の音葉です。音流がお友達を家に連れてくるのは珍しいから、大したおもてなしはできないけれど……」
「コイツ、ピアノ習いたいらしい」
俺が仕方なく言うと、母さんはまあ! とか言いながら両手を合わせる。
ったく、イケメンに目を輝かせやがって。
「生徒さん希望だったの? もちろん、大歓迎よ。まずは中へ入って」
「ありがとうございます。お邪魔します」
二人の後に適当についていく。
家に上がる時までわざわざ靴をそろえてるし、イケメンは育ちもいいのかもしれない。
母さんがピアノ教室のレッスン室へ案内すると、イケメンも素直についていく。
「家の中にグランドピアノ!」
「一応ね。家の可愛い子なの」
「ピアノ自体を可愛がってるのは母さんぐらいだろ。じゃあ、頑張れイケメン」
俺はあくびをしながら立ち去ろうとしたのに、母さんとイケメンに引き留められる。
そんな両腕掴まれても困るし。
「何言ってるの。お友達なんだから、音流も見守らないとダメでしょう?」
「風見くんもぜひ!」
「二人ともなんだよ面倒くさいな……分かったから離せって。ほら、さっさと始めろよ」
俺は諦めて付き添いの人が座る椅子を引っ張ってきてピアノの側へ置く。
スクバを床へ転がして顎で二人を促した。
「全く、可愛げがないんだから。では、藤川君。ピアノに触るのは初めて?」
「そうですね。あ、そうだ!」
イケメンは急に自分のスクバをごそごそと探り出す。
そして、譜面台の側にちょこんと見たことのあるフィギュアを乗せた。
「あら、これナマケモノちゃん。あなたがどうして?」
「この前、風見くんが忘れていったので。ちゃんと持っていてくださいね」
ニコニコ笑顔で見てくるんじゃねえっての。
本当にイケメンはやりづらい。
イケメンも暫くは母さんのレッスンを真面目に受けていたが、そのうち何故か俺の方をちらちら見始めた。
俺はスマホで暇つぶしにアプリゲームをやってるのに、気が散るっての。
「藤川君、もしかして音流に褒めてほしいの?」
「え? あ、あはは……」
「でも、藤川君は初めてなのにとても覚えがいいもの。頭がいいのね? 家の子とは大違い」
「うるせぇよ。ほっとけ」
舌打ちしながらまたスマホに視線を落とすと、妙な沈黙が流れる。
イラつきながら視線をあげると、母さんがニッコリと微笑んでいた。
この顔は……放っておくと後が面倒な時の顔だ。
「何?」
「音流、見本として一曲弾いて」
「なんで俺が」
「お願いします! できれば子犬のワルツで」
イケメンはまた同じ曲をリクエストしてくる。そんなに気に入ってるのか、あの曲。
母さんが不思議そうな顔をすると、イケメンは昔のことを母さんにも話した。

