ナマケモノのフィギュアはもらい物だ。
ガキの頃に、駅に設置されていたストリートピアノで演奏したことがあった。
その時に同じくらいの年齢の男の子が、ニコニコしながら俺に渡してきたものだ。
『すっごいキラキラしてた! 楽しかった! だから……あげる!』
『え? ありがとう』
俺は勢いに押されて受け取ってしまったが、お礼を言うと楽しそうに走り去ってしまって返すこともできなかった。
それ以来、妙にコイツが気に入ってしまってピアノを弾くときは演奏を見守ってもらうようにちょこんと置くのが癖になっていた。
「ったく。いつみてもゆるい顔してるよな。しかもなんでナマケモノなんだよ……」
俺も当時は何だか分からなかったが、母親がナマケモノだと言って笑いながら教えてくれた。
普通、もう少しカッコイイ動物とか選びそうなもんだが……余りものをくれたのかもしれない。
昔を思い出したせいか、その時弾いていた曲が弾きたくなった。
俺は両手を鍵盤に置いて弾き始める。
軽快な右手のメロディから始まる、有名なピアノ曲。子犬のワルツだ。
俺は元々この曲を得意としていて、子どもの頃はこればかり弾いていた。
別に神童って訳でもなかったし、今でも普通に弾ける程度の腕前だから誰かを感動させるほどじゃない。
それでも、この曲を弾くと母親がいつも褒めてくれて嬉しかったのは覚えている。
「っと、あぶね」
考え事をしていたせいで、音を外しかけた。
指は左右を転がるように行き来し、メロディは子犬と戯れているようなイメージがある。
難易度は子どもでも頑張れば弾けるし、大人が弾くと更に磨かれた曲調にもなるだろう。
俺は元々ショパンの曲が好きで、学校でもよくショパンを弾いていた。
長い曲でもないし、三分もあれば弾き終わる曲だ。人によってはもっと速く弾ける。
曲もそろそろ終盤というところで、急にガンっという音が出入口から聞こえてきた。
「……った! いた!」
俺は勢いよく開いた引き戸にビビッてしまった。
扉の側に、よく分からないことを叫ぶ男子生徒がいたからだ。
「はあ?」
俺が呆然としていると、男子高校生はどんどん距離を詰めてくる。
そして、いきなり俺の両手を取ってニコニコと笑いかけてきた。
「見つけたっ! やっと、見つけた……っ」
「は? いきなり何なんだよ! ってか、離せ!」
俺はブンッと手を振って、握られた手を振り払う。
目の前のヤツは気にした風もなく、ただキラキラとした目を向けてくる。
コイツ……見たことないヤツだが、モテそうな顔をしている。
走ってきたせいで髪は少し乱れてるが、センター分けの焦げ茶の髪に二重で切れ長の焦げ茶の瞳。
爽やかな笑顔といえば、イケメンだよな。
って、俺が分析するのもおかしな話だが。
「あ、ごめん。でもオレはずっと探してたんだ。間違いない、君だ!」
「うわ、イケメンが頭おかしいこと言っててキモ……」
正直ドン引きしてあからさまに嫌だという顔を向けたのに、イケメンは気にもせずに俺を笑顔のまま見下ろしてくる。
全力疾走したのか知らないが、額には汗まで光っていた。
ガキの頃に、駅に設置されていたストリートピアノで演奏したことがあった。
その時に同じくらいの年齢の男の子が、ニコニコしながら俺に渡してきたものだ。
『すっごいキラキラしてた! 楽しかった! だから……あげる!』
『え? ありがとう』
俺は勢いに押されて受け取ってしまったが、お礼を言うと楽しそうに走り去ってしまって返すこともできなかった。
それ以来、妙にコイツが気に入ってしまってピアノを弾くときは演奏を見守ってもらうようにちょこんと置くのが癖になっていた。
「ったく。いつみてもゆるい顔してるよな。しかもなんでナマケモノなんだよ……」
俺も当時は何だか分からなかったが、母親がナマケモノだと言って笑いながら教えてくれた。
普通、もう少しカッコイイ動物とか選びそうなもんだが……余りものをくれたのかもしれない。
昔を思い出したせいか、その時弾いていた曲が弾きたくなった。
俺は両手を鍵盤に置いて弾き始める。
軽快な右手のメロディから始まる、有名なピアノ曲。子犬のワルツだ。
俺は元々この曲を得意としていて、子どもの頃はこればかり弾いていた。
別に神童って訳でもなかったし、今でも普通に弾ける程度の腕前だから誰かを感動させるほどじゃない。
それでも、この曲を弾くと母親がいつも褒めてくれて嬉しかったのは覚えている。
「っと、あぶね」
考え事をしていたせいで、音を外しかけた。
指は左右を転がるように行き来し、メロディは子犬と戯れているようなイメージがある。
難易度は子どもでも頑張れば弾けるし、大人が弾くと更に磨かれた曲調にもなるだろう。
俺は元々ショパンの曲が好きで、学校でもよくショパンを弾いていた。
長い曲でもないし、三分もあれば弾き終わる曲だ。人によってはもっと速く弾ける。
曲もそろそろ終盤というところで、急にガンっという音が出入口から聞こえてきた。
「……った! いた!」
俺は勢いよく開いた引き戸にビビッてしまった。
扉の側に、よく分からないことを叫ぶ男子生徒がいたからだ。
「はあ?」
俺が呆然としていると、男子高校生はどんどん距離を詰めてくる。
そして、いきなり俺の両手を取ってニコニコと笑いかけてきた。
「見つけたっ! やっと、見つけた……っ」
「は? いきなり何なんだよ! ってか、離せ!」
俺はブンッと手を振って、握られた手を振り払う。
目の前のヤツは気にした風もなく、ただキラキラとした目を向けてくる。
コイツ……見たことないヤツだが、モテそうな顔をしている。
走ってきたせいで髪は少し乱れてるが、センター分けの焦げ茶の髪に二重で切れ長の焦げ茶の瞳。
爽やかな笑顔といえば、イケメンだよな。
って、俺が分析するのもおかしな話だが。
「あ、ごめん。でもオレはずっと探してたんだ。間違いない、君だ!」
「うわ、イケメンが頭おかしいこと言っててキモ……」
正直ドン引きしてあからさまに嫌だという顔を向けたのに、イケメンは気にもせずに俺を笑顔のまま見下ろしてくる。
全力疾走したのか知らないが、額には汗まで光っていた。

