次の日、俺が着くより早くイケメンは第二音楽室の中で待ち構えていた。
いくらこの場所だと人気がないからと言っても、イケメンの後を付ける女子が現れてもおかしくはない。
「お前、誰かに追われていないだろうな?」
「はい! オレは別のところにいることになってます。友だちに頼みました」
「そこまでするか? まあ、いいけど」
やたらと張り切っているイケメンを見て、すでに疲れたが仕方ない。
バイトすらやる気がないのを理由にして今やっていないし、情けないが小遣いは大事だ。
小遣いのためと自分に言い聞かせて、やる気満々のイケメンの隣に椅子を引っ張ってきて腰かけた。
「で、譜面持ってきたのか?」
「もちろん。オレの家にピアノがないので練習はできなかったけど……」
「それは仕方ないだろ。だけど、この学校は音楽に力を入れているのにお前はスポーツ推薦?」
「いや、普通の推薦枠で。この学校がストリートピアノから一番近い学校だったし。もしかしたら風見くんに会えるかもって」
俺に会えるかもって理由だけでこの学校を選んだとか、それもおかしな話だ。
そんなに俺の音が気に入ったってことか?
イケメンはいつもと変わらぬ笑顔で笑っていたが、そんな理由で学校を選ぶなんてどうかしている。
「やっぱり……キモイな、お前」
「風見くん、キモイって言い過ぎな気が……」
「事実だろ。ほら、さっさと始めるぞ」
俺が促すと、イケメンは大人しくスクバから譜面を取り出して譜面台へ置く。
譜面には赤字で色々と書き込まれていた。
「これ……自分で書いたのか?」
「自分なりに教えてもらったことをメモしてみました。風見先生が書いてくださったところとも合わせてですけど」
「ふーん。どれどれ……」
俺が譜面を覗き込むと、イケメンは恥ずかしそうに視線をそらす。
そもそもなんで恥ずかしがるんだって話だ。
「何?」
「いや、風見くんとの距離が近いなって思って」
「……」
「ごめん! なんでもないです。始めましょう!」
俺の言葉を無言で理解するとは、さすが頭がいい。
にしても、俺に対して過剰に反応しすぎだ。
いちいち行動が大げさだし、すぐに緊張しているのが見て取れた。
「だから、そんなにがちがちになると弾けないって言っただろうが。リラックスしろ、リラックス」
「分かってるけど、運命の音色を奏でる人がこんなに側にいてくれるのにまだ慣れなくて。夢みたいだから」
「……はあ。やる気ないなら帰るけど?」
「そんなこと! ない、です。弾きます!」
イケメンは慌ててピアノに向かう。そして、昨日弾いていた部分の右手は慣れてきたのか見た感じ大丈夫そうだった。
「できているみたいだな。次、左手」
「はいっ」
イケメンは返事をして左手を置こうとしたが、初期位置のドの音を忘れたらしい。
俺は仕方なくイケメンの手を持って、左手の小指を鍵盤のドの位置へ置いてやる。
相変わらずイケメンの手はぷるぷると小刻みに震えていたが、また俺が触っているせいとでも言いたげな視線を感じた。
コイツ……好きなのは俺の音色であって、俺自身じゃないはずなのに……何を過剰反応しているんだか。
俺は男だし、女子にモテモテなイケメン様が何をビクビクしてんだっつの。
「左はここ。左手も慣れたら最後は両手だ」
「分かった」
敬語かと思っていたらタメ語でしゃべるし、忙しいヤツだ。
一度弾き始めると集中力があるみたいだから、静かでいいんだけどな。
いくらこの場所だと人気がないからと言っても、イケメンの後を付ける女子が現れてもおかしくはない。
「お前、誰かに追われていないだろうな?」
「はい! オレは別のところにいることになってます。友だちに頼みました」
「そこまでするか? まあ、いいけど」
やたらと張り切っているイケメンを見て、すでに疲れたが仕方ない。
バイトすらやる気がないのを理由にして今やっていないし、情けないが小遣いは大事だ。
小遣いのためと自分に言い聞かせて、やる気満々のイケメンの隣に椅子を引っ張ってきて腰かけた。
「で、譜面持ってきたのか?」
「もちろん。オレの家にピアノがないので練習はできなかったけど……」
「それは仕方ないだろ。だけど、この学校は音楽に力を入れているのにお前はスポーツ推薦?」
「いや、普通の推薦枠で。この学校がストリートピアノから一番近い学校だったし。もしかしたら風見くんに会えるかもって」
俺に会えるかもって理由だけでこの学校を選んだとか、それもおかしな話だ。
そんなに俺の音が気に入ったってことか?
イケメンはいつもと変わらぬ笑顔で笑っていたが、そんな理由で学校を選ぶなんてどうかしている。
「やっぱり……キモイな、お前」
「風見くん、キモイって言い過ぎな気が……」
「事実だろ。ほら、さっさと始めるぞ」
俺が促すと、イケメンは大人しくスクバから譜面を取り出して譜面台へ置く。
譜面には赤字で色々と書き込まれていた。
「これ……自分で書いたのか?」
「自分なりに教えてもらったことをメモしてみました。風見先生が書いてくださったところとも合わせてですけど」
「ふーん。どれどれ……」
俺が譜面を覗き込むと、イケメンは恥ずかしそうに視線をそらす。
そもそもなんで恥ずかしがるんだって話だ。
「何?」
「いや、風見くんとの距離が近いなって思って」
「……」
「ごめん! なんでもないです。始めましょう!」
俺の言葉を無言で理解するとは、さすが頭がいい。
にしても、俺に対して過剰に反応しすぎだ。
いちいち行動が大げさだし、すぐに緊張しているのが見て取れた。
「だから、そんなにがちがちになると弾けないって言っただろうが。リラックスしろ、リラックス」
「分かってるけど、運命の音色を奏でる人がこんなに側にいてくれるのにまだ慣れなくて。夢みたいだから」
「……はあ。やる気ないなら帰るけど?」
「そんなこと! ない、です。弾きます!」
イケメンは慌ててピアノに向かう。そして、昨日弾いていた部分の右手は慣れてきたのか見た感じ大丈夫そうだった。
「できているみたいだな。次、左手」
「はいっ」
イケメンは返事をして左手を置こうとしたが、初期位置のドの音を忘れたらしい。
俺は仕方なくイケメンの手を持って、左手の小指を鍵盤のドの位置へ置いてやる。
相変わらずイケメンの手はぷるぷると小刻みに震えていたが、また俺が触っているせいとでも言いたげな視線を感じた。
コイツ……好きなのは俺の音色であって、俺自身じゃないはずなのに……何を過剰反応しているんだか。
俺は男だし、女子にモテモテなイケメン様が何をビクビクしてんだっつの。
「左はここ。左手も慣れたら最後は両手だ」
「分かった」
敬語かと思っていたらタメ語でしゃべるし、忙しいヤツだ。
一度弾き始めると集中力があるみたいだから、静かでいいんだけどな。

