俺はイラっとしながらイケメンの側を離れる。
母さんは笑いながらレッスン室の中へ入ってきた。
「さっさと変われよ、先生」
「音流もやればできるじゃないの。いい感じだったわよ」
「ほっとけ。まだレッスン時間残ってるだろ?」
「そうね。ごめんなさいね、藤川君。じゃあ、もう一度」
藤川は俺と交代した母さんを見上げると、はいとまたハキハキと返事をした。
母さんはよしよしと子どもにやるように頭をなでてやってるし。
言っておくが、ソイツは高校生だ。子どもって言ってもチビではない。
残りの時間は母さんと普通にレッスンをして、あっという間に個人レッスンは終わった。
藤川はありがとうございましたと満足そうな顔で母さんに頭を下げていた。
「ピアノって楽しいです! 俺はまだまだ下手くそですけど、オレの指からも音が流れるなんて……」
「楽しいって思ってもらえてよかった。その気持ちを大切にね」
「はい!」
母さんの言葉は俺にも聞こえたけど、無視を決め込んだ。
昔みたいに楽しいからただ弾きたいという感情は湧いてこない。
「もっとレッスンに来たくなっちゃいますけど……」
「ごめんなさいね。今は一か月に二回が限度かな? 発表会が控えていて子どもたちの方を優先させてもらっているの。藤川君はまだ出られないから……」
「いえ、こちらこそ忙しい時期に無理を言って引き受けていただいたので」
「もし弾きたくなったら、音流に教わってね」
母さんはまた爆弾を落としてくる。俺に押し付ける気か? このイケメンを?
「はあっ? やる訳ないし」
「……引き受けるなら、お小遣いをあげる。私が見られないときの特別レッスンだから、先生の私からお給料とは言えないけどお小遣いをあげるわよ? どう?」
「どうって言われても……」
「欲しがってたじゃない。なんだっけ? あのブランドの……」
このままだと母さんのペースに飲み込まれるだけだ。これ以上イケメンに俺の事情を聞かれたくない。
「分かったよ。じゃあ、学校で。お前が暇なときに放課後な」
「え……? ホントに?」
「お前、部活入ってるんだろ? だから部活がない日に」
「オレ、サッカー部なんです。学校は文化部に力を入れてるせいか、運動部はグラウンドを順番に使うんです。そのせいで、一週間に数回しか使えないんですよね。だから、結構レッスンへ行けそうです」
イケメンは嬉しそうに俺の手をいきなり握りしめてきた。
相変わらずの馬鹿力のせいで、振り払うのに苦労する。
ブンブンと何度か振って、やっとひきはがす。
「俺は暇なときに第二音楽室にいる。その時に会えたら教えてやるよ」
「音流……あんたホントに可愛くない……」
母さんはため息を吐くが、イケメンは気にもせずにただ喜んでるし。
コイツ、そんなにピアノを弾けるのが嬉しいのか? 変なヤツ。
「風見くん、また明日! 風見先生、ありがとうございました」
「はい、さようなら。遠慮せずにこの子のこと名前で呼んでいいのにー」
「余計なこと言うなよ! じゃあな、イケメン。さっさと帰れよ」
しっしっと追い払う仕草をすると、母さんに頭をはたかれた。
今の時代、ダメだろコレ。
イケメンは楽しそうに笑いながら去っていった。ようやく嵐が過ぎ去って、俺も安心だ。
母さんは笑いながらレッスン室の中へ入ってきた。
「さっさと変われよ、先生」
「音流もやればできるじゃないの。いい感じだったわよ」
「ほっとけ。まだレッスン時間残ってるだろ?」
「そうね。ごめんなさいね、藤川君。じゃあ、もう一度」
藤川は俺と交代した母さんを見上げると、はいとまたハキハキと返事をした。
母さんはよしよしと子どもにやるように頭をなでてやってるし。
言っておくが、ソイツは高校生だ。子どもって言ってもチビではない。
残りの時間は母さんと普通にレッスンをして、あっという間に個人レッスンは終わった。
藤川はありがとうございましたと満足そうな顔で母さんに頭を下げていた。
「ピアノって楽しいです! 俺はまだまだ下手くそですけど、オレの指からも音が流れるなんて……」
「楽しいって思ってもらえてよかった。その気持ちを大切にね」
「はい!」
母さんの言葉は俺にも聞こえたけど、無視を決め込んだ。
昔みたいに楽しいからただ弾きたいという感情は湧いてこない。
「もっとレッスンに来たくなっちゃいますけど……」
「ごめんなさいね。今は一か月に二回が限度かな? 発表会が控えていて子どもたちの方を優先させてもらっているの。藤川君はまだ出られないから……」
「いえ、こちらこそ忙しい時期に無理を言って引き受けていただいたので」
「もし弾きたくなったら、音流に教わってね」
母さんはまた爆弾を落としてくる。俺に押し付ける気か? このイケメンを?
「はあっ? やる訳ないし」
「……引き受けるなら、お小遣いをあげる。私が見られないときの特別レッスンだから、先生の私からお給料とは言えないけどお小遣いをあげるわよ? どう?」
「どうって言われても……」
「欲しがってたじゃない。なんだっけ? あのブランドの……」
このままだと母さんのペースに飲み込まれるだけだ。これ以上イケメンに俺の事情を聞かれたくない。
「分かったよ。じゃあ、学校で。お前が暇なときに放課後な」
「え……? ホントに?」
「お前、部活入ってるんだろ? だから部活がない日に」
「オレ、サッカー部なんです。学校は文化部に力を入れてるせいか、運動部はグラウンドを順番に使うんです。そのせいで、一週間に数回しか使えないんですよね。だから、結構レッスンへ行けそうです」
イケメンは嬉しそうに俺の手をいきなり握りしめてきた。
相変わらずの馬鹿力のせいで、振り払うのに苦労する。
ブンブンと何度か振って、やっとひきはがす。
「俺は暇なときに第二音楽室にいる。その時に会えたら教えてやるよ」
「音流……あんたホントに可愛くない……」
母さんはため息を吐くが、イケメンは気にもせずにただ喜んでるし。
コイツ、そんなにピアノを弾けるのが嬉しいのか? 変なヤツ。
「風見くん、また明日! 風見先生、ありがとうございました」
「はい、さようなら。遠慮せずにこの子のこと名前で呼んでいいのにー」
「余計なこと言うなよ! じゃあな、イケメン。さっさと帰れよ」
しっしっと追い払う仕草をすると、母さんに頭をはたかれた。
今の時代、ダメだろコレ。
イケメンは楽しそうに笑いながら去っていった。ようやく嵐が過ぎ去って、俺も安心だ。

