「あー、今月も赤字ですー」

 ノートパソコンの画面を見つめながら、サキは頭を抱えていた。

「どうした、サキ君?」

「先生、ここ最近仕事の依頼が来てないので、赤字なんですよー」

「確かに……」

「確かにじゃないですよー。このままじゃ、この事務所を借りるのに必要なお金も払えなくなるし、私のお給料も無くなっちゃうんですからねー。ここ最近、値上がりするものばかりで、食べ物買うのも大変なのにー」

「わかった、わかったよサキ君。うーん。仕方ない、あんまり乗り気じゃないが、まりえの知り合いから何か仕事をもらうか」

 九十九はメールでとある人物と連絡を取った。

 二時間後、黒いスーツを着た男性が九十九探偵事務所を訪れた。

 応接室で九十九はこのスーツの男性と打ち合わせをしていた。

「どうです、九十九さん。都市伝説を調査しているあなたにピッタリの仕事でしょう?」

「私にツチノコを見つけ出して、その報告記事を書けというわけですか?」

「ええ、日本のUMA、未確認生物の中でもツチノコは抜群の知名度ですし、うちの雑誌でも人気ですからね。計算出来るコンテンツなので、定期的に記事にしたいネタなんですよ」
 
「しかし、ツチノコの目撃情報はたくさんあるのに、この令和の時代になっても、一匹も見つかっていません。正直言って、私も発見できる自信はないですよ」

「まあまあ、心配しないでください。今回私がこの話を持ってきたのは、ちゃんと理由があるんです」
 
 月刊ヌーの編集長である望月良平は、記者である伊藤まりえから九十九の話を聞いていた。
 それから、望月編集長は定期的に九十九の事務所に顔を出すようになり、九十九たちと知り合いになった。
 この編集長はいつも真っ黒なサングラスをかけた、ちょいワルっぽい見た目のおじさんだ。
 しかし、見た目とは裏腹に、彼の話し方はとても穏やかで紳士的だった。
 
「読者から月刊ヌーの編集部に寄せられてくるツチノコの目撃情報が、ここ半年で急増してるんです。しかも、ある特定の地域に集中しているんですよ」

「なるほど、それは興味深いですね」
 
「それが、G県にある八十狩村(やそがりむら)なんですけど、目撃情報が多いからか、村が最近ツチノコに高額の懸賞金をかけたみたいで。それで、全国から人が殺到しているみたいなんですよ。そこで九十九さんには、その村の取材をお願いしたいんです」

「そんなことがあったとは。実に興味深いです。いいでしょう。その仕事、引き受けます」

「おお、行ってくださるんですね。ありがとうございます。交通費とか取材にかかる費用は全部うちの会社で持ちますから、後で領収書出してくださいね」

「その件なんですが、最近ウチもいろいろと厳しくてですね。その、望月さんがよろしければ、取材費を前借りできないかなと……」

 九十九は手を合わせて望月編集長に頼み込んだ。

「しょうがないですねー」
 
 望月は、自分の財布から十万円を取って、机に置いた。
 
「今回だけですよ、九十九さん。東京からG県まで往復で一人二万円ぐらいかかります。宿泊費を入れても、これだけあればなんとかなるでしょう。最終的にはうちで支払いますけど、前借り期間中は借用したということにします。なので、一応借用書を書いてもらいますけど、いいですね?」
 
「望月さん、ありがとうございます。もちろんそれで大丈夫です。サキ君、借用書を書くから、紙とペンを持ってきてくれ」

「はーい」

「あ、そうそう。うちの雑誌はツチノコに懸賞金をかけてるんです。生捕りにして編集部まで持ってきてくれたら、報酬にプラスして百万円支払いますよ」

 ぱしゃん。

 その言葉を聞いたサキは、思わず持っていた紙とペンを床に落としてしまった。

「ひゃ、ひゃくまんですってー!? そ、それ、本当なんですかー?」

「ええ。うちの社長は都市伝説が大好きですから。ツチノコを発見したら、相応のお金を出してもいいといっています」

「最高でーす。せんせー、すぐに準備して捕まえにいきましょー」

「まあまあ、落ち着いてください、鷹野さん。九十九さん、うちに寄せられた目撃情報とかの詳細は後からメールで送りますね」

「よろしくお願いします。では、借用書を書きますね」

 借用書を受け取った望月編集長は事務所を後にした。

「ふふ、ちょろい仕事が来ましたねー。私と先生の能力を使えば、あっという間に見つけられますよー」

「まあね。でも、そう上手くいくとは……」

「百万〜、百万〜」

 上機嫌になったサキは自然と歌を歌っていた。

 一週間後、二人はツチノコの目撃情報があったG県の八十狩村へと向かった。

「取材費を前借りしたおかげで、新幹線でこれましたねー」
 
「ああ、G県は東京からかなり離れているからね。新幹線に乗れたのは大きいよ。望月編集長様々だな」

 八十狩村ではツチノコの目撃情報が出てから、生きたツチノコに三百万円の懸賞金をかけている。
 そのため、ツチノコを捕まえると高額な賞金をもらえることを知った人々が、全国からこの村に殺到していた。

「ほんと、ツチノコって人気なんですねー。生捕りにすれば、村から懸賞金三百万ですって」
 
「ああ、三百万円あれば、大分楽になるからな。がんばって捕まえよう」

「ふふふ。三百万〜、三百まーん〜」

 村に着いた二人は、とりあえず村役場にいって話を聞くことにした。

「村役場でこの村全体の地図をもらってきました。これで私がダウジングして、さっさと居場所を見つけて捕獲しちゃいましょー」

 しかし、サキがダウジングしても、ツチノコの反応は無かった。

「おかしいですねー。私のダウジングが反応しないなんてこと、ありえないのにー」

「もしかして、この村にはツチノコ自体がいないんじゃないか?」

「そんなー。でも、こんなに目撃情報があるんですよー」

「ツチノコによく似た生物と見間違えたのかもしれない。例えば、餌を食べてお腹が膨れているヘビとか。以前にも妊娠していてお腹が膨らんでいるマムシをツチノコと勘違いしたことがあったって聞いたことがあるよ」

「そんなー」
 
「ま、せっかくだからもう少しだけ調査してみよう。似た生物でもなんとか誤魔化して、ツチノコってことにすれば、お金、もらえるかもしれないし」

「そうですよね。どうせ、何か言われても知らなかったってしらばっくれればいいだけですものねー。よーし、ツチノコモドキ、捕まえましょー」

 二人はツチノコの目撃情報がある丘に向かった。
 
「わあー、先生。青い花が咲いていますよー。綺麗ですねー」
 
「これはネモフィラだね。一面に咲いているとはねー」

「まるで、青い海原みたいで、本当に綺麗ですー」

 この丘は、至る所に青い花が咲き乱れていて、丘を埋め尽くす花が、まるで青い海のように見えることから、絶景ポイントとして、近年観光地として人気となっていた。

「それにしても、人が多いね」

「ほんとー、綺麗な景色が台無しですー」

 ネモフィラの咲き乱れた丘には、花の数に負けないくらいの人で溢れていた。

「みんなツチノコが目当てなんですかねー。せっかくの綺麗なお花が踏み荒らされてて、かわいそうです」

「ツチノコの賞金に目が眩んだ人間たちだ。花なんて眼中に無いよ」

「三百万ですからねー。仕方ないのかー」

 その時、誰かが叫んだ。

「あ、あれ、ツチノコじゃない?」

「え、ツチノコ? どこだよ!」

「おい待て、俺が捕まえるから!」

 その声が聞こえた途端、倒れるドミノのように人が殺到した。

「どいて、三百万円は私のものよ!」

「邪魔だ! どけよ!」

「どけえええええ!」

 やんちゃなお兄さんたちが、目の前にいた小さな女の子を突き飛ばした。

「きゃあああああ!」

 それを見たサキが女の子に駆け寄る。

「大丈夫ですか。ちょっと、あなたたち、危ないじゃないですか!」

「ああん? こいつがぼーと突っ立ってるのが悪いんだろうが! お前も邪魔するんじゃねえよ!」

 ガラの悪いお兄さんはサキを睨んできた。

「うう、怒られてしまいましたー。サキ、何も悪いことしてないのにー」

「お嬢さん、大丈夫かい?」

「うん、大丈夫。助けてくれてありがとう」

「それはよかったです。でも、ちょっと、危険な状態ですねー。いつ事故が起きてもおかしくないです」

「ツチノコのためなら、なんだってしそうな感じで、殺気立っているね。みんな、この物価高で生活が苦しいんだろうけど」

「大変なのは、私たちだけじゃないんですね」

「ま、仕方ない、別の場所を探そう。ツチノコも警戒しているだろうから、人がたくさんいる場所を探しても見つかる確率は低いだろうしね」

「なるほど。人が近づかないようなところにいるかもってことですねー」

「そうだね。例えばこの先に崖が見えるだろう? あの崖の下なんかはなかなか人がいけないだろうからね。そういうところに潜んでるんじゃないかな?」

「そうですよね。それじゃ先生、私たちは人がいないところを狙って探していきましょー」

 ツチノコを探しに村に集まってきた人々は狂乱状態となっていた。

「ふふ、バカどもが騒いでおるわ。偽物に踊らされているなんて、誰も気づいていないだろうよ」

 村役場の村長室で、窓から双眼鏡で彼らをのぞいていた村長がほくそ笑んでいる。

「何も無いこの山間の村にネモフィラを植えて五年。ようやくこの村の青い花も有名になり観光客も増えたが、所詮春だけしか咲かない花からな。継続して観光客を呼び込むには、他にも目玉が必要だった……」

 村長は、机の上に置かれた懸賞金三百万円と書かれたリーフレットに目をやった。
 
「やはりツチノコは知名度があるからな。そして、懸賞金に踊らされて、バカどもがたくさんやってくる。お前たちが探しているのが、偽物だとも知らずに」

 八十狩村では、昔からツチノコの目撃情報があった。
 村長は、それを利用して村おこしをしようと、ツチノコによく似た見た目のアオジタトカゲを村の山林に放した。
 そして、目撃情報が増えてから、ツチノコに高額の懸賞金をかけたのだ。
 
「仮にお前たちが生捕りにしても、ツチノコと違ってこのアオジタトカゲには手足が生えているから、偽物だと判定して懸賞金の支払いを突っぱねられる。まったく、我ながら、完璧な計画を思いついたものよ」

 ツチノコの偽物としてこの村に放たれたアオジタトカゲは、半年間、ずっと人間たちから追われていた。

『くそ、なんで俺がこんな目に……』

『ふふ。可哀想なトカゲさん。人間たちが憎いだろう。さあ、おいで。私が力を貸してあげるよ』

 この村にある小さな祠から、声が聞こえてきた。

『助けてくれるのか? あんたは……』

『ふふ、私は一応神様だよ。この地をずっと守ってきた神様さ。人間に追われている君が可哀想になってね。それに、最近は騒がしい人間が増えて、私も頭にきていたんだ』

 この地の守り神は、アオジタトカゲの身体を巨大化させた。

『ふふ、その姿なら、人間たちに負けはしないよ。思う存分、君をいじめてきた人間に復讐するといい』

『おお、力がみなぎってきた。神様、ありがとう。待っていろ人間たち。俺をいじめた罰を与えてやる』
 
『まったく、私は平穏に暮らしたいのに、人間たちは、騒がしくして。もう我慢の限界よ。少しお仕置きしないとねえ』

 巨大化して凶暴になったアオジタトカゲが、村の人間たちを襲う。

『お前たち、よくも俺をいじめてくれたな。復讐してやるー』

 やんちゃなお兄さんたちの前に巨大なトカゲが現れた。

「いたぞ、ツチノコだー! て、あれ!?」

「おい、なんだよ、あれ?」

「ツチノコがあんなにでかいなんて聞いてねえぞ? あれじゃあ、まるで大蛇じゃないか?」

「いや、よく見ろ。手足があるぞ。こいつ、トカゲだよ。こんなデカいトカゲ、俺初めてみたわ」

「まあいい、生捕りにすれば、金がもらえるんだからな。さっさと捕まえようぜー」

「おい、ちょっと待て。なんか様子がおかしくないか?」

「うるせー。早くお前も手伝えよ」

 トカゲを捕獲しようと不用意に近づいたやんちゃなお兄さんたちは、巨大になったトカゲの尻尾で弾き飛ばされた。

「うわああああ!」

「痛い……痛いよう」

「こいつ、やばい。早く逃げないと……」

 巨大トカゲを捕獲しようとしていた三人はパニックになって逃げ出した。

『すごい力だ。これなら人間たちに復讐できる。待っていろー。おおあばれしてやるからなー』

 巨大なアオジタトカゲは村の中心部へと移動し始めた。

「おい、なんだよあれ」

「ツチノコがあんなにデカいなんて聞いてないぞ」

「とりあえず、逃げないと」

 ツチノコを探していた観光客はようやく事態の深刻さに気づいて、トカゲから逃走を始めた。
 
 トカゲは、目についた車や建物に体当たりをして、次々と破壊していった。
 この村の重要な観光資源だった青い花も、ほとんど踏み潰されてしまった。

「なんだこれは……。あんなにデカくなるなんて、私は聞いてないぞ」

 村長は、村中で大暴れしているトカゲを見て、全身の血の気が引いていた。

 九十九とサキは、前方にツチノコらしい物体を見つけた。

「やっと見つけたわよツチノコモドキ! え、何これ? なんでなこんな大きさなのー!」

「サキ君、こいつには手足がある。どうやらツチノコによく似たトカゲのようだ。だが、まさかここまで大きいとはね。やはり怪異だったのか」

「先生! こいつ、こないだの姦姦蛇螺よりずっとデカくないですかあ!?」

「ああ、マズいね。戦ってどうこうできるような大きさじゃないよ」

「どうしましょー。今回、怪異と戦うつもりなんてなかったから、スピリタスは用意してませんよー」

『うみか、何か変だ。こいつからは、怪異特有の臭いがしないんだ』

『こいつはここにいたツチノコもどきが、何らかの理由で巨大化したんだろう。まだ臭いがしないのは、巨大化してからまだ時間が経っていないからだろうな』

「サキ君、下手に近づくのは危険だ。体格差があるから、間違いなくこちらがやられてしまう。ここは付喪神を使って、上手に対処しよう。お、ちょうどいいものがあった。これを使おう」
 
 九十九はカバンから熊よけの鈴を取り外した。

『この国におわします八百万の神々よ、我が依代に宿り、我に力を貸したまえ』
 
 魂の宿った鈴は付喪神となり、音を鳴らして巨大なトカゲを挑発した。

 ちりん。ちりん。

 鈴の付喪神は、トカゲの周囲を飛び回りながら、鈴の音を鳴らし続けた。

『よし、上手くいった。あとはこいつを上手く誘導すれば──』

 挑発されて怒ったトカゲは、鈴の付喪神を追いかけた。

『いいぞ。そのまま囮として、このトカゲの気を引いてくれ』
 
 囮となった付喪神は、巨大トカゲを崖のある場所までおびき寄せた。

 付喪神に気を取られていたトカゲは、崖があることに気づくのが遅れた。
 そのままトカゲは、崖下へと転落していった。

「身体が大きくなったのが仇となったな。この高さから落ちればただではすまないだろう?」

『ちょっと待って。彼を助けてあげて。彼に悪気はないのよ』
 
 突然、九十九とサキの頭の中に、女性の声が聞こえてきた。

『あなたは?』

『初めまして、私はこの土地を守ってきた神のカヤノヒメです。実は、あの子を巨大化させたのは私なの』

『えっ! あなたがあのトカゲを巨大化させたのですが?』

『ええ、そうよ。私はね、静かだったこの村が好きだったの。なのに、いつのまにか、大勢の人間がやってきて、村を荒らすようになった。それが許せなくて、私はあの子を大きくして、人間を追い払おうとしたの。それに、あの子もずっと人間から追われ続けて、人間を恨んでいたからね』

『なるほど。だから、トカゲを助けてほしいと』

『ええ。本当は、私だけでなんとかしたいんだけど。ごめんなさい。私はあなたたちに話しかけることはできるけど、動くことができないの。あなた、鈴に神様を宿していたわよね? その能力で、私をあの子のところまで移動できるようにしてくれるかしら?』

『わかりました。やってみましょう』

『ありがとう。私はこの先の森にある祠にいるの。案内するから、まずはそこまで来てもらってもいい?』

『わかりました』

 森の中で、九十九たちは小さな祠を見つけた。

『ここですね。では、これからあなたを人型の紙に憑依させます。すいません。紙の依代で申し訳ないですが、しかし、これは軽いので自由に移動できるはずです』

『了解したわ。それでは、よろしく頼みます』

『守り神カヤノヒメよ、我が依代に宿りまえ』

 九十九の能力で、カヤノヒメはヒトガタとなり、崖下にいるトカゲのもとへと向かった。

『私のせいで、大怪我をさせてしまったね。今、傷を治して、元に戻してあげるからね』

 カヤノヒメは、トカゲの傷を癒すと、元の大きさへと戻した。

『人間よ、ありがとう。おかげで我が友人を救うことができました』

 カヤノヒメは、祠へと戻っていった。

「カヤノヒメ……? カヤノヒメ……」

「先生、どうしたんですか?」

「いや、どこかで聞いたことがある名前だなと思って……」

「そうなんですか?」

「あ、思い出した! すごいよサキ君。彼女は本物のツチノコだったんだ!」

「え? 先生、何を言ってるんですか?」

「いいかいサキ君。カヤノヒメにはノヅチという別名が存在する。そして、このノヅチというのは、ツチノコの正体の一つだと考えられているんだ」

「ええ!? じゃあ、あの神様は、ツチノコの神様だったってことですかあー!」

「ああ、そういうことになるね。ここにいるツチノコの正体は神様だったんだ」

 二人は村役場に戻る途中、建物がめちゃくちゃに壊れているのを何回もみた。

「いやーあのトカゲさん。大暴れしたんですねー」

「それだけ、人間に鬱憤が溜まっていたんだろう。ずっと人間たちに追いかけ回されていたんだからな」

 村役場に着いた二人は、村の人々がテレビの前に集まっているのを見かけた。

「次のニュースをお伝えします。G県八十狩村に巨大なトカゲが出現して、観光客に次々と襲いかかりました。多数の負傷者が発生している模様です。このうち、重傷の三名にあっては、村の病院では治療が難しいということで、ドクターヘリで近隣の医療機関へと搬送されました。観光客を襲撃した巨大なトカゲは現在も逃走中で、警察が捜索していますが、今のところ発見には至っていないとことです」

「うわー、ニュースで報道されてますー。大事件になっちゃいましたねー」

「でもこれで、ツチノコ目当ての観光客はしばらくここにはこないだろう。ここまでニュースで報道されてしまってはね」

 事務所に帰った二人は、望月編集長に今回の件を報告していた。

「すいません編集長。ツチノコは捕獲できませんでした」
 
「いえいえ、今回の事件で、八十狩村が注目されてるから、結果的にいい取材になりましたよ。本当によかったです」
 
 結果的にツチノコは捕獲できなかったが、サキが書いた今回のレポートを編集長が気に入って、記事として採用された。
 
 サキは原稿料をもらいご満悦の様子だ。

「これから定期的に記事を寄稿してくれるなら、その分の原稿料もお支払いしますよ」

「うれしい申し出です。ですが、私、文章を書くのは苦手でして……」
 
「それなら、私が書きますよ、先生」

「サキ君が?」

「こう見えても私、文章書くの、嫌いじゃないんですよー」

「そこまでいうなら、君に任せようかな?」

「ふふ、任せてください。怪異ライターのサキとして、がんばりますよー」