「未発見ゲートの位置、覚醒者犯罪、果ては試練ゲートの発生まで未来でも分かっているような書き込みがこちらのハンドルネームから行われています」

 ネット界隈を騒がせている預言者ブラックドラゴンなのだはネットを飛び出して覚醒者協会の耳にも話が聞こえてきていた。

「未来を見ている預言者とも言われますが未来人だったりウチの職員のリークなんていう話もあるんですよ」

 覚醒者協会は覚醒者やゲートに関する情報が集まっている。
 まるで予言のような書き込みもそうして集めた情報を元にした推測や一般公開されていない情報であり、覚醒者協会の誰かがネットに話をリークしているのではないかと予想する人もいたのだ。

 流石に覚醒者協会内部を疑われては覚醒者協会も黙っていられなかった。

「我々の中にリーク者はいませんでした。そこでこの預言者が何者なのか予想を立てました。我々の見立てでは未来予知系スキルの持ち主なのではないかと思っております」

「どうして俺だと?」

「書き込みはパソコンからされていました。そこから追跡を始め、鬼頭アカデミー、この寮、そしてこの部屋のパソコンだということを突き止めたのです」

 シノザキはトモナリが預言者であると言わんばかりの目をしている。

「……じゃあ俺のスキルをお見せしましょう」

 観念したようにトモナリが自分のステータスを開示した。

「…………そんな馬鹿な」

 シノザキは驚いたような表情を浮かべた。
 能力値の高さには当然驚いたのだが今見るべきはスキルの方である。

 もちろんトモナリのスキルは交感力と魂の契約の二つだ。
 第二のスキルスロットが開くのがレベル20になる。

 トモナリはまだレベル9なので最初のスキルスロットしか空いていない。
 交感力にも魂の契約にも未来を予知する能力はない。

 てっきりトモナリだと思っていたのに外れたかとシノザキは苦い顔を浮かべる。
 マサヨシもトモナリがそんなスキルを持っていないことは知っているので違うだろうとは思いながらも、また何か秘密でもあるのだろうかと疑ってはいる。

 トモナリなら何でもやりそうだとマサヨシも思っているのだ。

「誰かにパソコンを使わせていることはありませんか?」

 こうなったらトモナリが犯人ではなく、預言者がトモナリのパソコンを使って書き込みをしているのだろうとシノザキは次の可能性に目を向けた。
 トモナリが使っているパソコンはアカデミーからの支給品で他の生徒にも同様にパソコンが与えられている。

「俺しか使ってません」
 
 当然の答えである。
 自分に与えられているパソコンがあるのに他の生徒がトモナリのパソコンを使いたいというのは少しおかしな話になるのだ。

「でしたら誰かがアイゼンさんのパソコンを遠隔操作で利用している可能性があります」

 同じアカデミーの生徒が忍び込んでトモナリのパソコンを使っているなんて可能性もあるけれど現実的とは言い難い。
 それならばハッキングでもされていると考えたほうが自然である。

「それもないですよ」

「どうしてでしょうか?」

「だってこの書き込みしてるの俺ですから」

「はっ……?」

 シノザキの顔が驚きすぎて固まった。
 後ろで立っているマサヨシも目を見開いて驚いている。

「しかし……」

「俺には未来を予知するスキルはありません」

「ならばどうやってあのような書き込みを?」

「俺じゃなくあいつなんです」

「あいつ……」

 トモナリは親指でベッドの上にいるヒカリを指差した。
 お腹が満たされたのかまったりモードになっているヒカリはいつの間にかトモナリの枕を抱きかかえていた。

 シノザキもヒカリを見てなるほどと思った。

「話は聞いています。ドラゴンと契約する力を持っていて、実際にドラゴンと契約していると」

 トモナリのことは覚醒者協会でも多少話題になっていた。
 ドラゴンと契約するスキルを持っていて、実際にドラゴンと契約した覚醒者がいる。

 一歩間違えればメディアに追われていたことになろうがマサヨシが強力な規制を出したのでトモナリのことは一部の人しか知らない存在であった。
 調査を進めてトモナリのことに突き当たったシノザキは当然トモナリのことを調べた。

 将来を期待される覚醒者なのでもしかしたらそうしたスキルを発現した可能性もあると考えていたのである。

「あちらのドラゴンの力……ということですか?」

「そうです」

 笑顔で答えるトモナリだがこれは真っ赤なウソである。
 ヒカリにも未来を予知する力なんてものはない。

 ならばトモナリは一体どこから情報を引き出しているのか。
 それはもちろんトモナリの頭の中からである。

 トモナリには回帰前の記憶がある。
 回帰前のトモナリはこの時期あまりパッとしない生活を送っていた。

 母であるゆかりに負担もかけられなくて地元にある進学校に通うことになったのだけど、友達もおらず暗い日々を過ごしていた。
 そんな中で覚醒者の活躍というのはトモナリの心を少し明るくしてくれた。

 だからニュースやネットの掲示板など覚醒者やゲートに関わる情報には多く触れていた。
 その時の記憶を呼び起こしてネットにあたかも未来が分かっているかのように書き込んでいたのだ。