ブルーホーンカウは前に出たトモナリのことを睨みつけ、前足で掘るように地面を蹴っている。
 威嚇するような鳴き声をあげるがトモナリは怯むこともなくレビウスを抜いて来いよと挑発するようなジェスチャーをする。

「みんな冷静に見とけ。難しいことなんてない」

 覚醒者は能力値やスキルが全てなどと言われるけれどトモナリは必ずしもそうではないと思う。
 技術や戦い方というものも覚醒者には大事なのである。

 圧倒的な力の差があると敵わないけれど多少の力の差なら経験や培ってきた技術はそれを埋めてくれるのだ。
 ブルーホーンカウはトモナリが威嚇しても引かない相手だと理解した。

 頭を下げて青いツノの先端をトモナリに向ける。
 より強く、打ち鳴らすように地面を蹴って突撃する力を溜める。

「ふふっ、来いよ」

 トモナリの言葉が通じたかのようにブルーホーンカウは走り出した。
 それでもトモナリは動かないで迫り来るブルーホーンカウを眺めている。

 みんなが緊張したような顔をしてトモナリを見守っていた。

「トモナリ君……!」

 ツノが当たる。
 通路から様子を見守っていたマコトがそう思った瞬間にトモナリは動いた。

 一瞬青いツノがトモナリを貫通したようにも、あるいはブルーホーンカウがトモナリをすり抜けたようにも見えた。

「いいか、ギリギリまで引きつけてしっかりかわす。これが基本だ」

 なんてことはない。
 トモナリは横に移動してブルーホーンカウの突進をかわしていた。

 どんな相手でも回避というのは基本的な防御方法である。
 モンスターが強くなればなるほどに力は強くなっていく。

 強い敵ほど正面から攻撃を受けるのが危険になってくる。
 タンクやスキルでもない限りは回避した方が安全であり基本となるのだ。

 トモナリの今の実力ならブルーホーンカウの突撃ぐらい正面からでも受けられる。
 反撃で倒してしまうことも簡単なのであるがそれではみんなのためにならない。

「ほれ!」

「えっ、あっ!?」

「次はお前だ」

 ブルーホーンカウの突進をかわしたトモナリは素早く下がるとミズキの後ろに回り込んだ。
 そしてグッと背中を押す。

 力の数値も高いトモナリに抵抗できるはずもなく前に押し出されたミズキのことをブルーホーンカウが敵とみなす。
 ブルーホーンカウの頭の出来も単純で近い相手から攻撃するみたいである。

「ミズキ、落ち着け! よく相手の動きを見ればかわせるはずだ!」

 ブルーホーンカウがミズキに向かって突撃する。

「今だ!」

「はっ!」

 ただ緊張しているミズキに最初から適切なタイミングを図らせるのも酷だろう。
 トモナリが良さげなタイミングで声をかけるとミズキは横に飛んだ。

 少し早めに叫んだのでミズキはしっかりとツノをかわし、ブルーホーンカウは急ブレーキをかけてなんとか壁に激突するのを避けた。
 ユウト、コウ、サーシャとトモナリが文字通り背中を押してブルーホーンカウの突進を体験させる。

「ほっ!」

「今度そっち行ったよ!」

「ん……」

 一度やってみると慣れるもんだ。
 回避に成功したことで自信がついた8班のみんなはブルーホーンカウを取り囲み、順に突撃を回避してみせている。

「4班! お前らもやってみろ!」

「え、ええ!?」

「今ならちょうどいい」

 度重なる回避によってブルーホーンカウの動きは鈍ってきている。
 慣らしていくのにもこれぐらいならば良いところだろう。

「8班撤退!」

「わかった!」

「下がる」

「ヒカリ!」

「ふふーん、まーかーせーろー!」

 トモナリの指示で8班のみんながサッと通路に撤退する。
 4班の子が前に出るまでヒカリがブルーホーンカウの相手をする。

 ヒカリは素早くブルーホーンカウの首にまたがるとツノを掴む。

「はいどー!」

 ブルーホーンカウはヒカリを振り落とそうと首を振る。
 ヒカリはうまくバランスをとってブルーホーンカウを乗りこなして注意をトモナリの方にいかないようにしている。

「ヒカリちゃんすごい!」

「さすが!」

 ロデオさながらのテクニックでブルーホーンカウを乗りこなすヒカリにミズキとサーシャから歓声が飛ぶ。

「ほらマコト、行くぞ!」

「えっ!?」

「お前なら大丈夫だって」

 マコトは一般クラスにいたので他の特進クラスの子よりもレベルが低い。
 けれど職業の関係から素早さが高く、ブルーホーンカウの攻撃をかわすぐらいならなんの問題もない。

「俺がタイミング言ってやるから」

「わ、分かった……やってみる!」

 トモナリに押されるようにしてマコトが前に出て、4班の他の子たちも出てくる。
 相変わらずブルーホーンカウは上に乗ったヒカリを落とそうとしているけれどヒカリはそれすら楽しみながら上に乗っている。

「ヒカリ、もういいぞ!」

「わははっ! 楽しかったのに残念なのだ!」

 ヒカリが飛んでブルーホーンカウから離れる。
 ブルーホーンカウは興奮と疲れで激しく息を切らせている。

「いけ、大丈夫だから」

「う、うん!」

 勇気を出したマコトが前に出る。
 トモナリが選んでくれたナイフを手に持って、興奮で赤くなったブルーホーンカウの目をマコトは真っ直ぐに見据える。