「なんだと? あんなちんちくりんよりも妾の方が良いとは思わぬか?」

 ルビウスは少し胸を強調して、扇情的にトモナリに視線を送る。
 ルビウスは綺麗な容姿をしている。

 普通の男ならば多少の反応を見せるだろうと思っていたのにトモナリはムッとしたような表情を浮かべた。

「この話は無しだ。あんたのことは返してまたどっかに保管しててもらう。たとえ別の武器がもらえなくてもだ」

「なっ、待て待て! 何でだ!」

 相手を誘惑して怒らせることになるとは予想外でルビウスが慌てる。
 契約拒否どころではなく剣まで返す理由が分からない。

「言ったろ。ヒカリは俺のパートナーだ。大事な友達だ。そんなヒカリのことを悪く言って押し退けようとするならお前のことなんていらない」

「なっ……」

 確かにヒカリには抜けたところがあるかもしれない。
 けれどヒカリはトモナリの友達である。

 約束した。
 こうして回帰したのだってヒカリのおかげである。

 そんな相棒のことを悪様に言って契約しろというようなやつとトモナリは契約するするつもりなんてないのである。
 むしろそんな奴が宿った剣なんていらない。

「この話は終わりだ。俺を戻してくれ。明日にはあの武器庫に戻るんだな」

「ま……待ってくれ!」

「なんだよ?」

 東屋を離れようとするトモナリにルビウスがしがみつく。

「あそこは嫌だ! 暗くて狭くて魔力が遮断されていて嫌いだ!」

「だからなんだよ。俺の知ったことじゃない」

「謝る! 意地悪なこと言ったの謝るから!」

 トモナリの腰に手を回してすがりつくルビウスには先程までの余裕が一切ない。

「ヒカリを捨ててあんたと契約するつもりはない!」

「わ、わざわざヒカリとやらの契約を切る必要もない! それにちゃんと許可を取る! ならばよいだろう?」

 トモナリがルビウスを振り払おうとするけどルビウスは必死にしがみついて離れない。

「許可だと? それにヒカリとの契約はそのままなのか?」

「ヒカリとやらがよいのならよいのだろう? ドラゴンナイトの契約は何も一体だけに囚われることもないのだ」

 ルビウスはうるうるとお願いだという目をしてトモナリを見上げる。

「……ヒカリの許可が得られるなら」

 ドラゴンの素材で作られた剣など滅多にあるものじゃない。
 ましてドラゴンの意思が宿っているなど他にはない貴重品である。

 正直なところ手放すのは惜しく感じる。
 もし仮にヒカリの許可が得られてちゃんと従うというのなら許してやらないこともない。

「ほ、本当か! ならば……」

「にょ!?」

 トモナリから離れたルビウスがパチンと指を鳴らすといきなりヒカリが現れた。

「あ、トモナリ!」

「話をするために呼んだ」

「ハンバーグきてたぞ! 僕が受け取っておいた!」

「おう、ありがとな」

 トモナリはヒカリの頭を撫でる。

「ヒカリとやら、ちょっと話があるのだがよいか?」

「なんだ?」

「妾もトモナリと契約したいのだ」

「ダメだ!」

 ヒカリはトモナリの頭にしがみついて威嚇するように牙を剥き出す。
 ある程度予想していた通りの反応である。

「トモナリは僕の友達だ!」

「まあ待て。別にお主との契約に影響は及ぼさないから」

「それでもダメだ」

「うぅ……見たところお主はまだ子供だろう? 親から何も知識を得てないと見える」

「むむ?」

「無知なことは罪だ。でも知識を得てより力を使えるようになればトモナリの助けになれる」

「……何が言いたいのだ?」

「妾がお主の先生になってあげよう」

 ルビウスは胸を張ってわずかに微笑みを浮かべる。

「お主がトモナリの力になれるように妾が知識を教えてあげよう。それに妾と契約すれば剣の力も自由に使わせてあげるしトモナリのためになるのだ」

 なんかいつの間にかルビウスにも呼び捨てにされてるなとトモナリは思った。

「むむむ?」

「妾がトモナリと契約することによってトモナリにもお主にも良いことがある。それに……」

「それに?」

「お主がトモナリの一番なことは妾が契約しても変わらん。ヒカリがトモナリの一番なのだ」

「……そーか! ならばしょうがないな!」

 チョロインヒカリ。
 ルビウスの安い褒め言葉に一転してヒカリの機嫌が良くなる。

 トモナリやヒカリのためになるというところよりもヒカリがトモナリにとっての一番であるというところにすこぶるご機嫌になった。

「トモナリのためだもんな! 許してやろう」

「ふふ、ありがとう」

 若干言いくるめられた感はあるような気がするもののすっかりご機嫌になったヒカリはルビウスに契約の許可を出した。

「僕は〜トモナリの一番〜」

 トモナリの頭にしがみついたままヒカリは陽気にご一曲。

「まあヒカリの許可は得られたし契約しようか」

「よろしくね、トモナリ。損はさせない。このルビウス、ドラゴンの友のために力を尽くそう」

 ルビウスが手を差し出してきたのでトモナリは応じる。
 トモナリとルビウスの胸から不思議な光が伸びて絡み合うようにして一つに繋がる。

「よろしくな」

「妾も人と契約するのは初めてだ。お手柔らかに頼むぞ」

 ぐにゃりと世界が歪んだ。

「そろそろ話を終わりにしよう」
 
 東屋が消えて風が吹き荒ぶ。
 トモナリから手を離したルビウスが飛び上がる。

 ルビウスが真っ赤な炎に包まれ、巨大な火の玉となる。

「ドラゴンの友よ! 誇り高きレッドドラゴン・ルビウスはお主と共にある!」

 トモナリの意識が黒く塗りつぶされる直前、火の玉が弾け飛んで中から赤いドラゴンが姿を見せた。
 ルビウスの真の姿、それは人の姿とはまた違った美しさがあった。