トモナリとはグループが違ったので名前を聞くこともなかったけど最後の時近くまで活躍していた覚醒者だった。
 ただ女性だったのかと驚いている。

 なぜなら回帰前の記憶で闇騎士王は常にフルフェイスのヘルムを身につけていたので顔も見たことがなかったからである。
 直接話したこともないので勝手に男性だろうと思っていた。

「なに?」

「あ、いえ……」

「むっ、トモナリ?」

 意外と美人で思わず顔をまじまじと眺めてしまった。
 フウカは不思議そうに首を傾げて、ヒカリが目を細めてトモナリの頬を強めにつつく。

「鼻の下伸びてる?」

「伸びてないよ……」

 フウカが美人だから見ていたというより闇騎士王が美人で驚いたから見ていたのである。
 別に鼻の下を伸ばすようなことはない。

「それじゃあ戦うよ」

 フウカが手に取ったのは木剣。
 回帰前の記憶では大きな黒い剣を振り回していたけれどまだそんな武器は持っていないようである。

「やるぞ、ヒカリ!」

「おうともさ!」

 前二つの戦いも結構激しかった。
 正直疲労感はあるけれどどうせなら全力で当たって砕けようとトモナリは思った。

 ヒカリと共に一気にフウカに切りかかっていった。

「そこまで!」

 ただフウカは強かった。
 テルは防御タイプで慎重な戦い方をしていたのでそれなりに戦いの形になっていたけれどフウカは一切手加減もなく攻撃してきたのでトモナリはあっさり負けてしまった。

「いってぇ……」

 こんなに手ひどくやられたのはテッサイ以来だとトモナリは思う。
 ただ怪我をしなかっただけフウカも手加減してくれたのだろうと分かってはいる。

「トモナリィ〜痛いのだぁ〜」

 フウカはヒカリにも容赦なかった。
 またしても頭を木剣で殴られたヒカリが涙目でトモナリの胸に抱きつく。

「ヒカリも頑張ったな」

 フウカには及ばなかったもののテルとの戦いではかなり上手くやってくれた。
 ただ守られるだけの存在ではなくなりつつある。

 トモナリが優しく頭を撫でてやるとヒカリは犬のようにシッポを振って嬉しそうな顔をする。
 可愛いやつめとトモナリも自然と笑顔になる。

 それに格上との激しい戦いで能力値も上がった。
 なかなか上げるのが難しい器用さが三つも上がったのはかなり嬉しいことである。

「……なんか、先輩怒ってます?」

 最初から最後までフウカは無表情だった。
 感情の読めない人であると思っていたのだけど今のフウカはなんとなくムッとしているような雰囲気がある。

「手を抜いた?」

「えっ?」

「テルの時より動き悪い」

 フウカがムッとしているのはトモナリの動きがテルと戦っている時よりも悪かったように感じたからであった。
 女だから手を抜いてわざとやられたのかと怒っているのである。

「勘弁してくださいよ」

「なにが?」

「俺のレベルは7ですよ?」

 ゴブリンキングと戦う前はレベル5であったけれどゴブリンキングとの戦いで二つもレベルが上がった。
 それでもまだ一桁レベルなのである。

「先輩レベル幾つですか?」

「……44」

「先輩と戦う前にも二回全力で戦ってるんですよ? 先輩に対して全力でしたけど万全じゃありませんから」

 レイジとの戦いはともかくとしてテルとの戦いは全力だった。
 イケメンに一発決めてやろうと思ったのだけど結局負けてしまったしかなり力を使った。

 フウカとの戦いも全力であったけれど、フウカに出した全力は本来の本気の7割から8割ほどまで出なかった。
 疲れていたので仕方ない。

 わざと手を抜いたのではなく消耗している中での全力だったのだ。

「む……」

 それもそうかとフウカも気まずそうな顔をする。
 レベル7の一年生が課外活動部としてレベルを上げてきた三年を相手に善戦した。

 そりゃ力も使い果たすというものである。

「…………ごめん」

「いいですよ。今度全力でやりましょう」

「ん、約束」

 少しだけフウカが微笑む。
 分かりにくいだけで意外と感情豊かな人なのかもしれないとトモナリは思った。

「流石にヤナギには敵わないか。では次は誰がやる?」

 マサヨシはミズキたち一年に目を向けた。
 一人三人ずつ相手にするのでトモナリの番は終わりである。

「次は私がやります!」

 トモナリの戦いを見てもめげることはなくやる気を燃やしているミズキが手を上げた。

「よろしい。では誰が相手してくれるかな?」

 こうしてトモナリ以外の新入部員も先輩たちと手合わせした。
 振り返ってみるとトモナリがレイジに勝った一勝だけであとはみんな先輩たちに敵うはずもなくやられてしまった。

 フウカはトモナリ以外の子とは戦うことなく壁際でジッとしていた。

「一人一回は出たな。これで自己紹介も兼ねた手合わせを終わりとしよう。細かな話は休みながら聞くといい」

 レストルームという最初に入ってきたホテルの部屋のようなところに戻る。
 一年生たちはぐったりとソファーに座って二年生たちが冷蔵庫から冷たい飲み物を出してくれた。

「これでレベルを上げることの重要性ということが分かっただろう」

 単にスキルだけでなくレベルによる力の差というのは大きい。
 口で言われても分かりにくいけれどここまでレベルを上げてきた先輩方と戦うことでレベルによる力の差を身をもって思い知ることとなった。

「課外活動部では遠征を行なって他のギルドと協力してゲート攻略を行いレベルを上げていく。細かなスケジュールはゲートの発生状況による。急な連絡があるかもしれないからそこは気をつけておいてくれ」

 他にも注意事項や遠征以外でも活動していたり、こうした部室も自由に使っていいことなどがマサヨシから説明された。

「課外活動でいい動きができていると判断すれば魔道具や霊薬を与えることもある。励んで参加してほしい」

 レベルを上げるだけではない。
 能力値を上げるための霊薬なんかももらえる可能性がある。

 なかなか大変そうだけど課外活動部にその価値はある。
 トモナリは膝の上でジュースを飲んでいるヒカリを撫でながら静かにやる気を燃やしていたのであった。