遅れたりする人がいないようにトモナリは一番後ろを走っていた。
 みんなは動揺しているけれどそれでも今できることはゲートまで走るしかないと一生懸命足を動かしている。

 イリヤマの無事を心配するけれどイリヤマのためにも早くゲートまで行かねばならない。

「トモナリ! この先に何かいる!」

「なに?」

「デッカいのが向かってくる」

「……まさか」

 ヒカリの感覚がなにかをとらえた。
 デカい何か、という言葉にトモナリはすぐに相手の正体を察した。

 表示では現れたのがゴブリンクイーンだけでなくゴブリンキングも書かれていた。
 つまりゲートの中のどこかにはゴブリンキングがいてもおかしくないのである。

「運が悪すぎるだろ……」

 2体ともトモナリたちがいる方角に発生して、広いゲートの中でトモナリたちと遭遇する。
 そんな確率普通は高くない。

「みんな止まれ!」

「な、なによ?」

「このまままっすぐいったら危ない。少し迂回していくんだ」

 ゴブリンクイーンだって生徒たちだけでは厳しいだろう。
 ゴブリンキングなら多分倒せない。

「トモナリ、お前行かないのかよ?」

「……先に行け」

「おい、どうするつもりだよ!」

「俺は囮になる」

「……おいおいおい!」

 少し方向を修正して移動し始めようとしたがトモナリだけは動かなかった。
 不思議に思ったユウトが詰め寄るが、トモナリは残ってゴブリンキングの囮になるつもりだったのだ。

「お前が残るなら……」

「ダメだ」

 一緒に残るというユウトにトモナリは首を振る。

「お前はまだ足手まといだ」

「なっ……」

「見ろ」

 トモナリは自分のステータスを開示した。

『力:35
 素早さ:40
 体力:36
 魔力:26
 器用さ:34
 運:16』

 レベルが上がって伸びた分とトレーニングで伸びた分を合わせるとトモナリの能力はかなり高くなっている。
 才能がある人のレベル20にも匹敵するほどの能力値であり、ユウトは全く敵わないような強さである。

「俺ならまだゴブリンキングと戦って逃げられるかもしれない」

 それでも倒せるとは思っていない。
 樹海という環境を活かせば少し戦ってみんなを逃した後ゴブリンキングをまくことができるとトモナリは考えていた。

 そこにまだ能力の低いユウトがいると足手まといになってしまう。

「……でも」

 友達を一人置いてなんていけない。
 ユウトは拳を握りしめる。

「ありがとな、ユウト」

 トモナリは優しく笑ってユウトの肩に手を置く。

「お前みたいに考えてくれる奴がいるだけでも嬉しいよ」

 誰しも自分の命が大事である。
 それなのに友達だからとトモナリと一緒に残ってくれようとするその心だけでも嬉しい。

 高校生なのに、あるいは高校生だからまだ真っ直ぐなのかもしれない。

「次は一緒に戦おうぜ。でも今回は逃げてくれ。……俺を信じてくれ」

「トモナリ……」

「早く行け」

「……次って言うなら無事に戻ってこいよ」

「もちろんだ。俺は逃げ足に自信があるんだ」

 まだ死ぬ気はない。
 トモナリは余裕を見せるように笑顔を浮かべた。

「コウ、ここからはお前がリーダーだ」

「ぼ、僕が?」

「ああ、お前は頭がいいし冷静だ」

「……分かった」

 ここで嫌だと言っている時間もない。
 コウはトモナリの真剣な目にゆっくりと頷いた。

「トモナリ君、絶対怪我しちゃダメだよ!」

「ヒカリちゃん、無事でね」

 ミズキたちはゴブリンキングが来る方とは別の方向に走っていく。

「ほんじゃ行こうか」

「トモナリとならどこにでもいくぞ」

 残されたのはトモナリとヒカリ。
 トモナリはゴブリンキングの方に走り出し、ヒカリが翼を羽ばたかせてトモナリを追いかける。

「あれがゴブリンキングか」

 ある程度近づくとトモナリにもゴブリンキングの気配が感じ取ることができた。
 いきなり戦い始めるのは危険なので木の上からゴブリンキングの様子をうかがう。

 ゴブリンクイーンはそのままゴブリンが大きくなったような感じであるが、ゴブリンキングはゴブリンクイーンのようにデカさがありながらやや丸いような体型をしている。
 頭には古びた王冠のようなものが乗っかっていて体格と合わせると確かに王様っぽさがある。

 ゴブリンキングはふと立ち止まるとキョロキョロと周りを見回す。
 バレたのかとトモナリとヒカリが息を殺して見てみたらクルリと走る方向を変えた。

「こいつ……!」

 なにをするのかと思えばゴブリンキングは逃げたみんなの方に向かおうとしていた。

「させるかよ!」

 木から飛び降りたトモナリは近くにあった石を拾い上げると魔力を込めてゴブリンキングに向かって投げつけた。
 トモナリが投げた石は真っ直ぐに飛んでいってゴブリンキングの王冠に当たった。

「王冠なけりゃゴブリンデブ親父ってか?」

 王冠が落ちてゴブリンキングは動きを止めた。

「来いよ。少し遊ぼうぜ」

 このまま無視されたらどうしようと思っていたけれど王冠を拾い上げたゴブリンキングはゆっくりとトモナリのことを見た。

「ちょっと不味いかもな」

 振り向いたゴブリンキングから感じる魔力はゴブリンクイーンよりも上だった。
 分かっていたけれど厳しいなとトモナリは笑った。