「先生!」

「なんだ?」

「ブレイクモンスターはいないんですか?」

「いい質問だな」

 ブレイクモンスターとはゲートから外に出てきたモンスターのことを言う。
 ゲートは人類がクリアすべき99個の試練ゲートとクリアしても99個には含まれない通常のゲートがある。

 ゲートの中には異世界が広がっていてモンスターと呼ばれる異形の化け物がいるのだが、これが外に出てくることもある。
 ゲートがクリアされないままに放置されるとゲートはブレイクという現象を起こして、中にいたモンスターが外でも暴れ出す。

 このことから出てきたモンスターのことをブレイクモンスターと呼ぶ。
 ただ最初からモンスターが飛び出してくるものやゲートが現れてから一定期間の間モンスターが出てくることがあるものなどゲートも様々なのだ。

 ゲートを見つけても不用意に近づかない。
 そう覚醒者は教育を受けるのだがそれはブレイクモンスターが周りにいる可能性があるからである。

「今回のゲートでブレイクモンスターの存在は確認していない。周辺の安全も確認済みだから安心しろ」

 そのためにゲートが出現するとブレイクモンスターの存在を警戒して周辺を大きく封鎖しなければならない。
 今回は山の中なので迷惑をこうむる人は確認しなきゃならない覚醒者ぐらいだ。

「トモナリ、キノコあるぞ!」

「なんのキノコか分からないからやめとけ」

 刃のついた武器を渡されて生徒たちの顔も緊張で引き締まっているけれど、トモナリとヒカリはいつも通りである。
 みんなにとっては初めてのことかもしれないけれど、トモナリからしてみればゲートの攻略など何回やったか覚えていないぐらいのもの。

 初心者学生が挑むような難易度なら特別緊張することもないのだ。
 バスから20分ほど歩いたところにゲートがあった。

「これがゲート……」

 教科書で写真を見たりテレビで中継を見たことがあっても生でゲートを見たことがあるという生徒は少ない。
 渦巻く青白い魔力の塊であるゲートはどこから見ても同じように見える。

 魔力を感じるせいなのか妙な圧力のようなものを感じるゲートをみんな呆けたように見ていた。

「みんなステータスを開いてみろ」

 イリヤマに言われてみんなステータスを表示させる。
 ステータスは開示しない限りは人に見えないのでみんながちょっとうつむいて虚空を見つめる不思議な状況になる。

「なんだか新しい表示が……」

『ダンジョン階数:一階
 ダンジョン難易度:F+クラス
 最大入場数:50人
 入場条件:レベル20以下
 攻略条件:全てのゴブリンを倒せ』

 職業や能力値が表示されているいつものステータス画面とは別にもう一つ表示されているものがあった。

「ゲートに近づいてステータスを確認するとゲートの情報が確認できる。基本的にはこうした情報を元にして覚醒者は攻略の準備を進めていく」

 ダンジョンに近い状態でステータス画面を開くと同時にゲートの情報も見ることができる。
 ざっくりとした情報で入れる人数やゲートを閉じるための攻略条件を見ることができるのだ。

「ただしゲート情報も信頼しすぎてはいけない。攻略条件に出ているモンスターが見えるか? 今回はゴブリンとなっている。攻略条件をみればゴブリンを倒すことは予想できるがゲートの中にゴブリンだけがいるとは限らない」

 ゲート情報はあくまでも簡易的なものである。
 攻略条件の多くは何かを倒せ、消せなどとなっているのだがゲート情報で書かれているものだけがゲートの中にいるのではない。

 他のモンスターが出たり表示モンスターの上位互換のモンスターが出ることもある。
 そのために書かれている難易度も正面から受け取ってはいけない。

 中に出てくるモンスターを全て相手にした時の難易度ではなく、攻略条件のモンスターを相手にした時のみの攻略難易度だったりもするからだ。
 それでも情報は情報なので覚醒者は与えられるゲート情報を元にして攻略の準備を進める。

「今回は事前に調査してゴブリン以外のモンスターがいないことを確認済みだ。安心しても大丈夫だ」

 もちろん生徒たちに危険な目には遭わせられないので教員たちが事前にゲートに入って調査を行なっている。
 中にはゴブリンしかいないので他のモンスターに襲われる突発的な事故は起きにくい。

「改めて確認しておく。今回出てくるモンスターはゴブリンだ。最初に一体誰かに倒してもらったらそこから5人1組で行動してもらう。最低でも1人1体ゴブリンを倒すように」

 他にも3体以上の群れとは戦わない、怪我人が出たらすぐに逃げて発煙筒で連絡するなど細かな事項が伝えられた。

「先生はゲートの中に入るんですか?」

「もちろんだ」

「ですが入場制限レベル20以下ですよね?」

 ゲートの情報では入るためにはレベル20以下でなければならない。
 アカデミーの教師たちがレベル20以下であるとはとても思えない。

「いい着眼点だ。我々教師陣はこうしたものをつけて中に入る」

 イリヤマが自分の手首を見せた。
 イリヤマの手首にはバングルがつけてあった。

「これは呪いの魔道具だ」

「の、呪い!?」

 生徒たちがざわつく。

「そう危険なものではない。魔道具はプラスの効果をもたらしてくれるが中にはマイナスの効果を持つものもある。能力の低下やスキルの封印、あるいはレベルの制限なんかをもたらすものもある」

 魔道具は魔力が込められた道具でアーティファクトとも呼ばれる。
 有益な効果をものが多く、能力値を補助してくれたり魔力を込めればスキルのような効果を発動するものもある。

 ただ一方で呪いの魔道具と呼ばれるマイナスの効果を持つものもある。
 能力値が下がったり状態異常に苦しんだりといった効果を持っているのだ。

 完全にマイナスな効果だけを持つ魔道具もあるがマイナスもあるけれど大きなプラスの効果を持つ魔道具も存在している。
 マイナスの効果にはレベルを制限してしまうという特殊な効果を持っているものもあった。

 レベルが制限されるとその分能力値は下がるしレベルによって解放されたスキルはそのレベルを下回ると使えなくなってしまう。
 基本的にこうしたマイナスの効果は発動させる必要がない。

 けれども教師たちはそうしたマイナスの効果を逆手に立った。
 レベルを制限したら装備しているとレベルが下がってしまう魔道具を利用して生徒たちとレベル制限のあるゲートに入るのだ。

「私の場合はこれ以外にももう一つ呪いの魔道具をつけている。制限はキツく、スキルは全て使えないが能力値は君たちよりも上だ」

 イリヤマも呪いの魔道具でレベルを下げていた。
 その代わりファーストスキルも含めスキルが全て使えない状態ではあるもののレベルは20相当なので生徒たちも普通に強いのである。

「他に質問がないならバスの中で引いたくじの通りの班に分かれるように」

 行きのバスの中ですでに班を決めるためのくじは引いてあった。

「トモナリ君と一緒だもんね」

 隣に座っていたミズキとはもう同じ班であることは確認してあった。
 他の人は誰だろうと周りを見回す。

「アイゼン君、何番?」

「8番だ」

「じゃあ一緒」

「おっ、サーシャちゃん一緒なんだ!」

 手に班の番号が書かれた小さい紙を持ったサーシャがトモナリに話しかけてきた。
 トモナリの班の番号は8番で、サーシャの手に持った紙に書かれている番号も8であった。