「分かりました」

 このままでは永遠に話が終わらない。
 トモナリは責任を引き受け合う二人のことを止める。

「そんなに言うならフクロウさんにも責任を取ってもらいましょう」

「そんな!」

「なんだ? 何をすればいい? 先生に言ってもいいし……」

「いえいえ、そんなことしませんよ」

 先生にチクるなんてつまらないことするつもりはない。
 せっかくならカードをもう一枚ぐらい手に入れおいてもいいんじゃないかと思った。

「俺はヤマザトさんと賭けをしてました」

「賭け?」

「俺が勝ったらなんでも言うことを聞いてくれるということを条件に戦ったんです」

「そんなことを……」

 タケルはカエデに睨まれてまた小さくなる。

「もちろん勝ったのでヤマザトさんには一度お願いを聞いてもらいますけど……フクロウさんも一度俺のお願い聞いてくれますか?」

「なんだ、そんなことか?」

「いやいや、お嬢!」

「お前にこの会話に混ざる権利はない!」

「ですがオウルグループの令嬢がなんでも言うこと聞くなんてそんな……」

「私は自分の言葉に責任を持つ。こんなことになってしまったのは私の言葉が原因なのだから私もそれを罰として甘んじて受け入れる」

 見た目にはちょっとヤンキーっぽい人なのかなって思ったけど思いの外義理堅い。

「ただ体を差し出せとか言うのなら殺す」

「……そんなことしませんよ」

「ならいい」

「じゃあヤマザトさん一回、フクロウさん一回言うことを聞いてくれるってことでいいですね?」

「ああ、それでいい」

「……必要になったらなんでも言え」

 タケルは渋々といった感じがあってまたカエデに睨まれていた。

「それじゃあ失礼しますね、先輩方。ヒカリ、おいで」

「ほいほい〜」

 飛んだことに巻き込まれたけれど代わりに良いものを得られたとトモナリはヒカリを抱えて上機嫌でその場を後にした。

「……よかったんですか?」

「お前のせいだろう」

「うっ……ですが」

「ふっ、いいのさあれで」

 なんでもなど制限のない約束を取り付けることはただの一般人であるタケルと立場のあるカエデでは違ってくる。
 拒否することもできただろう。

 しかしカエデはトモナリの要求を受け入れた。

「お前に勝つほどのやつなんだろ? ならお近づきになっておいて損はない」

 まだ入学して日が浅い。
 ということは覚醒者としてのレベルも高くないはずである。

 それなのに希少職業でボクシングまでやっているタケルを倒してしまった。
 スカウトしたいと言った時にはただの噂話を聞いた程度なので半ば冗談であった。

 しかし今は違う。
 二年のタケルはレベルが13もある。

 本来ならばトモナリのレベルでは勝てない相手のはずだったのだ。
 とんでもない力を持っている。

 これから成長していけばどこまで強くなるか分からない。
 是非ともスカウトしたい相手であるとカエデは思った。

 ただ今の段階では第一印象が良くない。
 タケルが変に暴走してしまったのでトモナリに悪い印象を抱かれていてもおかしくない。

 ひとつだけなんでもお願いを聞く。
 この条件が重たいか、軽いかはまだ分からないけれどトモナリという才能にいい印象を与えて近づくことができるのならこれぐらいやるべきだとカエデは判断したのだ。

「もうすでにギルドは有望な奴がいないか目を光らせてる。うちが一歩早く愛染に近づけるなら軽いもんさ」

「そこまで期待しているんですか?」

「あいつがどうなるかはまだ分からない。けれど大物になる気配はしているね」

「……そうですか」

「それよりも勝手な真似して……」

「うっ……すいませんでした」

「まあいい。今回はアイゼンと関係が持てたから良しとするよ」

 怒られなくてよかったとホッとタケルは胸を撫で下ろす。

「それにしても」

「なんですか?」

「あの……ヒカリっての可愛いよな」

「あー、そうですか」

 カエデは少し耳を赤くしている。
 クールめな見た目には反してカエデは可愛いものが好きである。

 一方でタケルは噛みつかれた記憶も新しく少し苦い顔をしていた。

「どうやらお菓子あげると少しだけ触らせてくれるらしいですよ」

「なに? そうなのか? ……今度から持って歩くか」

 お嬢の方が可愛いですよ。
 そんなセリフを言ったら殺されるだろうなと思いながらタケルは目を細めていた。