ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした

「先輩なんかしたんですかぁ?」

「なんかってなんだよ?」

「だって先輩のことで驚いたような感じだったじゃないですか」

 ウルマは横目でいぶかしむようにトモナリのことを見ている。

「何もしてないよ」

 トモナリは苦笑いを浮かべる。
 事務の男の態度はトモナリも気になるけれど、特に思い当たるような節もない。

「ふぅーん。でも先輩なら何しててもおかしくないですからね」

「言うほど何かしてるわけでもないんだけどな」

「そうですか? 一年生の間でも先輩は有名ですよ?」

「そうなのか?」

「先輩のファンクラブもあるんですから」

「えっ、それは初耳だな」

 ファンクラブがあると聞いてトモナリは驚く。
 そんなものがあるなんて聞いたことがない。

「メインはヒカリ先輩ですけどね」

「……なるほどな」

「ぬ? 僕なのだ?」

 恥ずかしさもありながら喜んだのも束の間のこと。
 トモナリのファンクラブというよりも、ヒカリのファンクラブだった。

 ヒカリのファンクラブならあっても当然だろうなとトモナリも思うが、ヒカリは嬉しそうにニンマリしている。

「もちろん中には先輩のファンもいますよ。サクも、先輩のファンですよ」

「……ありがと」

 ウルマはニコニコとしているが、ストレートにファンだと言われると流石のトモナリも照れてしまう。

「あっ、着きましたね」

 エレベーターが最上階の十四階に着いた。

「いらっしゃいませ。アイゼントモナリさんとヒカリさん、付き添いのウルマサクラコさんですね。お話は聞いています。お通りください」

 エレベーターのドアが開いて、すぐデスクがあって若い女性が立ち上がって頭を下げる。
 スーツ姿の女性は秘書であり、十四階は天照ギルドのギルドマスターの部屋となっていた。

「来たのね。少し早めの時間を指定したのだけど……ちゃんと時間通りね」

 秘書の女性に見送られて部屋の中に入る。
 広めの部屋には大きなデスクと立派な椅子があり、そこに初老ほどの女性が座っている。

 白髪混じりの黒髪、目尻の小皺なんかから年齢は感じさせるが、綺麗な年の取り方をしているなとトモナリは思った。
 若い頃は相当美人だったことを感じさせる顔立ちをしている。

「私は佐藤クレアよ。天照ギルドの代表になるわ」

 天照ギルドのギルドマスターである佐藤クレアは立ち上がって穏やかな笑みを浮かべた。
 名前からすると純日本人ではなくハーフ。

 そう言われてみれば顔立ちもそれっぽいし、目の縁がやや青っぽく見えるなと思った。

「いきなり呼び立ててごめんなさいね」

「いえ、お会いできて光栄です」

 一見すると綺麗なおばあちゃんにも見えるが、油断してはならない。
 国内でもトップクラスの大型ギルドを立ち上げた人で、これまでも第一線で戦い続けてきた覚醒者なのだ。

「あの人……キトウからあなたのことは聞いているわよ」

 クレアの促しで来客用のソファーに座る。
 秘書がお茶とお菓子を持ってきた。

「学長から?」

 キトウとはキトウマサヨシ、つまりはアカデミーの学長のことである。

「キトウとは共に戦ったことがある戦友なのよ。もちろんアカデミー生はうちにも多いし、話を聞くこともあるのよ」

「そうなんですね」

 昔は今よりも覚醒者の死亡率がはるかに高かった。
 今はやり方が確立され、先人たちの知恵や経験を共有し、アカデミーなどの教育も通じて覚醒者の生存確率は大きく向上したのだ。

 まだ覚醒者の死亡率が高かった時代は今のように中小ギルドも乱立しておらず、国が主導して覚醒者を集めて対応にあたることも多かった。
 その時代を生きた覚醒者は横の繋がりが広い。

 クレアもマサヨシと一緒に戦ったことがある顔見知りだった。
 今は大型ギルドのギルドマスターとアカデミーの学長として連携を取り合う間柄である。

「あのー」

「何かしら?」

 ウルマが控えめに小さく手を上げる。

「先ほど、私たちのこと早い時間に呼んだって」

「ええ、そうよ。あなたたちに会いたくね」

 クレアはトモナリとヒカリを見る。
 他の子がいないなとは思っていたし、時間的にも早いなとも感じていた。

 一応自分で研修先まで行くので、ほかの子と会わなくても不思議なことはない。
 ただそれにしては早いと言われたり、会わなかった。

 だが早かったのはトモナリが少し早めに来たからというだけの話ではなかったのだ。
 クレアがトモナリたちにだけ少し早い時間を伝えていたのである。

 理由は簡単で、クレアがこうして話す時間を作りたかったからだった。

「お年寄りのわがままに付き合わせて、ごめんなさいね」

「あ、いえ、そんな」

 クレアの冗談にウルマが慌てる。
 ちょっと人を翻弄するところがあるウルマも年の功には敵わない。

「交流戦の様子も観ていたわ。日本に天才が現れたとあれほど期待したことはない……」

「そんなふうに言っていただけてありがとうございます」

「変な喧騒もなければ驕りもないのね」

「僕も頑張ったのだ!」

「ふふ、ヒカリちゃんもすごかったわね」

「えっへんなのだ!」

 ヒカリは嬉しそうに胸を張る。
 確かに交流戦ではヒカリも大活躍だった。

 トモナリの命を救うほどに頑張ってくれた。