「ウルマサクラコさんはいますか?」

 みんなの投票で誰をスカウトするのか決まった。
 本来は二年生がスカウトにあたるのだけど、少しだけ問題があってウルマのスカウトにトモナリが動いた。

 アカデミーの歴史の中でも最強の先輩がいる。
 そんな噂が一年生でも広まっている。

 黒いドラゴンを連れた三年生はアカデミーどころか、同年代なら世界一とまで言われていた。
 正確には世界一は決まっていない。

 とんだ乱入者のせいで戦いの決着はお預けとなってしまってしまい、同時優勝扱いになったのだった。
 負けるつもりはなかったので、世界一と言っても差し支えはない。

 ヒカリは素直に一番なのだ、と喜んでいた。
 そんな黒いドラゴンを連れたトモナリが教室を覗き込んで、一年生たちがザワッとなる。

「えーと……」

 トモナリは教室を見回す。
 この二、三年で身長も伸びた。

 鍛えているから体格的にもがっしりしているし、二年もの差がある一年生から見たらだいぶ大人びて見えた。

「せーんぱい!」

 ウルマの顔は知っている。
 教室にはいなさそうだと思っていたら後ろから声をかけられた。

 振り返るとそこにやや小柄な明るい茶髪の少女が手を後ろで組んで、トモナリの顔を見上げていた。
 高めの甘ったるい声をしていてトモナリは少し驚く。

 回帰前はあまり関わったことがないので、特に強いイメージもなかった。
 それでも回帰前の強さなんかから勝手な先入観があった。

「君がウルマサクラコさん?」

「そうです!」

 ウルマはニッコリとした笑顔を浮かべる。
 想像よりもはるかに可愛い声をしている。

 アイドルっぽいとでも言うのだろうかとトモナリは思った。
 思っていたよりも背が低い。

 髪はツインテールにまとめられていて、見た目も可愛い感じにしてある。
 入学時の写真は髪を下ろして真剣な表情だった。

 だいぶ思っていた感じとは違って、正直面食らってしまう。

「まさか先輩が会いに来てくれるなんてサク、嬉しいです!」

「サク……」

「サクラコなんで、サクです。名前嫌いじゃないけど、ちょっと古い感じがあるじゃないですか? だから可愛らしく!」

 ウルマは自分のことを名前を短く区切ったあだ名で呼ぶ。
 これまでトモナリの周りにはあまりいなかったタイプの子である。

「それに君が俺のことを呼んだんだろ?」

「先輩に会ってみたくて」

 トモナリがウルマをスカウトに来たのは、ウルマから指名があったからだった。
 ハルカとナナでスカウトに行ったのだけど、トモナリが来てくれるなら話を聞いてもいいと二人は追い返されてしまったのだ。

「ふぅーん……」

 ウルマはジロジロとトモナリのことを見る。
 頭から足まで観察するように見られて、トモナリは苦笑いを浮かべる。

 ウルマが何を望むのかトモナリには予想もつかない。
 はっきりと断らなかったので、課外活動部に入ってくれるチャンスはあるのだろう。

「思ってたよりもカッコいいですね。ドラゴンちゃんも」

 観察タイムの後、ウルマはニッコリと笑顔を浮かべた。
 顔は割と可愛いタイプで、声や雰囲気も全体としてしっかり方向性が統一されている。

「先輩はぁ……私に入ってほしいですか?」

「もちろん。だからこうしてスカウトに来てる」

「ぬぬ……僕はあんまり気に入らないのだ」

 明らかにトモナリに色目を使っている。
 ヒカリはそれが気に入らなくて険しい顔をしている。

 だがトモナリとしては課外活動部に入ってくれるならなんだろうと構わない。
 王職たる職業の生徒が早く強くなってくれるなら、これからの戦いにおいてありがたい。

「せーんぱいは彼女さんとかいるんですか?」

「いないけど……」

「僕がいるのだ!」

「そうだな。パートナーがいるよ」

 ヒカリがトモナリの頭に抱きつく。
 恋人ではないが、ずっと一緒にいる家族みたいなものだ。

「ふぅーん……」

 ウルマがヒカリに視線を向けて、ヒカリは目を細めるようにウルマのことを睨む。

「まあ、いいですよ」

 ウルマが笑顔を浮かべて、ヒカリからトモナリに視線を移す。

「先輩がこの私を欲しいというのなら……入ってあげますよ」

 ウルマは一歩前に出る。
 まるで触れ合いそうな距離に近づいて、下からトモナリを見上げる。

 その瞳は好奇心に輝いていた。
 昔聞いた言葉をトモナリは思い出す。

 『王職持ちの連中は性格も王様……一筋縄じゃいかない奴が多い』

 カエデと一緒にいるヤマザトも拳王という王職だ。
 一見すると特に性格に難はなさそうに見えるが、それはカエデが絡まないことに限る。

 カエデが絡むと途端にヤマザトはバカになる。
 トモナリに突っかかってきたこともそうだった。

 王様らしくないとも言えるが、ある種カエデは王の寵愛を受けているとも言える。
 ウルマもなんだか普通の女の子ではなさそうだとトモナリは感じた。

 覚醒者として第一線で活躍し続ける人は、大体一癖、二癖あるものだからそんなに気にすることもないとトモナリは思う。

「ぬぅー!」

「ウフッ、可愛い」

 ヒカリはウルマのことが気に入らないようだ。
 だけどウルマの方はヒカリに睨まれても全く気にしていない。

「入部届ください」

「ああ、これからよろしくな」

「僕は嫌なのだ!」