「言ってくれればいいのに」

「気づかないトモナリ君が悪い」

「悪かったよ」

 回帰前に知っている顔を探していて今の知り合いがいるだなんて全く思いもしなかった。

「まあいいわ。知り合いがいるだけ心強いもんね、気づいてくれなかったけど」

「だから悪かったって。それにしてもミズキもいたとはな」

「私もあの時覚醒したからね。剣豪、なんていい職業だったしせっかくなら行ってこいっておじいちゃんが」

 よくよく考えてみれば当然かとトモナリは思った。
 未来で剣姫と呼ばれるほどの存在になるミズキがアカデミーに通っていたとしても不思議なことはない。

 もしかしたらトモナリが関わらないでいても廃校のゲートでミズキは覚醒していた可能性があると今更ながら思った。
 職業剣豪も希少な職業になる。

 さすがは剣姫である。

「あ、あの!」

「ん? なんだ?」

 意を決したようにトモナリの隣の席の女の子が声をかけてきた。

「その子、なんだっけ、ヒカリ……ちゃんだっけ? あの……触ってもいい?」

 ミズキがトモナリとヒカリと話しているのを見て安全そうであると周りの子も思った。
 隣の子は勇気を出してみたのだ。

「だってさヒカリ」

「ダメだぞ!」

「そ、そっかぁ……」

 触る云々はトモナリよりもヒカリの意思次第である。
 トモナリが聞いてみると胸を張ったヒカリはバッサリと拒否をした。

「ただし、お菓子くれるならちょっとだけはいいぞ」

 しょんぼりとうなだれた女の子にヒカリは器の大きさをみせる。
 お菓子でいいとは随分と安売り、というか大盤振る舞いである。

 先日マサヨシのところで色々食べたお菓子がよほど美味しかったらしい。

「お、お菓子? えっと……今は持ってないなぁ」

「じゃあダメだな!」

「くぅ……こ、今度持ってくるよ!」

「あっ、私持ってるよ!」

 こんな時にお菓子なんか持っていない。
 明日は用意しておこうなんて女の子が思っていると斜めに座っている女の子も会話に入ってきた。

「むっ、なんのお菓子だ?」

「えっと、チョコレートだけど……」

「ん!」

「……お納めください」

「撫でてよし!」

 カバンから取り出された板チョコに手を伸ばすヒカリ。
 女の子が少し笑いながらチョコを渡すとヒカリが笑顔で少しだけ頭を傾ける。

「ただちょっとだけだぞ!」

「やった!」
 
「う、羨ましい!」

「なんかすべすべしてる!」

 女の子が恐る恐る手を伸ばしてヒカリを撫でる。
 その間にヒカリは包みを開いてチョコをパクリとしていた。

「もう終わりだ!」

「うっ、はい」

 ヒカリが馴染めるかどうか心配であったけれど若者の適応力というのは素晴らしい。
 ヒカリの性格も明るいので思っていたよりも簡単に馴染めそうであった。

「もちろんトモナリは撫で放題だからな」

「ありがとう」

「ふへへ」

 トモナリがヒカリを撫でてやるとヒカリはヘラリと笑う。

「か、可愛いな……」

 女子だけでなく男子もヒカリを見ている。
 もしかしたらしばらくヒカリにお菓子を捧げるようなことが続くかもしれないとトモナリは思った。

「ちょこ、も美味いな!」

「ほら、口の端についてるぞ」

 ハンカチでヒカリの口の端を拭いてやる。
 尻尾を振りながらトモナリに口の端を拭かれるヒカリは教室中の視線を集めていたのであった。