「はぁー! 長かったな!」
「せめて観光できたならね。ホテルに缶詰だったもんねぇ」
予想外の出来事のせいで、想定よりも長くドイツに留まることになった。
セイクリッズを始めとした覚醒者たちの尽力で、脱獄騒動もようやく収まりを見せてきた。
多くの脱獄犯が捕まり、国内で起きた犯罪事件も沈静化しつつある。
いつまでも出入国を封鎖しておくわけにもいかず、一部の国際空港もかなり警戒しながら運行を再開した。
ただ脱獄事件のせいで他にも多くの事件が発生した。
トモナリたちはギリギリのところで無事だったものの、脱獄犯によって被害を受けたところも多い。
いまだに捕まっていない脱獄犯もいる。
中でも大きな事件はセイクリッズのNo.1と呼ばれるラファエル・アロンが遺体で発見されたことだった。
ヨーロッパにおける正義の象徴であり、セイクリッズの中でも一番強いとされているラファエルが死んだことの衝撃はとても大きい。
それでもトモナリたちも日本に帰れることになった。
ドイツ国内に留まることもリスクになるので、学生覚醒者たちは優先して出国できるように配慮してもらえた。
「安心安全なところでゆっくり寝たいものだね……」
コウは深いため息をついた。
一応安全は確保されているものの、何かがあればホテルすらも安全とは言い切れない。
何かを心配していたのも最初のうちで、そのうち普通に寝れるようになったけれども、やはり自分の家が恋しくなる。
「しばらくヨーロッパは勘弁だな」
「どの道、しばらく渡航は禁止されそうだけどね」
完全に事件が収まるまで、ヨーロッパに行くのは難しいだろう。
「脱獄を引き起こしたのも……あいつらなんだろ?」
「報道ではそうだな」
「犯行声明も出てるって聞いたけど」
「実際どうなのかは……俺にも分かんないよ」
脱獄は中の犯罪者たちが引き起こしたものではなかった。
終末教がネット上で自分たちがやったものだと声明を出したのだ。
だが重警備の刑務所を襲撃するなんてことをやってのけたのが、終末教だとしたら納得もできる。
いまだに捕まっていない一部脱獄犯の行方も終末教が関わっているのだとしたら、見つからなくてもおかしくない。
「まあちょっとした良いこともあったしな」
トモナリは視線を落とす。
ヒカリはトモナリに抱えられて羊羹を丸々一本かじっている。
命の危機に晒されて、ヒカリがでっかくなった。
今回の事件における唯一の良かったところかもしれない。
ただトモナリも、もうあんな事件はこりごりだなと思う。
「こっちだって忙しいのにな……」
もうトモナリたちは三年生になる。
卒業後のこともしっかり考えねばならない。
トモナリはさらにその先の世界のことまで考えて動かねばいけないのだ。
「ふぅ……」
「大丈夫なのだ?」
「ああ、大丈夫だよ」
思わずため息が漏れてしまう。
終末教との決着もどこかでつけねばならないのだろう。
やらなきゃいけないことは多い。
少しずつでも片付けて、前に進み、そして世界を救う。
「大変だな……」
「何が大変なのかは分からないけどトモナリなら大丈夫なのだ! 僕もそばにいるのだ!」
「……そうだな」
ともかく、前には進んでいこう。
まだまだ自分が弱いことも分かったし、これからもっと強くなれることも分かった。
知らない出来事にも対応できるように力をつけていこう。
「搭乗手続き、始まるみたいだぜ」
「よし、帰るか。なんか生魚でも食べたいな」
「お寿司なのだ!」
「いいかもな」
トモナリは立ち上がる。
まだ、トモナリとヒカリの道は途中なのである。
ーーー第七章完結ーーー
「せめて観光できたならね。ホテルに缶詰だったもんねぇ」
予想外の出来事のせいで、想定よりも長くドイツに留まることになった。
セイクリッズを始めとした覚醒者たちの尽力で、脱獄騒動もようやく収まりを見せてきた。
多くの脱獄犯が捕まり、国内で起きた犯罪事件も沈静化しつつある。
いつまでも出入国を封鎖しておくわけにもいかず、一部の国際空港もかなり警戒しながら運行を再開した。
ただ脱獄事件のせいで他にも多くの事件が発生した。
トモナリたちはギリギリのところで無事だったものの、脱獄犯によって被害を受けたところも多い。
いまだに捕まっていない脱獄犯もいる。
中でも大きな事件はセイクリッズのNo.1と呼ばれるラファエル・アロンが遺体で発見されたことだった。
ヨーロッパにおける正義の象徴であり、セイクリッズの中でも一番強いとされているラファエルが死んだことの衝撃はとても大きい。
それでもトモナリたちも日本に帰れることになった。
ドイツ国内に留まることもリスクになるので、学生覚醒者たちは優先して出国できるように配慮してもらえた。
「安心安全なところでゆっくり寝たいものだね……」
コウは深いため息をついた。
一応安全は確保されているものの、何かがあればホテルすらも安全とは言い切れない。
何かを心配していたのも最初のうちで、そのうち普通に寝れるようになったけれども、やはり自分の家が恋しくなる。
「しばらくヨーロッパは勘弁だな」
「どの道、しばらく渡航は禁止されそうだけどね」
完全に事件が収まるまで、ヨーロッパに行くのは難しいだろう。
「脱獄を引き起こしたのも……あいつらなんだろ?」
「報道ではそうだな」
「犯行声明も出てるって聞いたけど」
「実際どうなのかは……俺にも分かんないよ」
脱獄は中の犯罪者たちが引き起こしたものではなかった。
終末教がネット上で自分たちがやったものだと声明を出したのだ。
だが重警備の刑務所を襲撃するなんてことをやってのけたのが、終末教だとしたら納得もできる。
いまだに捕まっていない一部脱獄犯の行方も終末教が関わっているのだとしたら、見つからなくてもおかしくない。
「まあちょっとした良いこともあったしな」
トモナリは視線を落とす。
ヒカリはトモナリに抱えられて羊羹を丸々一本かじっている。
命の危機に晒されて、ヒカリがでっかくなった。
今回の事件における唯一の良かったところかもしれない。
ただトモナリも、もうあんな事件はこりごりだなと思う。
「こっちだって忙しいのにな……」
もうトモナリたちは三年生になる。
卒業後のこともしっかり考えねばならない。
トモナリはさらにその先の世界のことまで考えて動かねばいけないのだ。
「ふぅ……」
「大丈夫なのだ?」
「ああ、大丈夫だよ」
思わずため息が漏れてしまう。
終末教との決着もどこかでつけねばならないのだろう。
やらなきゃいけないことは多い。
少しずつでも片付けて、前に進み、そして世界を救う。
「大変だな……」
「何が大変なのかは分からないけどトモナリなら大丈夫なのだ! 僕もそばにいるのだ!」
「……そうだな」
ともかく、前には進んでいこう。
まだまだ自分が弱いことも分かったし、これからもっと強くなれることも分かった。
知らない出来事にも対応できるように力をつけていこう。
「搭乗手続き、始まるみたいだぜ」
「よし、帰るか。なんか生魚でも食べたいな」
「お寿司なのだ!」
「いいかもな」
トモナリは立ち上がる。
まだ、トモナリとヒカリの道は途中なのである。
ーーー第七章完結ーーー

