「‘出てこい!’」

「ユウト、ミズキの方にも出るように連絡を」

「了解」

 ユウトが無線でミズキに指示を出す。

「‘早く出てこないとこいつのことを……’」

「‘待て!’」

 トモナリたちはエバーソンの要求通りに姿を現した。
 路地の逆側からはミズキたちも出てくる。

「‘なんだ? ガキだと?’」

 エバーソンはトモナリたちを見て少し驚いた顔をする。
 まさか自分をつけていた相手が子供だとは思いもしなかった。

 トモナリたちもガキと呼ばれるような年齢でもないのだけど、エバーソンから見れば東洋人の年齢などわからない。

「‘その人を放して、投降するんだ’」

 エバーソンはパーカーを着て、フードを深く被った少年を人質に取っている。
 トモナリが相手を刺激しないように投降の説得を試みる。

 人質は取られてしまったが、路地はトモナリたちが封鎖する形にはなっている。
 このまま逃げおおせるのが難しいことは馬鹿でも分かるはずだ。

「‘そーはいかねぇな!’」

 エバーソンは思わずニヤリと笑う。
 よほど余裕がないのだなと内心でほくそ笑んでいる。

 こんなガキを動員せねばならないなんて、と少し前まで抱えていた焦る気持ちもどこかに行ってしまった。

「‘お前らこそ下がれ! こいつの命がどうなってもいいのか?’」

 ガキにまともな対応ができるはずもない。
 ここさえ乗り切ってしまえばいいと、エバーソンは人質にナイフを突きつけてジリジリとトモナリに迫る。

「‘どうしても投降するつもりはないんだな?’」

「‘はん! お前らみたいなガキが出しゃばってんじゃねえよ!’」

「マコト、作戦通りに」

「‘あっ? 急に何言って……いっ!?’」

 トモナリが日本語で発した言葉にエバーソンは眉をひそめる。
 次の瞬間、エバーソンは足に鋭い痛みを感じた。

 視線を下げると足にナイフが突き刺されている。
 刺したのは人質としていた少年だった。

 エバーソンの手にはしっかりとナイフが握られている。
 つまり人質がどこからかナイフを取り出して、足に刺したということになる。

「‘この……! なっ!? 消えた……!’」

 一瞬で頭に血が昇って、人質の首をナイフで掻っ切ろうとした。
 けれど人質がパッと目の前から消えて、エバーソンは驚愕してしまう。

 幻だったのかと思うが、ナイフを刺された足の傷はちゃんと残っている。

「今だ!」

「いくぜ!」

「残念だったね!」

 ユウトとミズキがトモナリの指示に従ってエバーソンに襲いかかる。

「‘くそっ! なんだったんだ!’」

「……どっかから盗んできたんだな」

 エバーソンはインベントリから武器を取り出した。
 持ち手が木製の古そうな斧。

 どう見ても覚醒者用の装備ではない。
 おそらくどこかの農場みたいなところから盗んだのかもしれないとトモナリは思った。

「よっと」

「お疲れ様」

「うん……よかった。上手くいって」

 トモナリの影からマコトが飛び出してきた。
 パーカー姿のマコトはフードを下ろすと苦い顔をして首をさする。

 実はエバーソンが人質にしていたのは、マコトなのであった。
 エバーソンが尾行に気づくかもしれない。

 そして人質を取るかもしれない、ということは予想ができていた。
 リスクをリスクのままに放置しておくことはできない。

 だからトモナリたちは一つ策を講じていた。
 エバーソンの近くにそれとなくマコトを配置していた。

 フードを深く被ったやや小柄な体型のマコトは、周りにいたら狙われやすい。
 エバーソンが尾行に気づいて、人質をとったことはトモナリたちに取って予想済みの行動だった。

 そして上手くマコトを人質にしてしまった。
 あとは単純である。

 説得に応じないなら倒すしかない。
 マコトが一撃を加えて、影に紛れて脱出すればこちらは先手を取れるという寸法である。

「‘うっ! くそっ!’」

 ユウトとミズキ、さらにはサーシャとコウにヒカリまで加わってエバーソンと戦っている。
 レベルの割に動きは良くない。

 ステータスの伸びはあまり良くない方なのかもしれない。
 それに装備も悪い。

 もちろん防具はなく、手にしているのは斧だけど木でも切るただの斧である。
 足の怪我も意外とエバーソンにとって重たい。

 エバーソンはそのままみんなで慎重に戦って、ヒカリの体当たりが頭に直撃して倒されたのであった。

「わっはっはっー! 正義は必ず勝つのだ!」

 エバーソンは拘束され、警察に引き渡された。
 警察からはいたく感謝され、トモナリたちはホテルでようやく休むことができたのである。