「あいつらは死んだけどな……」
ユウトが複雑そうな表情で頭を掻く。
ドゥウェルとジェームズの方は無事に片付いていた。
片腕を失ったドゥウェルはオードリーに倒された。
全てのスキルを動員したドゥウェルは片腕でも災害のような強さを誇っていたが、流石に片腕では全力の力を出しきれない。
それでも強靭な肉体を持つドゥウェルは簡単には相手に屈服することをよしとせず、オードリーは生かしての制圧を諦めたのだった。
肉体的な能力でいえばドゥウェルには敵わないジェームズであるが、暴れっぷりはドゥウェルよりも遥かに上回っていた。
ケニックだけではなく、ドゥウェルを倒して合流したオードリーまで同時に相手取って戦ったのである。
スタジアムは半壊。
観客の避難は終わっていたから良かったものの、一つの象徴ともなる場所が破壊されてしまった。
ジェームズも降参することはなく、最後にはケニックに首を切り落とされてスタジアム占拠事件は幕を閉じた。
「だけど被害は大きいですね」
「僕たちも観客席にいたら危なかったかもしれないね……」
スタジアムそのものの被害もあるが、セイクリッズ到着までに起きた爆発で多くの人が被害を受けた。
死傷者の数も多く、大きな悲しみも広がっている。
特定のターゲットを攻撃したわけではなく、無差別に爆破していた。
観客席にいたらみんなだって巻き込まれていた可能性は大いにあったのだ。
「帰れもしなくちゃったしね」
ミズキが深いため息をつく。
トモナリとヒカリ以外の日本勢は無事だったが、ドイツ全体はいまだに大きな混乱の中にある。
都心部に行けば車が動いて人が働いていたりするけれど、国全体に非常事態宣言が出されている。
国境は封鎖され、都市間を移動するような公共交通機関も麻痺していた。
海外逃亡の恐れがあるために空港も完全に封鎖されている。
そんなんだから飛行機も飛んでいない。
同じような理由で港なんかも機能を停止している。
今そんなところに向かえば、疑われて拘束されてもおかしくないレベルなのだ。
事件が収まるまでは出国もできない。
「ここだって安全かどうかも分からないもんね」
ホテルや病院にいれば安心なんてこともない。
刑務所から逃げ出した多くの犯罪者たちがいまだに野放しであり、いつどこで暴れるのか予想もできないのである。
「去年もそうだけど、なーんでこんな事件に巻き込まれるかな」
「ねー。去年は騒動の時、もっと直接的にピンチだったけど」
今年は脱獄した犯罪者の襲撃で、狙いは不特定多数の人質だ。
去年は終末教の襲撃で、狙いは集まった学生覚醒者たちだった。
直接狙われていた分、抵抗して戦ったし危険は大きい。
どちらがいいなんてこともないが、危ないことに変わりはない。
「でもよ……」
「でも?」
「去年のこと……思い出しちゃうよな」
「去年のなんだよ?」
「事件が起きて、その後なんか変な話の流れになって終末教と戦うことになったじゃん? なんかそん時みたいな雰囲気あるなって」
「ユウト、そういうのは思っても言うもんじゃないぞ」
ユウトの言葉に場が少し凍りつく。
去年の戦いも最初は襲撃されたものだったが、次の戦いはこちらから仕掛けたものだった。
その時とは相手も状況も違うのに、なんとなく嫌な予感がする。
ユウト一人が感じるならともかく、みんなもうっすらと同じように感じていた。
こういうものは口に出していってしまうとなぜか実現することがある。
いわゆるフラグというやつだ。
「……ないよな?」
「分からん」
どれだけの犯罪者が出たのか細かな数字までは分かっていない。
脱獄した犯罪者たちに刺激されて他の犯罪も今は活発になってしまっている。
明らかに人手が足りていない。
協力してくれと言われる可能性も否定できるものではない。
「あーあ、ユウトのせいだ」
「ま、まだなんも起きてないだろ!?」
そしてこんな会話をした次の日、トモナリたちはドイツの覚醒者協会に呼ばれることになるのだった。
ユウトが複雑そうな表情で頭を掻く。
ドゥウェルとジェームズの方は無事に片付いていた。
片腕を失ったドゥウェルはオードリーに倒された。
全てのスキルを動員したドゥウェルは片腕でも災害のような強さを誇っていたが、流石に片腕では全力の力を出しきれない。
それでも強靭な肉体を持つドゥウェルは簡単には相手に屈服することをよしとせず、オードリーは生かしての制圧を諦めたのだった。
肉体的な能力でいえばドゥウェルには敵わないジェームズであるが、暴れっぷりはドゥウェルよりも遥かに上回っていた。
ケニックだけではなく、ドゥウェルを倒して合流したオードリーまで同時に相手取って戦ったのである。
スタジアムは半壊。
観客の避難は終わっていたから良かったものの、一つの象徴ともなる場所が破壊されてしまった。
ジェームズも降参することはなく、最後にはケニックに首を切り落とされてスタジアム占拠事件は幕を閉じた。
「だけど被害は大きいですね」
「僕たちも観客席にいたら危なかったかもしれないね……」
スタジアムそのものの被害もあるが、セイクリッズ到着までに起きた爆発で多くの人が被害を受けた。
死傷者の数も多く、大きな悲しみも広がっている。
特定のターゲットを攻撃したわけではなく、無差別に爆破していた。
観客席にいたらみんなだって巻き込まれていた可能性は大いにあったのだ。
「帰れもしなくちゃったしね」
ミズキが深いため息をつく。
トモナリとヒカリ以外の日本勢は無事だったが、ドイツ全体はいまだに大きな混乱の中にある。
都心部に行けば車が動いて人が働いていたりするけれど、国全体に非常事態宣言が出されている。
国境は封鎖され、都市間を移動するような公共交通機関も麻痺していた。
海外逃亡の恐れがあるために空港も完全に封鎖されている。
そんなんだから飛行機も飛んでいない。
同じような理由で港なんかも機能を停止している。
今そんなところに向かえば、疑われて拘束されてもおかしくないレベルなのだ。
事件が収まるまでは出国もできない。
「ここだって安全かどうかも分からないもんね」
ホテルや病院にいれば安心なんてこともない。
刑務所から逃げ出した多くの犯罪者たちがいまだに野放しであり、いつどこで暴れるのか予想もできないのである。
「去年もそうだけど、なーんでこんな事件に巻き込まれるかな」
「ねー。去年は騒動の時、もっと直接的にピンチだったけど」
今年は脱獄した犯罪者の襲撃で、狙いは不特定多数の人質だ。
去年は終末教の襲撃で、狙いは集まった学生覚醒者たちだった。
直接狙われていた分、抵抗して戦ったし危険は大きい。
どちらがいいなんてこともないが、危ないことに変わりはない。
「でもよ……」
「でも?」
「去年のこと……思い出しちゃうよな」
「去年のなんだよ?」
「事件が起きて、その後なんか変な話の流れになって終末教と戦うことになったじゃん? なんかそん時みたいな雰囲気あるなって」
「ユウト、そういうのは思っても言うもんじゃないぞ」
ユウトの言葉に場が少し凍りつく。
去年の戦いも最初は襲撃されたものだったが、次の戦いはこちらから仕掛けたものだった。
その時とは相手も状況も違うのに、なんとなく嫌な予感がする。
ユウト一人が感じるならともかく、みんなもうっすらと同じように感じていた。
こういうものは口に出していってしまうとなぜか実現することがある。
いわゆるフラグというやつだ。
「……ないよな?」
「分からん」
どれだけの犯罪者が出たのか細かな数字までは分かっていない。
脱獄した犯罪者たちに刺激されて他の犯罪も今は活発になってしまっている。
明らかに人手が足りていない。
協力してくれと言われる可能性も否定できるものではない。
「あーあ、ユウトのせいだ」
「ま、まだなんも起きてないだろ!?」
そしてこんな会話をした次の日、トモナリたちはドイツの覚醒者協会に呼ばれることになるのだった。

