ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした

「くそっ!」

 トモナリはドゥウェルの拳をかわし、反対にドゥウェルのアゴに一撃を叩き込む。

「‘くふふ……お前は面白いな’」

 殴られてもドゥウェルは少しも押されることがない。
 ダメージを受けた様子もなく、ただただ楽しそう。

「‘まだまだ遊ぼうぜ!’」

「くっ……」

 だんだんとトモナリは追い詰められていた。
 ドラゴンズコネクトの姿を維持しているだけでも魔力は消費する。

 さらに一殴りごとにエドが損傷を受けて、それでもまた魔力が消耗するのだ。
 エドを維持している時間も長く、トモナリの中で限界が近づいているのを感じていた。

 対してドゥウェルの攻撃は激しさを増す一方だ。
 いつの間にか弱点看破も何も見えなくなっている。

 つまり今のドゥウェルには弱点となるようなところがないのだ。

「‘はあっ!’」

「まずっ……」

 ドゥウェルが足に魔力を込めて、床を踏みつける。
 ステージに大きなヒビが走り、トモナリはバランスを崩す。

「‘お前の頑丈さはどうかな?’」

「‘アイゼン君!’」

 気づいたら目の前にドゥウェルの拳が迫っていた。
 まともに受けてはいけない。

 トモナリはとっさに腕をクロスさせてガードした。

「トモナリっ!」

 ガードは間に合ったものの、ドゥウェルにまともに殴られた。
 トモナリは弾丸のように飛んでいって壁に叩きつけられた。

「かはっ……」

 一瞬で世界が消し飛んだような衝撃があった。
 殴られたと思った瞬間には、視界に映るものが高速で飛んでいった。

 実際には自分が飛んでいったのだけど、そう認知する前にトモナリは腕の痛みと背中を壁に叩きつけられた衝撃を感じていた。
 ドラゴンズコネクトが解除され、視界がぼやける。

 体のどこが痛いのか分からなくなり、すごく遠くでヒカリの声が聞こえているような気がした。

「‘ふむ、これで終わりか。いや、その年ならまだレベルは低い。それでならよくやった方だな’」

 倒れなかっただけ素晴らしいとドゥウェルは思った。
 ドゥウェルがズンズンとトモナリに迫って、観客席がざわつく。

「‘だが残念だったな’」

 ドゥウェルが魔力を込めた拳を振り上げる。

「‘ガハハっ! 今楽に……’」

「やめろー!」

「‘なっ!? なんだコイツ!’」

「トモナリに、手を出すなー!」

 トモナリのピンチにもはや我慢ができなかった。
 涙目になったヒカリがドゥウェルに飛びかかった。

 顔面に張り付いて爪で引っ掻く。
 ヒカリの爪でもドゥウェルに傷がつくことはないけれど、ガリガリとされる不快感がある。

「ヒカリ……」

「ぬぐー!」

「‘この……!’」

「ふぎゃっ!」

 気分が良さそうだったドゥウェルはまた一瞬で怒りの表情を浮かべると、ヒカリのことを鷲掴みにして引き剥がす。
 そしてそのままボールのように投げて壁に叩きつける。

 観客席から悲鳴のような声が上がる。

「ヒカリ……コイツ……」

 ようやくボヤけた視界が元に戻ってきたトモナリだったが、体はダメージで痺れて動かない。
 自分を守ってくれようとしたヒカリがやられて、トモナリも怒りを抱える。

 トモナリはヒカリと繋がっている。
 その感覚ではまだ死んではいない。

「‘……なんだその目は?’」

 怒りで睨みつけるトモナリの視線を、ドゥウェルは気に入らなかった。

「‘自分が弱いくせに、俺にそんな目をするのか?’」

「ゔっ……」

 ドゥウェルはトモナリの首を掴んで持ち上げる。

「‘お前が強ければこんなことにはならない。強いやつこそが正義……強いやつが全てを支配するんだよ!’」

「トモナリ……」

 壁に叩きつけられ、床に倒れたヒカリはトモナリに向かって手を伸ばす。

「僕は……なんて、無力なのだ……」

 悔しくてヒカリの目から涙が溢れる。
 守りたい時に守りたいものを守れない。

「‘このまま首をへし折ってやる’」

「やめ……ろ」

 トモナリはドゥウェルに対してわずかな抵抗を見せることしかできない。

「やめるのだ……トモナリに手を出すななのだー!」

 もっと力があれば。
 そんな思いで叫んだヒカリの体が輝き出した。