「トモナリ……」

「俺なら大丈夫だから」

 トモナリが撫でてやるけれど、ヒカリは心配そうな目をしている。

「……弱点看破」

 軽く体でも伸ばすフリをしながらトモナリはドゥウェルに目を向ける。

「‘カハハッ! いつでも来るといい!’」

 先ほどまで不機嫌だったのに、トモナリが挑んできそうなのを見てすっかり上機嫌だ。

「見えた……」

「‘おっ?’」

 油断しているせいだろうか、弱点看破でも弱点だらけだ。
 トモナリはなんてことはないように歩いてドゥウェルに近づく。

 いまだにドゥウェルの弱点に変化はない。
 トモナリが近づいてきても警戒していないということである。

「怪力、魔力物質構成」

 トモナリは拳を握りしめて、腕全体を魔力物質構成で覆って保護する。
 腕を引き、力を溜める。

「‘ふっ、きてみろ!’」

 それでもドゥウェルは余裕の態度を崩さない。

「受けてみろ……!」

 狙うは弱点看破で光っているように見えるアゴ。

「これが……俺の全力だ!」

 大きく足を踏み出し、トモナリはドゥウェルのことを殴りつけた。

「‘なっ……’」

 アゴを殴りつけられ、一瞬ドゥウェルの顔が大きく歪んだのをエリオットは見た。
 あんな力で自分が殴られたら首がちぎれてもおかしくないほどの一撃だと、エリオットはヒヤリとする思いがした。

 ドゥウェルは殴られてぶっ飛んでいく。
 押したって動かなそうな巨体のドゥウェルは、観客席下の壁に激突してようやく止まった。

「……うっ……ギリギリだな……」

 殴りつけた方のトモナリも顔をしかめている。
 防御重視のスタイル、魔力物質構成で腕を保護していても怪力の全力を受け止めるにはやや力不足だった。

 最初に使った時のように腕が壊れるようなことはなかったが、ジーンとした痛みがある。

「けど……これで……」

 壁は崩れてドゥウェルの姿は見えなくなった。
 一人倒せたならかなり大きい。

 トモナリの全力の一撃を食らって無事でいられるはずがない。
 流石のジェームズも驚いた顔をしている。

「‘アイゼン君!’」

「‘ガッハッハッ! やるな、小僧!’」

 爆発音にも近い音を立てながらドゥウェルががれきの中から飛び出してきた。

「くっ……!」

 危険を察したトモナリは体を逸らす。
 ドゥウェルがトモナリに向かって拳を振るう。

 拳だとは思えないような轟音を立てて繰り出された一撃をギリギリ回避できたが、拳がエドのコートをかすめて裂ける。
 これまでどんな攻撃を受けても破損することもなかったエドが破壊された。

 流石のトモナリも化け物だと思わざるを得ない。

「‘こんなダメージを受けたのは久々だ’」

 ドゥウェルは鼻血を親指で拭って笑う。
 子供のように楽しそうな顔をしている。

「‘ペッ!’」

 口をモゴモゴとさせて吐き出した血の中には歯が混じっていた。

「‘舐めていたよ。ガキの一撃なぞ大したことはないとな。だがお前の一撃は効いたぜ’」

 全力の一撃だったのに倒せなかった。
 倒せないのなら効いたと言われても嬉しくはない。

 むしろ相手に火をつけてしまった。
 おそらく能力値としてドゥウェルは力の値が高い。

 肉体で戦う覚醒者としては最高峰の能力を誇るだろう。
 同時に肉体的な強度や防御力にも関わってくる体力の値も高い。

 ドラゴンズコネクトを使い、怪力で能力を引き上げたトモナリの瞬間的な力は、全ての覚醒者の中でも上位に入るぐらいだった。
 しかしそれよりもドゥウェルの素の体力の方がトモナリを上回っていたのだ。

「‘今度は……こちらの番だ!’」

「くっ!」

 ドゥウェルがトモナリに襲いかかる。
 拳に濃い魔力が集まって、グローブのようにも見える。

「‘手加減……してくれるんじゃないんですか!’」

「‘しているさ! スキルは使っていない!’」

 恐ろしい風切り音がするパンチをトモナリはギリギリ回避する。
 パンチの動作が大きく、速度があまり高くなさそうなことがせめてもの救いだった。

 だが一撃一撃が必殺の威力を秘めている。
 手加減してもらいたいと思うが、これでスキルも使っていないのだと聞いてトモナリは内心で驚いていた。

 攻撃が体をかすめて、エドが破損する。
 本来なら攻撃がかすめるだけでトモナリもダメージを受けてしまうが、エドが守ってくれているおかげでなんとか無傷で済んでいる。

 しかしそれだって長くは持たない。

「ハッ!」

 トモナリは剣のルビウスを取り出して反撃する。

「げっ……」

「‘くははっ! 最初のような攻撃はもうないのか!’」

 剣で斬りつけたのに刃が通らなかった。
 ドゥウェルは全身に魔力をみなぎらせて、防御面でも肉体の能力を高めている。

 これは失敗したなとトモナリは思った。
 まさかここまで大きな差があるとは想定していなかった。

「ふんっ!」

「‘いいぞ! その調子だ!’」

 トモナリがドゥウェルの顎を殴り上げる。
 鉄でも殴ったような硬い感触が拳に返ってくる。

 ドゥウェルは楽しそうに笑い、より一層攻撃を激しくする。

「トモナリ……」

 ヒカリは祈るようにしてトモナリの戦いを見ていた。
 もっと自分に力があったらと思わざるを得ない。

 今戦いに加わっても足手まといにしかならないのは分かっているから、悔しくてもただトモナリの無事を祈るしかないのだ。