「‘一閃’」

 試合が始まるブザーが鳴り響くと同時にエリオットは槍を突き出す。
 槍に込められた魔力が放たれて、トモナリに襲いかかる。

 魔力の槍撃はトモナリを飲み込んでも止まらず、観客席まで飛んでいった。
 悲鳴が上がるが、観客席はちゃんと魔法で守られている。

「‘いきなりだな’」

 アホみたいな一撃だとトモナリは思った。
 肌がひりつくような魔力の圧を感じ、まともに直撃したら防御重視のエドのドラゴンズコネクトでも危なかっただろう。

 しかしトモナリはちゃんと回避していた。
 流石に一撃で終わってしまっては面白くない。

 コートをはためかせてエリオットの後ろにトモナリは回り込んでいた。

「怪力、魔力物質構成、弱点看破」

 決勝なのだからスキルは惜しげもなく使う。

「‘いくぞ!’」

 槍と剣なら槍の方が戦闘距離が長い。
 距離を開けて戦えば槍の方の一方的な攻撃を受けることになる。

 やはり距離を詰めて、槍が十分な効果を発揮できないように戦うことが定石である。
 トモナリは床を蹴って一気に走り出す。

「‘……上か!’」

 エリオットとしては自分の有利な距離を保ちたい。
 剣は届かないが、槍は届くような距離が理想である。

 トモナリのことを迎撃しようとしたエリオットであったけれども、気づいてしまった。
 ヒカリがいないと。

 一閃を放った時にヒカリはトモナリのそばにいた。
 回避しきれずに倒されてしまった可能性もあるが、魔道具の保護が割れるような音は聞こえなかった。

 どこかにいるはずで、攻撃の機会を窺っていると察した。
 視界にいない以上は、後ろか、上の可能性が高い。

 エリオットは床に見えた影を見た。
 自分のものと重なるようにしているが、わずかに自分のものではない影があったのである。

「ぬおぅ!?」

「‘くっ、外したか!’」

 下から突き上げられる槍をヒカリは回転してかわした。

「ボーッ!」

 槍をかわしたヒカリはブレスを放つ。

「‘はああっ!’」

 エリオットは槍をブンブンと回転させる。
 ブレスの炎が槍の回転に巻き込まれて、エリオットまで届くことなく防がれてしまう。

「‘はっ!’」

「なっ!?」

 槍をトモナリに向かって振る。
 巻き込まれた炎が飛んできて、トモナリは横に飛んでかわす。

「‘まだまだ!’」

 エリオットはトモナリに近づいて槍を突き出す。
 高い能力値を持つトモナリにとっても、エリオットの攻撃は素早い。

 多少食らってもエドの防御は破れないだろうが、魔道具の耐久度は一気に持っていかれることになってしまう。

「くっ!」

 力としてはそんなに強くない。
 怪力を使わずともトモナリの方が上だろう。

 しかしエリオットは柔らかく槍を持って、防御するトモナリの力を受け流している。
 なかなか懐に飛び込むことが難しい槍のラッシュに、トモナリは顔をしかめる。

「どりゃー!」

 ただヒカリも忘れてはならない。
 今度はエリオットの後ろからヒカリが襲いかかる。

「がしぃ!」

「‘なにっ!?’」

 エリオットは挟まれることを嫌がって、横に飛び退きながらヒカリに槍を向けた。
 ヒカリはギリギリでかわした槍にしがみつく。

 予想外の動きにエリオットも驚いてしまう。

「‘放せ……!’」

「ふぎぃー!」

 エリオットが槍を振り回すが、ヒカリはしがみついたまま離れない。
 槍使いにも色々といるけれども、エリオットのタイプは速度を重視した戦い方である。
 
 能力も速度が高く、トモナリにも全く負けていない。
 対して力はステータスの中でみるとやや低く、相手と直接力比べするような戦い方は苦手なのである。

 ヒカリも意外と力は強い。
 しがみつかれるとちょっとやそっとじゃ振り払えないのである。

「ほら!」

「‘くそっ……!’」

「ぎゅーん!」

 ヒカリが振り払われるまで大人しく見ているわけもなく、トモナリがエリオットに斬りかかる。
 エリオットはトモナリを近づかせまいと槍を繰り出そうとしたが、ヒカリが翼を使って槍を無理矢理上に向ける。

「‘くっ!?’」

 槍の柄でトモナリの剣を防いだものの、怪力を発動させたトモナリの力を受けきれずにエリオットはぶっ飛ぶ。
 ちょっと失敗したなとトモナリは思った。

 ぶっ飛ばしたのはいいけれど、そのせいでまた距離ができてしまう。

「ぬっふっふっ……」

「‘なら……君ごと吹き飛ばしてやるよ!’」

 槍にしがみついたままニヤリと笑うヒカリにエリオットはイラっとした。
 エリオットは素早く起き上がると、槍の先に魔力を込める。

「‘一閃…………なんだ?’」

 槍にしがみついたヒカリはそのままにトモナリに向かって一閃を放とうした瞬間だった。
 観客席で爆発が起きた。

 悲鳴が上がり、エリオットもトモナリも戦いを止めて観客席の方を見る。

「‘初めましてですね’」

「‘お前は誰だ?’」

 気づいたらステージの上に一人の男が立っていた。
 細い目をした怪しい雰囲気の男は、歪んだ笑みを浮かべてトモナリとエリオットのことを見ていたのであった。