「ぽぽぽぽー!」
サーシャの視界の端で炎の壁を突き破って何かが飛び込んできた。
ヒカリかトモナリだろうと体をそちらに向けたが、飛び込んできたものは火の玉であった。
他のところからも火の玉が飛び込んできて、サーシャは何をどう処理するのか一瞬で考える。
「光の加護!」
全てを防ぎ切ることはできないと判断した。
サーシャはスキルを発動させて火の玉を盾で防ぎ、剣で切り落とし、それでも対処が間に合わないものはできるだけダメージを避けようと体の中心からずらして受ける。
「上なのだー!」
火の玉を乗り越えたサーシャの真上からヒカリが急下降する。
ヒカリは火の玉で気を引いている間に炎の壁の内側、サーシャの真上に移動していた。
赤々と燃える炎の壁と飛び込んでくる火の玉は、ヒカリの移動をサーシャの目から完全に隠してくれていた。
「うっ!」
サーシャはギリギリで反応して盾を上に向ける。
腰が砕けてしまいそうな衝撃を感じながらも、なんとかヒカリを防御する。
「ぬぬぬぬぬぬー!」
「うぅ……!」
ヒカリはサーシャを押し潰そうと圧力をかけ続け、サーシャはそれに耐える。
サーシャのスキルは力を上げてくれるものではない。
光の加護と守護者のオーラは完全に防御スキルで、サーシャは自分の力のみでヒカリに耐えねばならないのである。
先ほどのように攻撃してくれれば守護者のオーラを発動させて反撃することもできるが、単純に盾に圧力をかけているだけでは反撃も発動しない。
「さあ、どうする?」
トモナリも炎の壁の中に飛び込んでいく。
サーシャは不安定な体勢でヒカリに耐えている。
盾はヒカリに抑えられている形で、飛び込んできたトモナリにもまだ気づいていない。
「……やっぱりズルい」
サーシャが気づいた時には、もうトモナリは剣を振り下ろし始めていた。
「うっ……」
魔道具の保護魔法が限界を迎えた。
炎の壁が燃え盛る音に紛れるように魔法が割れる音が響き渡った。
トモナリはちゃんと手を抜いて、サーシャの頭にコツンと軽く剣の腹を当てる。
炎の壁がゆっくりと消えていき、ヒカリはトモナリに肩車されるように乗っかった。
モニターにトモナリとヒカリの勝利が表示されて、観客が沸き立つ。
炎の壁で中の状況が見えなかったので、観客たちの反応がちょっとだけ遅かった。
ヒカリは両手をブンブンと振って声援に応える。
「何拗ねてんだよ?」
トモナリたちは控え室に戻る。
サーシャは不機嫌な雰囲気を醸し出している。
負けて悔しいのかなとトモナリは思った。
「やっぱり二人はずるい」
「んー、まあ……多少はな」
サーシャもトモナリ一人ならなんとかできたなんて言うつもりはない。
でもヒカリも含めての二対一ではなかなか厳しい。
やっぱりヒカリも一緒なのはずるいと思わざるを得なかった。
それを言ったところで、どうしようないことも分かっているから拗ねるしかないのだ。
「ふむ……僕だけで勝てたのだ〜」
「むっ!」
「ぬおっ!? 放すのだ!」
「勝ってみなさい」
サーシャは調子に乗っているヒカリのことを捕まえて抱きしめる。
ヒカリの体格では思いきり抱きしめられると抜け出すのも簡単ではない。
「ぬぅ……」
ジタバタとヒカリも暴れるが、サーシャを傷つけないようにもしなきゃいけなくて抜け出せない。
最終的に諦めて控え室まで運ばれることとなったのだった。
「お疲れ」
「サーシャちゃん残念だったね」
「紙一重の戦いだった」
ヒカリを抱いて歩いているうちにサーシャも少し機嫌が直った。
日本の控え室に戻るとみんなが歓迎してくれる。
「結構頑張ってたよな」
会場で戦いを見るということもできるが周りの目も気になるので、控え室にある大きめのモニターでみんなでゆっくりと観戦していたのである。
「次は?」
ステージを降りる時には次の試合の選手の選出が始まっていた。
ただ最後まで見ないでサッサと控え室に戻ってきたので、誰が戦うのか知らなかった。
「カナダのエリオットか」
選手の一人はカナダのエリオットであった。
去年トモナリと個人戦の決勝で戦った、槍王という王職の持ち主だ。
今年エリオットは団体戦に出なかった。
去年個人戦でいいとこまで行った子たちの多くは団体戦でも大将や副将を務めているのに、エリオットは団体戦において控えメンバーであったのである。
エリオットが一年経って、カナダの中で劣る実力になったなんてことはない。
団体戦でエリオットが戦わなかった理由は、個人戦のためである。
団体戦は国の戦いという側面が大きい。
なんとか国代表という形で、その国でのプライドを懸けて戦うのだけど、それに対して個人戦は国のプライドもあるがやはり個人の実力や名声的なところが大きい。
そのために団体戦よりも、個人戦の名誉の方が大きいと考える人もいるのだ。
エリオットは個人戦に勝ち抜くことを念頭において、団体戦に出なかった。
力の温存、あるいは自分がどんな戦い方をするのか周りに隠しておくためである。
ちゃんと周りとも話して決めているのなら、団体戦に出ないというのもまた戦略といえるのだ。
サーシャの視界の端で炎の壁を突き破って何かが飛び込んできた。
ヒカリかトモナリだろうと体をそちらに向けたが、飛び込んできたものは火の玉であった。
他のところからも火の玉が飛び込んできて、サーシャは何をどう処理するのか一瞬で考える。
「光の加護!」
全てを防ぎ切ることはできないと判断した。
サーシャはスキルを発動させて火の玉を盾で防ぎ、剣で切り落とし、それでも対処が間に合わないものはできるだけダメージを避けようと体の中心からずらして受ける。
「上なのだー!」
火の玉を乗り越えたサーシャの真上からヒカリが急下降する。
ヒカリは火の玉で気を引いている間に炎の壁の内側、サーシャの真上に移動していた。
赤々と燃える炎の壁と飛び込んでくる火の玉は、ヒカリの移動をサーシャの目から完全に隠してくれていた。
「うっ!」
サーシャはギリギリで反応して盾を上に向ける。
腰が砕けてしまいそうな衝撃を感じながらも、なんとかヒカリを防御する。
「ぬぬぬぬぬぬー!」
「うぅ……!」
ヒカリはサーシャを押し潰そうと圧力をかけ続け、サーシャはそれに耐える。
サーシャのスキルは力を上げてくれるものではない。
光の加護と守護者のオーラは完全に防御スキルで、サーシャは自分の力のみでヒカリに耐えねばならないのである。
先ほどのように攻撃してくれれば守護者のオーラを発動させて反撃することもできるが、単純に盾に圧力をかけているだけでは反撃も発動しない。
「さあ、どうする?」
トモナリも炎の壁の中に飛び込んでいく。
サーシャは不安定な体勢でヒカリに耐えている。
盾はヒカリに抑えられている形で、飛び込んできたトモナリにもまだ気づいていない。
「……やっぱりズルい」
サーシャが気づいた時には、もうトモナリは剣を振り下ろし始めていた。
「うっ……」
魔道具の保護魔法が限界を迎えた。
炎の壁が燃え盛る音に紛れるように魔法が割れる音が響き渡った。
トモナリはちゃんと手を抜いて、サーシャの頭にコツンと軽く剣の腹を当てる。
炎の壁がゆっくりと消えていき、ヒカリはトモナリに肩車されるように乗っかった。
モニターにトモナリとヒカリの勝利が表示されて、観客が沸き立つ。
炎の壁で中の状況が見えなかったので、観客たちの反応がちょっとだけ遅かった。
ヒカリは両手をブンブンと振って声援に応える。
「何拗ねてんだよ?」
トモナリたちは控え室に戻る。
サーシャは不機嫌な雰囲気を醸し出している。
負けて悔しいのかなとトモナリは思った。
「やっぱり二人はずるい」
「んー、まあ……多少はな」
サーシャもトモナリ一人ならなんとかできたなんて言うつもりはない。
でもヒカリも含めての二対一ではなかなか厳しい。
やっぱりヒカリも一緒なのはずるいと思わざるを得なかった。
それを言ったところで、どうしようないことも分かっているから拗ねるしかないのだ。
「ふむ……僕だけで勝てたのだ〜」
「むっ!」
「ぬおっ!? 放すのだ!」
「勝ってみなさい」
サーシャは調子に乗っているヒカリのことを捕まえて抱きしめる。
ヒカリの体格では思いきり抱きしめられると抜け出すのも簡単ではない。
「ぬぅ……」
ジタバタとヒカリも暴れるが、サーシャを傷つけないようにもしなきゃいけなくて抜け出せない。
最終的に諦めて控え室まで運ばれることとなったのだった。
「お疲れ」
「サーシャちゃん残念だったね」
「紙一重の戦いだった」
ヒカリを抱いて歩いているうちにサーシャも少し機嫌が直った。
日本の控え室に戻るとみんなが歓迎してくれる。
「結構頑張ってたよな」
会場で戦いを見るということもできるが周りの目も気になるので、控え室にある大きめのモニターでみんなでゆっくりと観戦していたのである。
「次は?」
ステージを降りる時には次の試合の選手の選出が始まっていた。
ただ最後まで見ないでサッサと控え室に戻ってきたので、誰が戦うのか知らなかった。
「カナダのエリオットか」
選手の一人はカナダのエリオットであった。
去年トモナリと個人戦の決勝で戦った、槍王という王職の持ち主だ。
今年エリオットは団体戦に出なかった。
去年個人戦でいいとこまで行った子たちの多くは団体戦でも大将や副将を務めているのに、エリオットは団体戦において控えメンバーであったのである。
エリオットが一年経って、カナダの中で劣る実力になったなんてことはない。
団体戦でエリオットが戦わなかった理由は、個人戦のためである。
団体戦は国の戦いという側面が大きい。
なんとか国代表という形で、その国でのプライドを懸けて戦うのだけど、それに対して個人戦は国のプライドもあるがやはり個人の実力や名声的なところが大きい。
そのために団体戦よりも、個人戦の名誉の方が大きいと考える人もいるのだ。
エリオットは個人戦に勝ち抜くことを念頭において、団体戦に出なかった。
力の温存、あるいは自分がどんな戦い方をするのか周りに隠しておくためである。
ちゃんと周りとも話して決めているのなら、団体戦に出ないというのもまた戦略といえるのだ。

