「ちょっと悪く戦おうか」

「おっ? どういうことなのだ?」

「綺麗な戦い方が、戦うってことだけじゃないってサーシャにも教えてやるのさ」

 トモナリは悪い顔をして笑う。

「ヒカリはいつも通り攻めろ。勝つぞ」

「うむ!」

 悪く戦うということがヒカリには分からないが、トモナリに任せておけば大丈夫だろうと頷く。
 サーシャは盾を構えて待ちの姿勢をとった。

 トモナリの攻撃には惑わされないという意思を感じる。

「とりあえず一発いくぞ!」

 来ないのならトモナリから行くしかない。
 剣に炎をまとわせながらトモナリはサーシャに向かって走り出し、ヒカリは翼を広げて飛び上がる。

「はっ!」

 トモナリは真正面からサーシャの盾に叩きつけるように剣を振り下ろす。

「うっ!」

 一度受け止めてみようとサーシャは思っていたが、失敗だったとすぐに察した。
 大きく後ろに押されて、力の差を感じざるを得なかった。

 一撃で終わらせてくれるはずもなく、トモナリは再びサーシャに迫る。

「これならどうだ!」

 トモナリは剣にまとわせた炎を斬撃として飛ばす。

「これぐらい!」

 ただ押されるだけじゃないと対抗心を燃やすサーシャは盾に魔力を込める。
 軽く足を踏み出しながら、火炎の斬撃に向かって盾を突き出す。

 盾から打ち出された魔力が炎の斬撃を打ち消した。
 これはスキルではなく、トモナリが飛ばした斬撃と同じような一つの技である。

「掴まえた」

 散っていく炎の向こうから手が伸びてきて、サーシャの盾を掴んだ。
 トモナリは上からグッと盾を押し下げながらサーシャ本体を狙う。

 盾という強みを封じられ、サーシャは驚きに目を見開きながら剣をかわす。
 けれども、盾を掴まれているので離れることはできない。

「放して!」

 流石に盾を掴まれたままでは戦えない。
 サーシャは盾を掴むトモナリの腕を狙って、剣を突き出す。

「おっと!」

「ん? うっ!?」

 トモナリは盾から手を離す。
 上半身を逸らして剣で刺されないようにしつつも、トモナリは足裏を盾に当てる。

 蹴ったわけじゃない。
 ただ突っ張るように当てただけなのだ。

 けれども直後にトモナリは足に力を込めて、サーシャを思い切り押した。

「どりゃー!」

 攻撃は大体の場合の一瞬の衝撃である。
 衝撃が続くものもあるが、ピークは当たった時というものが多い。

 足を当てた状態からグッと力を入れられると、サーシャも備えができなかった。
 堪えきれずに後ろに転がったサーシャに、ヒカリが上から襲いかかった。

「くぅっ!」

 ヒカリの突撃を盾で防いだけれども、見た目よりもはるかに重たい攻撃で床に押さえつけられるような形になる。

「だりゃりゃりゃりゃ!」

 そのままヒカリは盾を殴りつける。
 ヒカリの攻撃一発毎に、自分の盾に押し潰されてしまいそうな衝撃にサーシャは襲われる。

 しかし抜け出すこともできずに耐え忍ぶしかない。

「うぅ……守護者のオーラ!」

「ぬっ? ぬわーっ!」

 サーシャはセカンドスキルを発動させる。
 体力を上げ、体を保護するオーラをまとう防御スキルである。

 しかしただ体を守ってくれるだけじゃない。
 サーシャの体にまとわれた白いオーラが拳のように伸びて、ヒカリを攻撃したのだ。

 フウカの闇のオーラにも似ていたが、やっていることは全く違う。
 サーシャの守護者のオーラが持っている効果は攻撃反射。

 受けた攻撃を七割ほどの威力で相手に返してしまうのである。
 ヒカリはスキルを発動しても構わず攻撃を続けたので、攻撃が反射されてしまったのだった。

「……こんな戦い方もあるんだぜ」

 正面から挑んで攻撃して、盾で防ぐ。
 綺麗な戦い方である。

 だけど盾を掴む、盾を押すなんて明らかに盾に向けた攻撃というものもある。
 周りから見た時に綺麗な戦い方とは言えないだろう。

 卑怯だなんて言う人やマナー、プライドはないのかと批判する人もいるかもしれない。
 だが実際の戦いでそんな生ぬるいこと言ってられない。

 なんとしてでも盾を剥がしにかかる相手も世の中にはいて、それもまた戦いの一つだと理解せねばならないのである。

「むっ……」

 盾を構えてできる死角に回り込んだり、盾と鍔迫り合いをしている間に攻撃をしてくるなんてことはあった。
 しかし盾を掴んだり、単純に強い力で盾を押すなんてやり方をされたことはない。

 サーシャはそのやり方を汚いとは思わない。
 かなり面倒で、想定していなかったので今後気をつけなきゃいけないやり方だなと思っていた。

「まだいくぜ!」

 相変わらずサーシャから攻めるつもりはない。
 トモナリは剣を振って炎の斬撃を飛ばす。

 ただ斬撃が向かう先はサーシャではない。
 弧を描くように斬撃は飛んでいき、炎の軌跡が燃え上がってサーシャを囲む壁となる。

 サーシャは瞬く間に炎の壁のど真ん中に立たされることになった。

「わーはっはっはっ! サーシャ! いくのだー!」

 サーシャからすると炎の壁の向こうからヒカリの声が聞こえている。
 しかしどこか分からない。

 それも当然でヒカリは高速で炎の壁の向こう側を飛んでいるのだ。
 声を出している最中にも移動しているのだから、声の位置からどこにいるのか分からなくても当然なのだ。