「‘なんでだ……よ!’」

 いくら偃月刀を振っても押し返されてしまう。
 誰がどう見てもハオレンは押されている。

「僕のこと忘れてるのだ?」

 激しい攻撃。
 トモナリに集中すればするほどに、意識の外に追いやられてしまうのはヒカリの存在である。

 耳元で声がしてハオレンは慌てて偃月刀を真後ろに振った。

「ニヒッ……ビーッ!」

 ヒカリは体を横にぐるりと回転させて偃月刀をかわした。
 頭の上に手を伸ばして、偃月刀を掴んだヒカリはブレスを放つ。

 ビームのような圧縮されたブレスがハオレンの腹に直撃する。

「‘うおおおおっ!’」

 ハオレンがビームに押されて吹き飛ぶ。

「終わりだ」

 ハオレンが吹き飛んだ先には剣を構えるトモナリ。

「‘くっ……くそおおおおっ!’」

 トモナリは剣を真横に振って、ハオレンの腰を斬りつけた。
 魔道具が限界を迎え、ガラスが割れるような音がする。

「‘た、担架だ!’」

 思っていたよりもヒカリのビームによって勢いがついてしまった。
 トモナリの剣によってぶっ飛んでいったハオレンは、地面に倒れたまま動かない。

 もうちょっと手加減してやればよかったかなと思うけれど、多少痛い目見るぐらいがちょうど良いのかもしれない。

「いいぞ、ヒカリ!」

「僕の大活躍なのだ!」

 トモナリとヒカリはハイタッチする。
 ヒカリ単体でもだいぶ強くなってきた。

 決して忘れてはならない存在だが、ヒカリはあえて気配を消して機会を待っていたりするので、気づいたら忘れてしまっているのだ。

「とりあえず初戦敗退とはならなかったな」

 ステージから降りながらトモナリはインベントリを開く。
 そして取り出したのは魔石だった。

「魔力吸収」

 トモナリはスキルを発動させる。
 四姉妹の誓いには怪力、魔力物質構成、弱点看破以外にももう一つスキルがある。

 それは魔力吸収高変換だ。
 ここまで魔力吸収高変換を使ってこなかったが、使えないスキルだから使わなかったわけではない。

 ちゃんと使うべき時があるから、これまで使わなかったという話である。
 魔力吸収高変換の能力は、文字通り魔力を吸収してくれるものであった。

 以前ディーニとサントリは魔石から魔力を吸収していた。
 それと同じことがトモナリにもできるのだ。

「うん。良い感じだな」

 握りしめた魔石から魔力が流れ込んでくる。
 魔力が自分のものとなって体の中に溶け込む。

「これで連戦になっても大丈夫だな」

 個人戦で大きな消耗をしてしまうと後々辛くなってしまう。
 しかしトモナリには消耗を補う手段があるのだ。

 毎回全力で戦って補充できるほど甘くはないが、多少の消耗なら無かったことにはできる。

「あとは対戦相手次第……だな」

 強い相手ばかりぶつけられると流石に辛くなってしまう。
 スキルで多少の軽減はできるとはいっても、対戦相手によるところはある。

 その後も個人戦は順調に進んでいった。
 多くの出場者がいるので初日は一回戦だけとなったが、日本勢も多くが勝利した。

 負けたのは対戦相手と相性の悪かったサーシャとくじ運の悪かったユウトの二人である。
 魔法使いタイプのコウも上手く戦って勝利を収めていた。

 中国勢は日本のことを睨みつけているが、トモナリは気にしない。

「やるなら優勝。やるぞ、ヒカリ!」

「もちろんなのだ!」