「おらっ!」

「‘なに!?’」

 ニヤリと笑ったユウトはイルブンの斧を押し返す。

「今度はこっちからいくぜ!」

 驚きの顔をするイルブンに対し、ユウトが剣を振り下ろす。
 思いの外速い一撃をイルブンはなんとか防いだ。

 今度はユウトがイルブンのことを押し込めようとする。
 イルブンは歯を食いしばり、自慢の筋肉に血管を浮き出させてユウトに対抗する。

「‘なんでこんなに力が強いんだ……’」

 少しずつ押されて、イルブンは顔をしかめる。

「へっ! 力自慢か? でも俺だって体鍛えてきたんだよ!」

 ユウトはトモナリの指導の下、低レベルの時からトレーニングをしてきた。
 地味で過酷なトレーニングで自分を追い込み、くじけそうになったこともある。

 だが、そのたびにステータスが伸びて努力に応えてくれた。
 ユウトは中でも力を伸ばしてきた。

 戦ったり動いたりして伸ばせる体力や器用さ、素早さと違って力は筋力トレーニングによるところが大きい。
 イルブンほどではないが、実はユウトもトレーニングの影響で服の下はかなり筋肉がついている。

 ただ実際の筋肉以上に力のステータスも伸びていた。

「‘ぐっ……ぐぐ……やられてたまるかよ! スキル狂化だ’」

 イルブンは額ギリギリまで押し込まれてスキルを発動させた。

「‘があああっ!’」

「うっ!」

 イルブンの目が充血していき、ユウトは一気に押し返されて飛び退いた。

「‘ぶっ飛ばしてやる!’」

 狂化は理性を失う代わりに、力や素早さを上げてくれるステータスアップ系のスキルである。
 イルブンが斧を振り回す速度が上がり、ユウトは斧を受け止めずに回避する。

 流石にスキルを使ってパワーアップしたイルブンと力比べするつもりはない。

「動きが乱雑だな!」

 斧を振り回すのは速くなったけれど、その代わり動きがかなり大きくもなっている。
 当たれば脅威だが当たらなければどうということもない。

「‘くそっ! なんで当たらないんだ!’」

 トレーニングで素早さも上げてきた。
 ただそれだけではなく、トモナリを始めとして仲間内でも戦って経験を積んできた。

 ただの力押しで戦う人は仲間内に少なく、繊細な戦いを求められることも多い。
 適当に振り回される斧なんて当たりはしないのである。

「一気に決めるぜ! 戦場領域指定! 敵はお前だ!」

 ユウトはセカンドスキルを発動させる。
 魔石やモンスター、魔道具を投入すれば良いスキルを手に入れられる可能性が高まると聞いて、ユウトもレベル20で手にいられるセカンドスキルの入手を少し遅らせた。

 魔石を少しだけど投入して得られたのが戦場領域指定というスキルだった。
 少し特殊なステータスアップ系のスキルで、範囲内いる仲間と敵もスキルの影響を受ける。

 仲間にはステータスアップの少しのバフを、そして敵にはステータスダウンのデバフをかけるのだ。
 イルブンはわずかに体が重くなった気がするけれど、それはユウトの戦場領域指定の効果のせいだった。

「いくぞ! 二連撃!」

「‘うっ!’」

 ユウトは剣を突き出す。
 イルブンは斧で剣を防いだが、それだけでは足りなかった。

 魔力で作られた二撃がイルブンの肩に直撃する。

「‘この……!’」

 保護魔法で防ぎきれなかった衝撃にイルブンは顔をしかめる。
 けれどもまだ魔道具の効果は失われていない。

 冷静な判断ができるならイルブンは一度下がっていただろう。
 しかし狂化で理性的な判断ができていないイルブンは、斧を振り上げてしまった。

「もういっちょ!」

 動作の大きなイルブンよりもユウトの方が速い。
 ユウトが剣を振ったのは一度。

 だが二回の衝撃があって、イルブンの魔道具は効果を失った。

「うーん、良い感じ」

 吸収しきれなかったダメージを受けてイルブンは気を失って倒れる。
 ユウトは剣を鞘に収めて笑顔を浮かべた。

「‘イルブン選手の魔道具が破られたー! 勝利したのは日本! ミタカ選手はここでも確実な一勝を挙げました!’」

「ふぅ……でも結構疲れたな」

 勝ったけれど、イレブンも弱かったわけじゃない。
 斧に当たれば一発で終わりだったので、回避するのも意外と神経を使っていたのだ。

「戦場領域指定も使っちゃったし、全部勝つって言ったけど……やめとくか」

 戦場領域指定は自分だけでなく、味方や敵にも影響を与える強力なスキルだ。
 その分魔力の消費も大きい。

 トレーニングじゃ魔力はなかなか伸ばせない。
 体の強度はかなり上がったが、ユウトの魔力は少なめなのである。

「まっ、みんななら大丈夫だろ」

 ーーーーー

「だぁー! あとちょっとだったのにーーーー!」

「‘なんと! 副将同士の戦いは相打ちという結果に終わりました! 互いに諦めぬ姿がこのような結果を生んだのでしょう!’」

 ドイツとの一進一退の戦いが続く。
 日本が勝てばドイツも勝ち、連勝を許さないような状況であった。

 そして副将として戦ったのはミズキだった。
 能力的にはミズキの方が強そうに見えたのだけど、負けられないと相手も食らいついてほぼ同時に魔道具が効果を失う引き分けに持ち込んだのだった。

 ミズキは勝てそうだったのにと悔しそうだ。
 油断とかではなく、相手が上手くやったのである。