「まさかの観客ありか……」
「ついてきてください」
パウルが札を上げながら競技場に入っていく。
札には英語で日本代表と書いてある。
去年は観客がほとんどいなかった。
関係者として招待された人がいるのみで部外者以外立ち入り禁止だった。
それに対して今回は観客もありのようだ。
どう考えても会場中を埋め尽くすほどの数の関係者がいるとは思えない。
なぜヨーロッパにもあるはずのアカデミーではなく、アウェイクンバトルの競技場だったのか。
その理由が透けて見える気がした。
ヨーロッパは交流戦も興行の一つにしようとしている。
世界中の若い覚醒者が集まるのだから、多くの人が興味を持つだろう。
どこの国が強いのか人々は予想し、結果ではなく過程も含めて知りたいと思うのは当然のことだ。
だがここまで交流戦はあくまでも内部の催しとして公開はされてこなかった。
去年の事件以来何かの潮目が変わったのかもしれない。
「みんな、そう緊張するな」
観客席近くの外周をゆっくりと歩く。
トモナリは特に何も気にしていないが、みんなはどうしたらいいのか分からず表情が固い。
観客席を見るとカメラまである。
放送までされているようだ。
緊張するのも分かるが、固くなったところで良い結果は生まれない。
「俺たちは去年の優勝国だ。堂々と歩こう」
雰囲気に飲まれてはいけない。
トモナリが威風堂々と歩くのを見て、みんなも少しずつ自信をつけ始める。
「むふふぅ〜みんなが僕を見てるのだ〜」
ヒカリは緊張なんかと無縁でトモナリの肩に乗っかって手を振ったりなんかしている。
可愛いという黄色い声が上がってヒカリは満足そうな顔をしている。
なんだかんだと一周する頃にはみんなの緊張もかなりほぐれているようだった。
トモナリとヒカリという先頭が堂々としていれば、意外とみんなも影響されて落ち着いてくるものだ。
続々と他の国も入ってくる。
日本よりも、やはりヨーロッパに属する国への歓声は熱い。
そして出場国が揃うと、一段高くなった壇上に一人の男性が上がる。
「‘まずは感謝を。今年もこうして若い才能たちが交流できる場を持たせてもらえたこと、そして若い才能たちが去年の出来事にも負けずに参加してくれるということを’」
細い目をした男性は英語で話し始めた。
挨拶をしているのはドイツの覚醒者協会の協会長であるアレクサンダー・アイヒンガーという人だった。
ゆっくりと余裕を持った話し方で、騒がしかった会場もいつの間にかアレクサンダーの言葉に聞き入っていた。
「‘今年は観客を入れるという大きな変化を試みた。覚醒者という存在を近くに感じてもらい、人類一体での連帯感を生み出せればと思っている’」
金だろ、と思うが口には出さない。
アウェイクンバトルも広がりを見せているが、日本ではいまだにマイナーなようにまだまだなところもある。
世界的なイベントである交流戦に絡ませることでアウェイクンバトルをさらに盛り上げたり、交流戦の興行による収入を目論んでいるはずだ。
悪いとは言わない。
お金は大事だし、確かに覚醒者として活動していない人と覚醒者の間に隔たりがあることは否めない。
若者が覚醒者として頑張る姿は、そうした隔たりを解消する一助になるかもしれないのである。
「‘思う存分に力を振るってくれ。君たちの熱いバトルを期待している’」
アレクサンダーの挨拶が終わって大きな拍手が起こる。
「‘これから団体戦のトーナメントを決めるくじ引きを始めます。そして、そのあとはデモンストレーションとしてアウェイクンバトルをお見せいたします’」
今日は開会式とくじ引きだけの予定だが、興行的には少し弱い。
そのためにアウェイクンバトルの競技者による勝負をくじ引きの後に行うらしい。
「トモナリ、頼むぞ!」
「良いとこ引いてね〜」
くじ引きも代表者であるトモナリが行うことになった。
優勝国である日本が一番初めに引くことになっていて、トモナリは会場中の視線を浴びる。
「ヒカリ、引くか?」
「いいのだ?」
「ああ、いいよ」
どうせならと思ってヒカリにくじを引いてもらうことにした。
トモナリがヒカリを抱えて、くじの入った箱にヒカリが手を突っ込む。
思わぬヒカリの活躍に会場中がざわついている。
あまり否定的な雰囲気がなくて、トモナリは少しホッとしていた。
「ぬぬぬ……」
ヒカリは手を回してどれを取ろうか悩む。
中にはボールが入っていて、そこに番号が書いてある。
「これなのだー!」
ヒカリは一つ決めてボールを手に取った。
「数字が見えるようにカメラにお願いします」
「じゃじゃーん!」
パウルに言われてヒカリがボールを前に出す。
「一番……」
会場にある大きなモニターにボールの数字が映し出された。
ボールにはデカデカと数字の1が書いてある。
一番初めの国が一を引く。
会場がちょっと盛り上がる。
この数字がいいものかどうかは対戦相手が決まるまでは分からない。
だけど単純に数字としては悪くないなとトモナリは思った。
「ついてきてください」
パウルが札を上げながら競技場に入っていく。
札には英語で日本代表と書いてある。
去年は観客がほとんどいなかった。
関係者として招待された人がいるのみで部外者以外立ち入り禁止だった。
それに対して今回は観客もありのようだ。
どう考えても会場中を埋め尽くすほどの数の関係者がいるとは思えない。
なぜヨーロッパにもあるはずのアカデミーではなく、アウェイクンバトルの競技場だったのか。
その理由が透けて見える気がした。
ヨーロッパは交流戦も興行の一つにしようとしている。
世界中の若い覚醒者が集まるのだから、多くの人が興味を持つだろう。
どこの国が強いのか人々は予想し、結果ではなく過程も含めて知りたいと思うのは当然のことだ。
だがここまで交流戦はあくまでも内部の催しとして公開はされてこなかった。
去年の事件以来何かの潮目が変わったのかもしれない。
「みんな、そう緊張するな」
観客席近くの外周をゆっくりと歩く。
トモナリは特に何も気にしていないが、みんなはどうしたらいいのか分からず表情が固い。
観客席を見るとカメラまである。
放送までされているようだ。
緊張するのも分かるが、固くなったところで良い結果は生まれない。
「俺たちは去年の優勝国だ。堂々と歩こう」
雰囲気に飲まれてはいけない。
トモナリが威風堂々と歩くのを見て、みんなも少しずつ自信をつけ始める。
「むふふぅ〜みんなが僕を見てるのだ〜」
ヒカリは緊張なんかと無縁でトモナリの肩に乗っかって手を振ったりなんかしている。
可愛いという黄色い声が上がってヒカリは満足そうな顔をしている。
なんだかんだと一周する頃にはみんなの緊張もかなりほぐれているようだった。
トモナリとヒカリという先頭が堂々としていれば、意外とみんなも影響されて落ち着いてくるものだ。
続々と他の国も入ってくる。
日本よりも、やはりヨーロッパに属する国への歓声は熱い。
そして出場国が揃うと、一段高くなった壇上に一人の男性が上がる。
「‘まずは感謝を。今年もこうして若い才能たちが交流できる場を持たせてもらえたこと、そして若い才能たちが去年の出来事にも負けずに参加してくれるということを’」
細い目をした男性は英語で話し始めた。
挨拶をしているのはドイツの覚醒者協会の協会長であるアレクサンダー・アイヒンガーという人だった。
ゆっくりと余裕を持った話し方で、騒がしかった会場もいつの間にかアレクサンダーの言葉に聞き入っていた。
「‘今年は観客を入れるという大きな変化を試みた。覚醒者という存在を近くに感じてもらい、人類一体での連帯感を生み出せればと思っている’」
金だろ、と思うが口には出さない。
アウェイクンバトルも広がりを見せているが、日本ではいまだにマイナーなようにまだまだなところもある。
世界的なイベントである交流戦に絡ませることでアウェイクンバトルをさらに盛り上げたり、交流戦の興行による収入を目論んでいるはずだ。
悪いとは言わない。
お金は大事だし、確かに覚醒者として活動していない人と覚醒者の間に隔たりがあることは否めない。
若者が覚醒者として頑張る姿は、そうした隔たりを解消する一助になるかもしれないのである。
「‘思う存分に力を振るってくれ。君たちの熱いバトルを期待している’」
アレクサンダーの挨拶が終わって大きな拍手が起こる。
「‘これから団体戦のトーナメントを決めるくじ引きを始めます。そして、そのあとはデモンストレーションとしてアウェイクンバトルをお見せいたします’」
今日は開会式とくじ引きだけの予定だが、興行的には少し弱い。
そのためにアウェイクンバトルの競技者による勝負をくじ引きの後に行うらしい。
「トモナリ、頼むぞ!」
「良いとこ引いてね〜」
くじ引きも代表者であるトモナリが行うことになった。
優勝国である日本が一番初めに引くことになっていて、トモナリは会場中の視線を浴びる。
「ヒカリ、引くか?」
「いいのだ?」
「ああ、いいよ」
どうせならと思ってヒカリにくじを引いてもらうことにした。
トモナリがヒカリを抱えて、くじの入った箱にヒカリが手を突っ込む。
思わぬヒカリの活躍に会場中がざわついている。
あまり否定的な雰囲気がなくて、トモナリは少しホッとしていた。
「ぬぬぬ……」
ヒカリは手を回してどれを取ろうか悩む。
中にはボールが入っていて、そこに番号が書いてある。
「これなのだー!」
ヒカリは一つ決めてボールを手に取った。
「数字が見えるようにカメラにお願いします」
「じゃじゃーん!」
パウルに言われてヒカリがボールを前に出す。
「一番……」
会場にある大きなモニターにボールの数字が映し出された。
ボールにはデカデカと数字の1が書いてある。
一番初めの国が一を引く。
会場がちょっと盛り上がる。
この数字がいいものかどうかは対戦相手が決まるまでは分からない。
だけど単純に数字としては悪くないなとトモナリは思った。

