「確かにね」

「先輩ならきっと良いところいきますよ!」

「まあ、俺だって負けてやるつもりはないけどな」

 トモナリの実力は自他共に認めるものだ。
 個人戦、団体戦共に期待できるだろうとみんな思っている。

 さらに今年の二年生メンバーはトモナリとトレーニングを続けてきた人たちである。
 色々な経験も経てきているし、トモナリほどではないかもしれないけど同年代の中では引けを取らないほどの強さになっているといっていい。

 もちろんトモナリと戦っても簡単に負けてやるようなつもりもない、意思の強さも持っていた。
 他の国がどうなのかは分からないが、今年の日本は強い。

「僕が一人で全員倒してやるのだ!」

「へっ、ヒカリもどっちが強いかみんなの目の前で分からせてやるからな!」

「ユウトなんか目じゃないのだ!」

「なんだとぉ!」

「やる気があるのはいいことだな」

 ーーーーー

 日本ではあまりメジャーではないが、海外では覚醒者同士の戦いも一つの興行となっている。
 アウェイクンバトルと呼ばれる競技は覚醒者たちが直接戦って強さを競い合い、誰が一番強いかを決める格闘技なのだ。

 現役でモンスターと戦っている人もいれば、モンスターとは戦わずアウェイクンバトルだけに出場する覚醒者もいる。
 今では大きなお金も動く興行として注目されているのだ。

 最初の頃はボクシングのリングほどの大きさの場所で戦っていだのだけど、もっと広い場所で自由に戦った方が臨場感が出てくるために、アウェイクンバトルの舞台は拡大して今では一つの競技場を戦いの場としている。
 ドイツでもアウェイクンバトルは盛んであり、他の国に先駆けて大きな競技場を作ったことでも話題だった。

 今回交流戦を行うのに選ばれた舞台がこの競技場なのである。
 もちろん覚醒者が戦うように作られた競技場なので頑丈で、覚醒者同士が戦うのに相応しい場所となっている。

「はぁ……でっか……」

 大きさとしては、陸上競技や野球なんかが行われるスタジアムに匹敵するぐらいはある。
 最新のためものなのでオシャレで綺麗。

 競技場を見上げてユウトは思わず呆けてしまう。

「今だと覚醒者として活躍するよりも比較的安全なアウェイクン競技者になるなんて人も多いらしいね」

 戦いはするが、あくまでも競技だ。
 事故による死はありうるのかもしれないが、モンスターによる戦いに比べて安全に戦える。

 勝って有名になればお金も稼げるし、名声も得られる。
 人のためにモンスターと戦うという強い正義感がなければアウェイクンバトルに参加するのも一つの生き方ではあった。

「ただレベル上げなきゃいけないだろ?」

「それはあるけどね」

 しかしアウェイクンバトルを行っていてもレベルは上がらない。
 やっぱりどこかでレベル上げのために戦う必要はあるのだ。

「でもある程度上げちゃえばあとは必要ないしね」

 階級制みたいな感じで、アウェイクンバトルもレベルで区切られている。
 スキルが少ない低レベル帯で戦う人もいれば、スキルを使って多少派手に戦う高レベル帯の人までさまざまだ。

 あえてある程度のレベルで止めて、アウェイクンバトルに参戦することもあり得るのである。

「格闘技……か」

 この先もモンスターとゲートが過激化しないでのんびりと続いていくようなら、そんな選択肢もあったのかもしれない。
 しかし世界が滅亡に向かっていくことを知っているのに、モンスターと戦わずに興行の道に進むつもりはトモナリにはない。

「何にしても良いところ使わせてもらえるってことだね!」

 覚醒者のための施設で、最新鋭なのだからかなりお金もかかっている。
 一般の人はおろか覚醒者、あるいはアウェイクンバトルの競技者でもまだまだ一部の人しか使えない競技場を使わせてもらえるのだ。

 多少テンションも上がる。

「今日は開会式……だっけ?」

「そうだ。顔合わせと団体戦のくじ引き、それに軽い開会式……って聞いてるけどな」

 トモナリたち日本組は、流暢な日本語を話すパウルという男性に案内されて控え室で待機していた。

「なぁ……」

「なんだよ、ユウト?」

「騒がしくね?」

「……確かにな」

 騒がしいと言っても争うような騒がしさではない。
 多くの人が話しているような、そんなザワザワとした騒がしさが廊下の方から聞こえてきていた。

 部屋そのものは防音性が高いのだけど、ドアを開けていると何かの音が聞こえてくるのだ。

「ええと、日本の皆さん、入場します」

 パウルが呼びにきた。
 妙な緊張感の中、トモナリたちも動き出す。

「日本の代表者は誰ですか?」

「一応……俺なのかな?」

 今年もアカデミー以外の覚醒者も来ている。
 ただやはりアカデミーから来ている人の方が多く、課外活動部の部長であるトモナリが代表的な立場となる。

「ではあなたが先頭で入場お願いします」

 控え室から会場に近づいていくと、遠くから聞こえていたざわつきがより大きくなっていく。

「では私についてきてください」

 戦いの舞台となる競技スペース手前の扉の前で、パウルは何かのプレートのようなものを受け取った。
 パウルが係員に視線を向けると、係員は無線で何かを伝えて扉を開いた。

「わぁ……」

 競技場なので当然人が入れる観客席がある。
 扉を開けると観客席を埋め尽くす人の姿が見えた。