新部長体制になっても何も変わることはない。
 冬休みには一、二年生でゲートを一度攻略して、実家に帰ってのんびりと過ごした。

 シテトラとペンターゴ、それにヘキサムも実家の方の暮らしに順応して楽しく過ごしているようだ。
 一度泥棒に入ろうとした人をヘキサムとペンターゴで捕まえたらしく、急に増えた住人にも関わらず周りにも受け入れられている。

 他に大きな問題もなく、冬休みは過ぎていった。
 そして春休みまでの残りの授業もテストなんかに追われながら過ごして、春休みを迎えた。

「んー……やっぱり長時間の飛行機は疲れるね」

 トモナリたちはヨーロッパはドイツに降り立っていた。
 目的は学生覚醒者交流大会のためである。

 去年の事件は去年の事件だ。
 開催国も毎年代わり、今年はヨーロッパのドイツがメインで開催することになったのでやることとなった。

「それではみんな今日はホテルに移動して休み、明日舞台となる競技場に移動だ」

「そいえばさ、去年……三年生いたっけ?」

「いや、いなかった」

「フクロウ先輩たちもう就職先決まってるしな」

 マサヨシを始めとした教員もいるが、カエデとタケルもいる。
 交流戦に参加するのは一、二年生であり、三年生は就職活動や大学受験勉強に専念するのがいつものことである。

 トモナリが一年生だった去年も三年生は来ていなかった。
 なのに今年はカエデが引率している。

 なんならタケルまでいる。
 いいのかと思うが、カエデとタケルはフクロウグループへ行くことが決まっているので問題ないのだろう。

 後輩たちのためにわざわざついてきてくれたと思えば、疑問を口にすることもできない。

「ドイツか……覚醒者としては結構強いんだろ?」

「そうだな。割とレベルが高いはずだ」

 去年の交流戦においては成績がパッとしなかったけれども、ドイツはヨーロッパの中でも覚醒者が多くて強い国であった。
 モンスターやゲートが出始めの頃に受けた被害も比較的小さかったために、ヨーロッパの中でも中心的な立場となっている。

「あとは……世界的な刑務所があるんだっけ」

「ヨーロッパ中の犯罪を犯した覚醒者を集めてる刑務所……だったっけ?」

 どこかで見たけど細かくは覚えていない。
 ミズキとマコトはふわふわとした会話をしている。

「軽犯罪じゃなくて重犯罪者だね」

 話を聞いてコウが答える。

「主に殺人なんかの重犯罪を犯した危険な覚醒者を収容する刑務所がドイツにあるんだよ」

 覚醒者が全員正義感に溢れているわけじゃない。
 終末教のような危険な思想で動く人もいれば、手に入れた力を悪用して犯罪に手を染める人もいる。

 覚醒者としての能力があると人を騙したり、能力を活かして盗みを働いたりすることを始め、暴行や殺人などの危険行為まで色々な犯罪があるのは当然である。
 殺人にも突発的なものある。

 覚醒者としての強い力があると、カッとなった時に相手を見誤って殺してしまうこともないとは言い切れない。
 だが一方で時に仕事で、時に快楽で人を殺すような覚醒者もいるのだ。

 そんな危険な人を野放しにしておくこともできないし、だからといって覚醒者を普通の刑務所に入れておくことも不安である。
 そんな時に、ドイツはこうした重犯罪を犯した覚醒者を収容する厳重な刑務所を建設した。

 ドイツのみならずヨーロッパ中の重犯罪覚醒者を集めて入れておくことを宣言して、今や多くの重犯罪覚醒者が収容されているのである。
 何も慈善事業ではなく、重犯罪覚醒者を収容する代わりに毎年お金をもらったりしている。

「ちょっと怖いよね」

「まあでも今のところ刑務所から逃げたような人もいないんだろ?」

「そうだって聞いてるけどね」

 中には強力な力を持つ覚醒者も収容されているが、これまで刑務所の中から逃げ出せた覚醒者はいない。
 中がどんなふうになっているのかすら、情報も出てこないほどに厳重に管理されているのだ。

「まっ、俺たちに関係ないしな」

 犯罪を犯すつもりなんてないし、刑務所に収容されることもない。

「それよりも交流戦だよね。きっとヨーロッパの人たちも頑張るだろうし……」

 やはり開催国はやる気を燃やす傾向にある。
 ドイツはもちろん、ヨーロッパ開催ということで他のヨーロッパの国々もきっと自分たちの国を一番にしようとやる気を出すはずだ。

 去年は個人戦が行われなかったせいで日本が優勝国となった。
 個人戦までやっていたら結果はどうなったか分からないけれど、中国のメイリンなど強い人がいたので個人戦次第では総合的な結果が変わっただろう。

 日本をライバル視して挑んでくる国もあるはずだ。
 今年も簡単にはいかないだろう。

「今年はもらったろ? なんたってトモナリとヒカリがいるんだからな」

 去年は一年生だったから、一年先をいく二年生相当の年齢の子たちには敵わなかった。
 しかし今年はトモナリが二年生である。

 おそらくもう一個年上が出てきたってトモナリなら優勝してしまえるぐらいの力があるとユウトは思った。

「僕もいるから任せるのだ!」

 ヒカリが胸を張る。
 だいぶヒカリも強くなった。

 仮にヒカリだけでも結構いいところまで行きそうな感じがある。