「俺は色々知ってるんだよ」

「……先輩ならそうかもですね」

 未来で見たから知っているのだとは言えない。
 だから正面から冗談っぽく堂々としてみる。

 未来予知のことは秘密にしてきた。
 なのにトモナリが分かっていることに驚きはあるけれど、トモナリならばなんでもありかもしれないとハルカも思えた。

「それで……未来を見たのか?」

「……はい」

 ハルカは小さく頷いた。

「大丈夫なのだ?」

 ハルカが不安げな顔をしているので、ヒカリも心配になった。

「……ちょっとだけ…………ぎゅってさせてもらえませんか?」

「……しょうがないのだ」

 ソワソワと落ち着かないハルカのお願いをヒカリは広い心で受け入れた。
 ハルカは膝の上に座ったヒカリを抱きかかえるように抱きしめた。

「私、どこかにいるんです。どこかの森の……上空」

 ヒカリを抱きしめているとじんわりと温かい。
 少し落ち着いたハルカはゆっくりと口を開く。

「下にはゲートがあって、モンスターが出てくるんです。遠くには町が見えてて……モンスターが町に向かっていって。でも私は何もできなくて……」

「ゲートブレイクの予知か……町がどこかとか分からないのか?」

「分からないんです……」

 ハルカは首を振る。

「町は遠くて……周りは森……あとは何にも……」

 ハルカの目に涙がにじむ。
 未来を予知できるというスキルがあるのに、どこか分からなければなんの意味もない。

 何もできないという無力感が悔しくて、泣いてしまいそうになる。

「落ち着け!」

「でも……」

「まだ諦めるには早い。思い出してみるんだ」

「何を思い出すんですか?」

 何もなかった。
 思い出せるようなものもない。

「特定はできなくてもヒントがあれば絞り込むことができるかもしれない」

「どうやってですか?」

「思い出せ……予知を見た時何時ぐらいだった?」

「何時……?」

 時計もなかった。
 時間なんて分かるはずもない。

「明るかったか?」

「明るかったです」

「じゃあ、少なくとも夜の時間じゃないな」

「あっ……!」

 これだけでもゲートブレイクは日の出ている時間に起こると分かる。

「太陽がどこにあったか分かるか?」

「…………真上にあったと思います」

「もっと時間が絞れるな。どれぐらい予知を見ていたと思う?」

「分からない……でも多少時間は経っていたと思います」

 ゲートから続々とモンスターが出てきて、町に向かっていっていた。
 多少の時間の経過はあった。

「太陽は動いていなかったか?」

「……そうかもしれません」

「どっちに動いてた?」

「真上から……ちょっと右に……」

「太陽は東から昇って、西に落ちる。右に動いたということは町は南にあった可能性が大きい」

「な、なるほど……」

 太陽の動きなんて簡単な理科である。
 しかし周りをよくみると何か場所特定のためのヒントとなるものが転がっていることがあるのだ。

「北に森を望む町。少しずつ狭まっていくぞ」

 ただ森がある町なんてものだっていくらでもある。

「町に特徴的な建物は?」

「うーん、特にありませんでした」

「じゃあ地形だ。下に森、遠くに町、さらに遠くには?」

「遠く……」

「山とかそんなものは?」

「あっ! 山がありました!」

 トモナリは少しずつハルカの記憶を引き出していく。

「どんな山だった? 尖ってる? 丸い? いくつあった?」

「ええと……丸い山が三つ……ポンポンと」

「町の南には三つの山だな」

 トモナリは会議室にあるホワイトボードにハルカが思い出した特徴を書き込む。

「他に何か思い出せないか?」

「…………そういえば、何かキラキラしてたような」

 体は動かず、町の方を向いていた。
 だけど首は動くから見回した時、後ろの方がキラキラとしていた気がした。

 なんでキラキラしていたのか。
 ハルカは何を見たのか思い出そうとする。

「……海! 後ろに海がありました!」

「これはデカいな。さらに北に海……」

「ど、どうですか?」

「うん……意外といけるかもしれないな」

 町と海と山、方角関係もなんとなく分かっている。
 上手くやれば特定もできるかもしれない。

「後は人の力を借りよう」

 トモナリはスマホを取り出してどこかに電話をかける。

「ええ、すいません。アラタさん、時間大丈夫ですか?」

 どこに電話をかけたのだろうとハルカは不思議そうにトモナリのことを見つめている。
 色々と思い出そうと必死になっている間に、気持ちもだいぶ落ち着いていた。

「お疲れ様です。また例のアレなんですが今回ちょっと分からないことが多くて……ええ、ある程度の特徴あるんで、どうにか調べてもらえませんか?」

 トモナリは電話の相手にハルカが思い出した特徴を伝える。

「ゲートのブレイクが起こるかもしれません。できれば優先して探してほしいんです。……ありがとうございます」

「どこにかけていたんですか?」
 
「覚醒者協会だよ。こういうの手伝ってくれる人がいるんだ。大丈夫、キシのことは言わないから」

 個人で調べるのには限界がある。
 こうした時はちゃんとした組織の力を借りるべきである。

 トモナリが電話をかけたのは覚醒者協会。
 いつも未来予知として情報を伝えている担当者に電話をかけたのだった。

 今回は本物の未来予知の内容を伝えた。
 向こうもすぐに調べてくれると返事をしてくれたのである。