ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした

「ここはどこ……」

 ハルカはまるで空に浮いているように上からどこかの森を見下ろしていた。
 どこにいるのかは分からない。

 体は動かないけれど首は動いて周りを確認することはできる。

「……あれは、ゲート?」

 真下に青く渦巻くゲートが見える。

「モンスターが!」

 ゲートがばちばちと音を立てる。
 そして透き通るような青いゲートが色を失って、濁った灰色になってモンスターが中から出てくる。

 ハルカはモンスターの姿よりもハッと顔を上げて遠くを見た。

「町がある……!」

 視線の先にはそれなりの規模の町があった。

「どうしたら……でも……」

 相変わらず体は動かない。
 声を出しても町には届かないだろう。

 いきなりモンスターが現れれば町は混乱に陥る。
 モンスターが弱ければいいが、強かった場合大きな被害も出てしまうだろう。

「これは夢……いや、スキル……」

 ハルカは見ているものがなんなのかうっすらと理解していた。
 もしかしたら何かできるかもしれない。

「でも……何もない……」

 ここはどこなのか。
 それが分かれば対策できるかもしれない。

 ハルカは周りを必死に見回すけれど、場所のヒントになりそうなものはない。

「どうしよう……何か……何かないの!」

 知らない場所で知らないゲートが発生している。
 何もできない歯痒さばかりが募り、ハルカは焦る。

 こうしている間にもモンスターは続々ゲートから出てきていて、町の方に向かって移動を始めている。

「待って……行かないで!」

 このままではモンスターは町を襲撃するだろう。
 覚醒者はいるのか。

 すぐに出動してモンスターに対抗できるのか。

「ウソ……ウソウソ!」

 景色が歪んでいく。
 夢から覚めようとしている。

 まだ何も分かっていない。
 ただモンスターが町に向かっていく様を見ているしかできなくてハルカは叫んだ。

「はぁっ! はぁ……はぁ…………」

 気づいたらベッドの上で手を伸ばしていた。
 汗だくで、ほんの少しの気だるさを感じていた。

「どうしよう……」

 ーーーーー

「そういえば交流戦って今年もあるのかな?」

「あー、あるんじゃないか? 今年はどこなんだろな」

 トモナリたちは授業を終えて課外活動部の部室に向かっていた。
 専用のエレベーターで建物最上階へ上がっていく。

 なんてことない雑談をしていると、あっという間に課外活動部に到着する。

「おっ、今日は一年早かったんだな」

「みんな……なんかあった?」

 課外活動部のレストルームには一年生たちがいた。
 ただなんだか空気が重たいとミズキは首を傾げる。

 重たい雰囲気を放っているのはハルカだ。
 それをナナが慰めるようにしている。

「先輩、なんとかしてくださいよ」

 ミヤマエがスーッと寄ってきてトモナリに耳打ちする。

「何があったんだ?」

「わっかんねっす。なんだか朝から暗くて……でも何があったってタンノが聞いても答えなくて……」

 ミヤマエは困り顔で肩をすくめる。
 課外活動部に来る前からハルカの様子はおかしかった。

 ナナが気にして声をかけているのだけど、答えにくそうにもごつくだけで明確に理由は言わない。
 体調が悪いなら休めばいいのに、なぜか課外活動部には行くといって来ていた。

「こういう時はトモナリ君だよね」

「俺?」

「キシさんともこの中なら親しいだろ?」

 理論的な相談をしたいならコウなんかもいいが、人の話を聞くのが上手いわけじゃない。
 トモナリはなんだかんだと人のことをよく見ていて、根気強く付き合っていくこともできる聞き上手なところがある。

 人見知り気味なハルカもトモナリには心を開いている。

「まあとりあえず聞いてみるか……」

 本当に話してくれるか分からないが、課外活動部まで来たということは誰かに話したいのかもしれない。
 トモナリがハルカの前に立つと、ナナは空気を察したようにハルカの横から離れる。

「キシ」

 トモナリがハルカに声をかけながら膝をついて視線の高さを合わせる。

「…………せんぱぁい」

 顔を上げたハルカの目の下にはクマがある。

「……泣かせた」

「えっ、まさかトモナリ君がなにか?」

「いやぁ、あいつに限ってそんなことないだろ」

 トモナリを見てハルカは涙を滲ませる。
 横から見てたら完全にトモナリが泣かせている。

 ヒソヒソとした声がしっかり聞こえてきているが、今はそこにツッコんでいる場合じゃない。

「どうした? 何かあったのか?」

 トモナリが優しく声をかけても、ハルカは唇をキュッと結んで涙を堪える。

「言ってくれないと分からないぞ? 何かあるなら話してくれるか?」

「何かあった、というより……」

「というより?」

「何が起こるかもしれないんです」

「…………セカンドスキルを手に入れたな?」

「……はい」

 ハルカに何が起きたのか、トモナリは素早く理解した。

「なるほどな。会議室行こうか」

 人に聞かれない方がよさそうだと判断したトモナリは、課外活動部の会議室に場所を移した。
 他のみんなは入れず、トモナリとハルカ、それにヒカリだけとなる。

「未来予知のスキルだな?」

「…………よく分かりましたね」

 ハルカはハンカチでそっと涙を拭う。
 トモナリがズバリ言い当てたことにハルカは驚いてしまう。